【FAトップインタビュー】オムロン、18年ぶりにリニューアルしたスマート・パワーサプライ「S8AS2」電源と電子式サーキットプロテクタ、端子台を一体化 電力供給と保護、接続をまとめて1台で

左から:商品事業本部 コンポ事業部 制御コンポPMG 澤井 大介氏
開発部 第3開発課 鶴口 祐規氏
制御盤は、製造装置や生産ラインの頭脳であり心臓部。年々、機械の高機能化にともなって盤内に搭載される機器の数が増えるなか、盤内のDC24V機器を突発的な大電流から守り、電力を供給し続けることは、安定生産を守る上では欠かせない要素となっている。
オムロンのスマート・パワーサプライ「S8AS」は、電源と電子式サーキットプロテクタ(CP)、端子台を一体化したことによって制御盤の小型化と過電流保護、設計・製造の効率化を実現し、自動車業界を中心に長年愛されてきた。このほど18年ぶりに最新技術を取り入れ、さらなる小型化と高効率化を果たした新製品「S8AS2」として生まれ変わった。
そんなスマート・パワーサプライ「S8AS2」について、いまこのタイミングでリニューアルした理由と背景、S8AS2の特長と採用メリットについて、オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 コンポ事業部 制御コンポPMG 澤井 大介 氏と、開発部 第3開発課 鶴口 祐規 氏に話を聞いた。
日本でも広まりつつある電子式CPによるDC24V機器の保護
― ―制御盤の保護について、近年はサイバーセキュリティなどネットワーク通信や信号系の話題が多いですが、電力系、特に電源まわりの状況はいかがですか
一般的には制御盤の電源はメカニカル式CPで保護していると思いますが、最近は電源から先のDC24V機器を電子式CPで保護するという動きがじわじわと出てきています。ヨーロッパでは、設計段階から盤内の電子系統の保護機能、特に電子式CPが普及していますが、日本ではまだメカニカル式が主流でした。最近になってようやく電子式CPで回路を保護するという文化ができはじめている段階で、これから増えてくると見込んでいます。
― ―御社は電子式CPを使った電源保護は、かなり早くから取り組んでいた印象です
電子式CPはグローバルでも市場が立ち上がる早い時期から取り組んできました。これを一歩進めて、電源と電子式CP、端子台を一体化し、統合的に盤内機器を保護しようというスマート・パワーサプライ「S8AS」を発売したのも2007年で、とても早かったと思います。
電源とCP、端子台を一体化 画期的な製品「S8AS」
― ―S8ASとはどんな製品ですか
S8ASは、2007年に大手自動車メーカーからの要望を受けて開発した製品で、そのため型式名も「自動車業界向けの制御盤の電源のスタンダード」の意味を込めて「Automotive Standard」の頭文字をとってASが付けられています。それまで電源とCP、端子台は別々に存在し、それを組み合わせて保護するのが当たり前だったところを、電源とCP、端子台を一体化することで小型化・効率化した製品です。自動車業界を中心に多く採用され、長くご愛顧いただいている製品となります。
― ―ロングセラーとなっている理由は?
例えば設計工程では、一体化したことで全体としてコンパクトになっており、制御盤のレイアウトがしやすくなることと、電源と電子式CP、端子台の機種選定にかかる手間を省くことができる点が評価されています。
特に機種選定に関しては、電源とCPの最適な組み合わせと実機検証に手間がかかる上、これを誤るとCPが機能を発揮できないケースが発生します。
例えば、電源とCPが合っていないと、ある1系統で短絡故障が発生すると電源自身の過電流保護機能がCPよりも早く働いてしまい、短絡が起きていない他の健全な系統まで停止し、生産ライン全体を止めてしまうことがあります。しかもこの場合、どの系統が故障したのかも分からないので、復旧や修理は短絡箇所の特定から始めなければならず、時間がかかることになります。
それに対しS8ASは、内部でCPの遮断特性と電源の過電流保護特性を最適にマッチングさせているので、万が一短絡故障が発生しても、電源の過電流保護機能が働く前に故障した系統のCPが確実に検知して遮断し、全体の生産への影響を防ぐことができます。
― ―それ以外には?
