【FAトップインタビュー】三菱電機、インバータ市場の最前線 インバータの新境地を切り拓く新製品「FREQROL-D800」選びやすく、使いやすく、脱炭素にも効果的

トップランナー方式に代表されるようにモータまわりを効率化することは脱炭素、カーボンニュートラルに効果的とされる。その次の一手として期待されるのがインバータの採用だが、インバータ制御自体は古くからあり、FAなど主な用途ではすでに広く使われていることから、なかなか次のステップへと進んでいかないのが現状だ。
また、自動化が屋内外のさまざまな領域に広がるなか、速度とトルク制御を得意とするインバータ制御にかかる期待は大きい。
それに対し、小型で汎用、誰にでも使いやすいという手軽さを武器に、インバータの活用範囲を広げているのが、三菱電機のインバータ新製品「FREQROL-D800(D800)」だ。FAはもちろん、FA以外の領域、インドや中国など海外市場でも存在感を発揮している。
三菱電機 名古屋製作所 インバータシステム部 インバータ基本開発課長の加藤 昌則 氏と、営業部 インバータ課長 永井 憲一 氏、インバータ課 外山 正一郎 氏に、新製品D800とインバータ市場について話を聞いた。
選びやすく、使いやすい小型汎用インバータ「D800」
――新製品「D800」の概要と特長について
インバータはモータの周波数と電圧を自在に変えることで速度やトルクを制御する駆動機器で、ものづくりの工場だけでなく、社会インフラや生活施設など非常に幅広い分野で使われています。新たに発売を開始したD800は、当社のインバータ製品群の中で「小型・普及機」にあたるモデルとなります。
当社は1981年に初号機を発売して以来、40年以上にわたってインバータを展開しており、現在は第6世代にあたる「800シリーズ」が主力となっています。高性能な「A800」、小型で高性能な「E800」に続き、この小型・普及機の「D800」によって800シリーズのラインナップが揃った形になります。
D800は、インバータを初めて使う人や専門家でない人でも「選びやすく、使いやすい」ことを重視し、前モデルでは汎用インバータと空調用インバータで別機種だったものを1台に統合し、他社のモータも駆動できるようにすることで、使いやすさと選びやすさを高めています。また配線やセットアップなど簡単にすることで誰でも使いこなすことができ、USB Type-Cコネクタの標準装備によって、インバータ本体の電源を入れることなく、PCからUSB経由で給電(バスパワー供給)してパラメータ設定ができ、現場でのセットアップ作業を大幅に効率化できるようになっています。
また予防保全機能も搭載し、例えばファンの目詰まりによる回転数低下やベルトの緩みによる速度変動といったモータや装置の異常の予兆をインバータが検知し、大きな故障が発生する前にお知らせします。これによりお客様の設備の安定稼働に貢献します。
小型なので盤も小型化でき、お客様の装置全体の省スペース化にも繋がります。

実は意外と使われていないインバータ 省エネを切り口に普及促進
――インバータは主な機械にはすでに付いているという意見がある一方、実はそこまで普及していないという声もあります。実際のところはいかがでしょうか?
JEMA(日本電機工業会)の2022年の調査では、国内のインバータ装着率は約25%と推計されています。コンベアのようなFA用途であったり、大型のモータではインバータ制御が当たり前になっていますが、小型のモータではまだ普及が進んでおらず、まだまだインバータが貢献できる余地が大きいと考えています。
普及に向けた課題の一つに、導入時の費用対効果がお客様に伝わりにくい点があります。トップダウンで省エネを進めるよう指示があっても「実際にインバータを導入してどれだけの効果があるのか」が分かりにくく、導入に踏み切れないケースが少なくありません。
――そうした状況を打破するために、どのような取り組みをしていますか?
現在、JEMAやその会員企業の皆様と連携し、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)を通じて、国の省エネルギー投資促進支援事業費補助金の対象にインバータ単体を追加いただくよう働きかけを行なっています。現状インバータは、高効率なトップランナーモータとセットの場合、補助金の対象になりますが、加えてインバータ単体の場合でも対象となれば、普及が加速すると期待しています。
また、ビルや商業施設におけるZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)化の動きはインバータ普及にとって追い風となっています。新しい建物では、再生可能エネルギー設備や高効率空調と並び、ファンやポンプを制御する省エネ機器としてインバータが標準的に採用されるケースがここ数年で確実に増えています。
D800は、こうしたビル設備で使われるような小型モータにも最適な製品です。専門家でない方でも簡単に導入・設定できるという特長を活かし、インバータの普及をさらに広げていきたいと考えています。

世界のインバータ市場は成長途上 今後も大幅な成長見込む
――グローバル市場でのインバータの状況はいかがでしょうか。
グローバルで見れば、インバータ市場は間違いなく成長を続けており、D800は日本だけでなく、中国とインドの拠点でも今年度から生産を開始し、拡販を強化していきます。
特にインドはこれから重工業やインフラ整備が本格化する段階であり、制御・環境の両面でインバータの需要が大きく伸びていくと見ています。欧米では環境意識の高まりから、より高度な省エネニーズに応える必要があり、インバータの出番が期待できます。800シリーズの幅広いラインナップが揃ったことで、こうした世界各国の多様な事情やニーズに柔軟に対応できる基盤が整いました。
FA以外の領域に新たなチャンスの芽
――ビルオートメーションもそうですが、FA以外の領域に普及のチャンスがありそうです
非常に面白い視点だと思います。例えば、サーボモータは主に屋内のクリーンな環境で精密な「位置決め」を行うのが得意です。一方、インバータは「速度」や「トルク(力)」を制御するもので、屋外の過酷な環境で使われることも少なくありません。それぞれの特長を活かして使い分けていくことが大事だと思います。
最近では、環境負荷やメンテナンス性の観点から、建設機械や農業機械などで使われる油圧システムを電動化する動きが進んでいます。そうした用途では、エンコーダ(位置検出器)の設置が難しい場合も多く、エンコーダレスで高トルク制御ができるインバータがキーコンポーネントとなり得ます。
FA領域の自動化がある程度進んだ今、次のフロンティアは「屋外のオートメーション」かもしれません。そうした非FA領域において、インバータが果たす役割はますます大きくなっていくと考えています。当社でも盤レスで使えるIP保護等級の高い「A806シリーズ」、「E846シリーズ」のようなインバータを既にラインナップしており、今後も厳しい環境要求に応えられる製品を開発していきます。
豊富なラインナップを活かしてグローバルで提案強化
――今後について
800シリーズという強力なラインナップが完成したことで、世界中のお客様に貢献できる下地がようやく整ったと感じています。今後は、この製品群をグローバルに展開していくことはもちろん、次の世代を見据え、さらに世界の市場動向やお客様の潜在的なニーズを汲み取った製品開発を進めていきます。インバータのグローバルサプライヤーとして、ものづくりから社会インフラ、そして人々の暮らしまで、世界のあらゆる場面を支えていけるよう、これからも挑戦を続けていきます。
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/drv/inv/index.html
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