【FAトップインタビュー】Festo、創業100周年を迎えて 空気圧機器メーカーから総合オートメーション企業へ進化日本市場での挑戦とこれから

Festo(フエスト)は、ドイツの空気圧機器のトップメーカーとして知られているが、実際は電動アクチュエータなど電動機器や駆動・制御機器、デジタルサービスもポートフォリオとして揃え、しかもその展開先は、工場向けのファクトリーオートメーションはもちろん、プロセス系のプロセスオートメーション、ラボや研究機関などのラボオートメーション、医療機器など多岐に広がり、実際は「総合オートメーション企業」というのが正しい認識だ。
そんな同社も、1925年の創業からさまざまな苦難や変革を乗り越え、2025年に創業100年を迎え、100年企業の仲間入りをした。長年にわたって事業を成長し続けられた要因と日本市場への取り組みについて、グローバルセールスを統括するボードメンバーのフランク・ノッツ氏と、日本を含む北アジア地域を担当するゼネラルマネージャのトーマス・レキック氏に話を聞いた。
さまざまな変革を乗り越えて到達した現在地
― ―100周年を迎えて、率直な感想は?
100周年を迎えるまでに市場や技術などでさまざまな変革があり、社会課題も変わるなかで、それに対応してきました。市場に100年間存在し続けることは、非常に多くのことを正しくやってきた結果です。
1925年にもともと木材加工機械からはじまり、1950年代に空気圧機器ビジネスを開始し、1960年代には教育事業「Festo Didactic」という教育事業を立ち上げるなど、常に事業の軸足を変化させながら成長を続けてきました。近年は、空気圧・電動機器に加えてデジタル化技術も手掛ける総合オートメーション企業へと進化を遂げています。
― ―ここまで長くビジネスをやって来られた要因は?
成功の最大の要因となったのが、イノベーションと顧客との緊密な関係性です。顧客の課題に真摯に向き合い、常に一歩先を行く革新的な技術を追求してきたことが、100年という長い歴史を支えてきました。また非上場の家族経営であり、短期間の利益にとらわれず、長期的な視点で100年を見据えた経営判断ができることが、私たちの大きな強みとして発揮できたことだと思います。

さらなるイノベーションとオートメーションが必要な時代
― ―いま製造業は大きな変革期を迎えています
インダストリー4.0は多くの企業の現場で実装され、いまはインダストリー5.0という新たな変革に突入しています。デジタル技術とソフトウェアにAIを組み込むことで、さらに産業は変わっていきます。
消費者の意識はどんどんと変わり、食品や家電など次々と新しい製品が生まれてきています。一方で、労働人口が減り、電機や機械を学ぶ若い人が少なくなり、ブレインパワー、考える力が不足してきています。そのなかで製造現場が市場の動きに対応・追従するためには、今以上にフレキシビリティ性を高めなければならず、そのためにもイノベーションとオートメーションが今まで以上に不可欠になっているのです。
― ―そうした変化に対し、御社ではどう取り組んでいますか
空気圧機器の省エネ化に加え、電動機器のラインナップを拡充し、空気圧と電気の両方を提案できるようにすることで、さまざまなお客様の課題に対応できる幅が広がり、お客様のパートナーになれると思っています。
またデジタルとAIの技術を活用し、お客様が求める仕様に対して最適な製品を選定して提案するオンライン選定ツールを拡充し、サポートを強化しています。
日本では半導体産業へのアプローチを強化
― ―日本市場でのビジネスの状況を教えてください
日本は、韓国とともにノースアジアクラスターに位置する国であり、日本法人は50年弱、韓国は45年もの歴史があります。日本と韓国はいずれも自動車産業と半導体産業が盛んで、長きにわたって協力を続けてきました。今後も引き続きノウハウを共有し、シナジーを生み出していきます。例えばオペレーション面では、日本の横浜の拠点と韓国・ソウルの拠点、そして中国にある大規模なハブ工場を連携させて効率化も図っていきます。
特に重要視しているのが、日本と韓国が世界をリードしている半導体産業です。すでに何年も市場にアプローチを続けてきて、いま大きなチャンスがやってきています。その鍵を握っているのが「Controlled Pneumatics (コントロールド・ニューマティクス)」という、デジタル制御によって今までの空気圧機器よりもさらに精密な制御ができる次世代のデジタル空気圧技術です。電動と異なり、熱を発生させないのでウエハーやチップにダメージを与えずに搬送ができ、半導体半導体製造プロセスでとても高い評価をいただいています。この優位性を活かして提案を強化していきたいと思っています。
競合ひしめく日本市場 鍵は「Controlled Pneumatics」
― ―御社の強みは、空気圧、電動、制御、デジタルと自動化に必要な機器を幅広く取り扱っている総合力で、ここまでカバーできている企業は他にはありません。一方で、日本には御社の各事業領域で強力な競合企業が多くあり、グローバル市場ほど御社は存在感を発揮できていません。これからどのように存在感を出していこうと考えていますか?
確かに日本は強力な競合企業が支配的となっている難しい市場で、当社の存在感をどう発揮していくかは長年の課題でした。しかし、難易度が高いとされる半導体市場に注力して取り組んできた結果、少しずつ受け入れられるようになってきています。そのきっかけとなったのが、Controlled Pneumaticsです。他社にはない特別な技術で、唯一無二として評価いただいています。競合他社と同じようなものを出してもマーケットは受け入れてはくれません。彼らを上回らなければならないと考えています。とはいえ、簡単にコロッと変わることはないので、継続的にやっていくことで成功を目指します。
日本での存在感を高めていくには、パートナー企業とともに展示会に出たり、日本の市場に当社の技術と製品を見せて提案する機会を増やしていくことが必要です。12月にはセミコンジャパンに出展する予定です。
また、日本市場でのビジネスを拡大するための重要な鍵が「コラボレーション」です。業態を超えた企業同士や大学・スタートアップ企業との連携を強化することで、一社では解決が難しい高度な課題に取り組むことができます。実際に日本でも大学や研究所と協力し、当社の技術が日本の手術支援ロボットに採用された事例などもあります。日本の優れた技術とドイツの優れた技術を組み合わせることで、より高い価値を提供できると確信しています。

イノベーションを通じて日本産業の変革を支援する
― ―次の100年に向けてやるべきことは?
100年先のことを考えることは難しいですが、これから10年に関していえば、重要なのはお客様と親密な関係性を築くことです。お客様のどこに問題があるか、どんな課題を抱えているか、それに対してどう考えているかを理解して対処できるようにするリレーションシップが大切です。
― ―最後にまとめとして日本市場と日本のお客様に向けて
長年にわたる日本のお客様の信頼と支援に心から感謝しています。古くからのお客様では40年以上の付き合いになります。当社はイノベーションを起こす会社であり、日本のマーケットに付加価値をつけていく会社です。当社の製品や技術、ショーケースを見てもらう機会を増やし、信頼に値する企業であることを証明するため、全力を尽くしていきます。
また、日本の製造業が国内志向からグローバルスタンダードへと移行しており、当社にとって大きなビジネスチャンスとなっています。日本の産業界の抱える課題に対し、総合力と独自の技術でソリューションを提供し、市場の変革を牽引していきます。
