
ワゴジャパン プロダクトマネージメント AUT/IF マネージャ 菅原 渉 氏
デジタル化が進む工場や製造現場では、データを流通させるため、今まで以上に安定品質かつ高信頼性のネットワークの重要性が高まっています。そのなかでワゴジャパンはマネージメントスイッチを活用したネットワーク構築を推奨し、立ち上げにかかるタクトタイムと、トラブルやその復旧にかかるダウンタイムの両方を削減できる提案を強化。特にネットワーク技術に詳しくないOT技術者でも容易に使え、製造現場に特化した機能・性能を持つ「リーンマネージメントスイッチ」を展開しています。

工場や製造現場のネットワークのいまとこれから、リーンマネージメントスイッチがもたらす価値について、ワゴジャパン プロダクトマネージメント AUT/IF マネージャ 菅原 渉 氏に話を聞きました。
製造現場におけるイーサネット化の進展
ーー最近、御社では端子台やコネクタ以外にもコントローラやネットワーク関連製品などにも力を入れています。
特に近年はネットワーク関連製品、特にイーサネットスイッチとその周辺製品群を強化し、お客様のクラウド連携や産業IoTの取り組みを支援する体制を整えています。
ーー確かに工場や製造現場におけるネットワークの役割は年々大きくなっています。
FA(ファクトリーオートメーション)に限らず、あらゆる産業でイーサネットベースのネットワークが急速に普及しています。FAでは、Modbus TCP/IPやEtherNet/IP、PROFINETといったEthernetベースのプロトコルが代表的ですし、より汎用的なイーサネット通信の採用も増えています。
ーー将来的にはPLCやコントローラがクラウド化やバーチャル化していくような予想もされています
将来的にPLCが仮想化されれば、I/O情報などは何らかのイーサネットベースのネットワークを介して収集されることになります。そうなるとトラフィックは増大し、ネットワークの信頼性や管理性がより一層求められるようになるでしょう。電力業界など他の産業分野でも似たような構想が進んでおり、高精度なタイムスタンプ情報やアナログデータなどの大容量データを高速に伝送することが今まで以上に求められるようになっていきます。そう考えると、今後ネットワークの重要性はますます高まっていくと見ています。
ワゴジャパンとネットワークスイッチ
ーー御社が産業用イーサネットスイッチをはじめたのはいつ頃ですか?
ワゴジャパンとして本格的にイーサネットスイッチの販売をはじめたのは、15年ほど前になります。製品を認知していただくのに時間がかかりましたが、コントローラ製品などで「WAGO」ブランドの製品に触れてもらう機会が増えるにつれ、ようやくネットワーク機器の方も知られるようになってきました。
ーー御社はネットワークスイッチメーカーとしては後発になります。他社との違いや御社の特長は?
まず当社のネットワークスイッチは、主にDINレールに取り付けできる産業用途向けの製品ラインアップとなります。IT側のエンタープライズ向けのものとは異なり、もっと製造現場に近いレイヤー、特に制御盤内や生産ラインでの使用を想定したネットワークスイッチが中心です。アンマネージドスイッチからマネージドスイッチまで幅広く取り揃えています。
「リーンマネージドスイッチ」という新たな提案
ーーいわゆるOT側の産業用のネットワークスイッチということですね
その通りです。なかでも特に当社ではマネージドスイッチのひとつとして「リーンマネージドスイッチ」をおすすめしています。
リーンマネージドスイッチとは、フルスペックのマネージドスイッチが持つ高度な機能のなかから、OT領域、製造現場のお客様が必要とする機能を絞り込み、かつITの専門知識がなくても直感的に取り扱えるように設計した特別仕様のネットワークスイッチとなります。
ITとOTの壁と言われるように、IT担当者はITやネットワーク、クラウド等には詳しいものの、製造現場や、センサやコントローラといった機器にはあまり詳しくありません。逆にOT側の生産技術部門や製造部門の人たちはPLCのラダープログラムは理解できても、ネットワーク構築やEthernet設定、トラブルシューティングになると途端に難しさを感じる人が多くいらっしゃいます。特にOT側の人々に向けてリーンマネージドスイッチをおすすめしており、とても好評です。
ーーリーンマネージドスイッチの採用メリットは?