ほかにも調達工程では一体型によって部品点数が減るので発注や受け入れの手間が省け、製造工程でも機器間配線が減り、煩雑な配線作業が少なくなるので作業効率化につながります。保守・保全部門についても、部品点数が少なくなって管理工数が減ることに加え、トラブル時にどの系統が短絡したかがすぐに分かるので復旧や修理を迅速に行えるようになります。
このように制御盤に関わるあらゆる工程に対してメリットがある点が高く評価され、使用環境の厳しい自動車業界で長く使われてきました。
リニューアルでさらなる小型化と高効率化
― ―18年ぶりにリニューアルした新製品「S8AS2」について
初代S8ASの発売から18年がたち、製造業を取り巻く環境は大きく変わりました。製造現場の人手不足の深刻化にともなって設備の自動化が進み、ネットワーク化や安全機能の強化など制御盤に求められる機能が年々高度化しています。本来、制御盤はどんどん小さくしていかなければいけないところを、高機能化にともなって機器点数が増え、そのおかげで盤内に機器を設置するスペースがなくなり、配線が複雑になって作業の手間と時間がかかるようになってきています。
これを受けて、S8ASの良いところは継承しつつ、当社が2016年から進めている「制御盤ソリューション」のコンセプトに合致させるようにして設計を見直し、新たなスマート・パワーサプライとしてリニューアルしたのが「S8AS2」となります。
― ―S8AS2では、どんな点を強化したのでしょうか
S8AS2は、「電源機能」と「保護機能」、「接続機能(端子台)」の3つが一体となっているのはS8ASと同じですが、これまでより大幅に小型化し、横幅はS8ASと比べても約半分になっています。そのため設置スペースも半分になり、スイッチング電源とメカニカル式CP、端子台を横に並べた場合と比較すると約1/3で済みます。
また、電源回路の状況や交換時期が表示部で簡単に確認でき、また異常箇所を判別できるなど、現場に配慮したデザインにもこだわりました。さらに、当社の他制御機器に合わせた黒を基調とした外観デザインに一新しました。制御盤の中に入って外からは見えない製品ですが、お客様からは「同じ使うならデザインが良い方がいい」とデザイン面も評価いただいています。
変換効率も向上し、もともと当社の電源のなかでもトップクラスの変換効率でしたが、今回はそれをさらに向上し、S8ASに比べて8%向上させています。
研究部門や技術部門と連携して最新技術を投入
― ―どのように小型化と高効率化をしたのですか?
小型化については、電子式CP部分の回路を今の技術に合わせてシンプルにし、初代S8ASの開発と18年のなかで培った「こう動作すべき」という設計思想や評価基準はしっかりと継承しながら、小型化しても同等以上の性能を満足できるように見直しました。
高効率化についても、LLC共振回路という高効率な電源回路技術の最適化と、次世代のパワーデバイス材料として注目されている窒化ガリウム(GaN)デバイスの採用、シミュレーション活用の3つの柱で取り組むことで達成しました。
GaNデバイスは、小型化や高効率化などの目的で民生品のACアダプタ等で使われて始めている新しいパワー半導体ですが、産業用電源で本格的に採用されるのはまだこれからとされています。それを今回は民生品とは異なるFA機器の信頼性基準で使えるように、全社横断組織のコーポレート機能部門と連携し、劣化モードや破壊モードを徹底的に評価した上で採用を決定しました。また、シミュレーション活用でも連携し、熱シミュレーションを駆使して部品配置やレイアウトを検討しました。さらにプロトタイプでの事前検証をしっかり行った上で開発をスタートしたことで開発期間の短縮と小型化を実現しました。
今回のリニューアルでは、こうした部門間の連携が大きく貢献したと思います。
― ―これまでのお客様は自動車業界が主でした
S8ASから継続して自動車業界のお客様がメインであることは変わりませんが、それ以外にも半導体や電子部品、バッテリー、飲食料品など、大型の生産設備や生産ラインが稼働するような現場にはこのS8AS2は適しています。大型装置だとトラブルの未然防止と早期復旧が特に重要であり、S8AS2では短絡箇所の特定が容易で、迅速な対応に効果的です。実際にロボットやアクチュエータを多用する設備、搭載する機器点数が多く、電源容量が大きなお客様から引き合いをいただいています。
新たなスタートの第一歩 自動車から他の業界へも展開へ
― ―今後に向けて
今はまさに人手不足を背景に、設計効率化、製造効率化、そして保全効率化へのニーズが現場から強く求められています。設計者も今まで以上に、生産部門や保全部門から「作りやすくして」「メンテナンスしやすくして」と要求される時代です。S8AS2は、そうした現代の課題に応えられる製品だと自負しています。
今回はまず、S8ASのリニューアル2機種(240W/480W)からスタートしました。今後、市場の反応が良ければ、さらにラインナップを拡大したり、ニーズに合わせて新たな機能を搭載したりといった展開も広げていきたいと考えています。
これまでS8AS2のASは「Automotive(自動車)」でしたが、将来的には業界を問わずどんなお客様にも使っていただけるようなラインナップを揃え、ASが「Automation(オートメーション) Standard」と呼ばれる製品に育てていきたいと思っています。
https://www.fa.omron.co.jp/product/promotion/s8as2/index.html
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