リーンマネージドスイッチの最大の特長は、Webブラウザベースのグラフィカルなダッシュボードを備え、ネットワーク状態やトラブル発生が一目でわかり、対策や復旧が簡単かつ迅速に行えることです。
例えば「トポロジーマップ機能」を使うと、そのマネージドスイッチにどんな機器が接続されているのかを視覚的に把握できます。この機能を使えば、ラインが突然停止した時も異常発生とその発生箇所を素早く見つけて対処できます。例えばケーブルの断線箇所なども一目で分かります。
現場を助ける便利機能を豊富に搭載 セキュリティ対策にも有効
ーーそれは現場の担当者にとっても助かりますね
アンマネージドスイッチでは、何が原因で通信が途絶えたのかまでは分かりません。リーンマネージドスイッチのダッシュボードでは、各ポートの状態が色で表示され、異常があれば赤く表示され、直感的に問題を把握できます。
さらに「ポートリンクダウン統計機能」では、特定のポートで過去に何回リンクダウンが発生したかといった履歴も確認できます。例えばEthernetケーブル固定部の劣化による振動により瞬間的にネットワークが切れてしまうといったような、細かくて見過ごしがちですが、実はデータ欠損につながるような重大な問題の発見にも役立つ機能となっています。
また、「ポートミラーリング機能」を使えば、特定のポートを流れるパケットを別のポートにコピーして出力してパケットキャプチャツールで解析することが可能です。パケットレベルで状況を把握できれば問題を特定するまでのスピードが格段に早くなり、復旧や再発防止に役立ちます。実際、この機能は多くのお客様から好評です。
ダッシュボード上で、各ポートのパケット送受信数、ドロップ数、エラー数などを確認できます。例えばインバーターなどから発生するノイズの影響でパケットが破損してエラーが多発するといった状況も、これらの情報を基に推測することが可能です。単に「ネットワークにつながっている/つながっていない」という情報だけでなく、通信品質に関する詳細な情報を得ることができます。
ーーDXの進展によって、よりマネージドスイッチの重要性が増しているように感じます
マネージドスイッチは、サイバー攻撃からの自社を守るセキュリティの面からも有益です。「Syslog機能」は、リーンマネージドスイッチの設定インターフェイスに誰かが不正なアクセスを試みたり、設定を変更したといったログを外部サーバーに送信できる機能です。SNMP(Simple Network Management Protocol)に対応しているため、ネットワーク監視ツールと連携し、ネットワークスイッチの状態やトラフィック量を遠隔から監視することも可能です。製造現場を狙ったサイバー攻撃が増えているなかで、こうしたセキュリティ機能の重要性は今後ますます高まっていくでしょう。
また、マネージドスイッチならではの機能として「QoS(Quality of Service)」があります。これは、重要な通信(例えば制御信号)の優先度を上げ、そうでない通信(例えばデータ収集)の優先度を下げるといった制御を行うことでネットワーク全体の安定性を高める機能です。
ほかにも「VLAN(Virtual Local Area Network)」も重要な機能です。物理的には同じネットワーク上にありながら論理的に複数の独立したネットワークを構築できます。社内LANとデバッグ用の制御ネットワークを同じネットワークスイッチに接続する場合でも、VLANで分離することで、意図しない通信の混入を防ぎ、セキュリティを向上させることができます。
現場を良く知るメーカーによるネットワークスイッチ
ーー改めて御社のマネージドスイッチを導入するメリットは?
製造現場のネットワークに当社のマネージドスイッチを採用するメリットは、「装置立ち上げの迅速化」と「トラブル発生時の早期復旧と原因究明」が可能になるということです。
前にも述べた通り、OT技術者はネットワークに長けていないケースも多々あります。そのため通信がうまくいかず、その原因が分からないために装置立ち上げに時間がかかったり、復旧が長引くというケースがあります。それに対し当社のリーンマネージドスイッチやマネージドスイッチを使うことで問題箇所を迅速に特定し、ダウンタイムを最小限に抑えることができるようになります。
当社はもともと「電線と電線をつなぐ」という現場の物理層からスタートしたメーカーであり、製造現場で発生することや課題、ニーズを理解しているという自負があります。そこはIT側の機器メーカーやSIerとはアプローチが異なります。現場の担当者が使いやすく、メリットを感じてもらえるような製品開発をしており、導入ハードルが低く、お客様に寄り添った提案ができると考えています。
ネットワークの見える化がもたらす価値
ーー今後に向けて
これまでマネージドスイッチに対して、「難しそう」「自社の現場にはそこまでの機能は不要」といったイメージを持っている方もいると思います。しかし、今回紹介したリーンマネージドスイッチのように、現場のOT担当者の方でも比較的容易に扱え、かつ大きなメリットを享受できる製品も登場しています。まずはこうした製品に触れていただき、ネットワークの「見える化」がもたらす効果を実感していただきたいと思っています。
そして、将来的なPLCの仮想化やクラウド連携、さらにはサイバーセキュリティ対策といった、より高度なネットワーク活用が求められる時代に向け、今から少しずつステップアップして備えていって欲しいと考えています。
