【FA時評⑫】経験が活かされないSCM

学生時代、大阪の総合スーパーマーケットで、商品の検品と品出し作業のアルバイトをやっていたことがある。早朝に入荷した商品が納品書と一致しているかを照合し売り場まで運ぶ作業で、筆者は主に衣料品を担当していた。

1973年の秋頃、スーパーマーケットの店頭に何十人という人が並んで開店を待っていた。「トイレットペーパー騒動」の始まりである。第4次中東戦争での原油価格の上昇を背景にした政府の紙の節約の呼びかけが、『紙がなくなる』という噂になり、トイレットペーパーの買い占めに発展したのだ。開店と同時にトイレットペーパーの棚はあっという間に空になり、次々と押し寄せるお客さんで店内は大混乱に陥った。買い占めはトイレットペーパーだけでなく、洗剤や砂糖などにも波及し、価格も高騰したが、法的な緊急処置で騒動は約半年で収まった。約50年前は、現在のようなインターネットやSNSなどのメディアは当然存在せず、テレビ・ラジオ・新聞と口コミが中心の時代である。

そして約半世紀が経過し、多様な情報伝達手段が発達したいま、製造業は物不足後の後遺症に苦しんでいる。2019年12月頃から感染が広まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とロシア・ウクライナ戦争などの影響により、国内外で生産が計画通りの進まなくなって納期遅れが生じ、原材料価格の高騰も進み調達コストは上昇を続けた結果、SCM(サプライチェーンマネジメント)はずたずたになった。マスク不足は記憶に新しいが、製造業は半導体やコネクタなどの電子部品が入手難になり、樹脂や鋼材価格は高騰。メーカーや商社は、納期は未定、価格見積りはできないといった状態が継続し、受注残だけが異常に積み上がった。製造業での納期遅延はさほど珍しくはなく、過去に時々発生したことがあるが、それでも一部の製品、特定の業種での出来事で、20年~22年にかけての納期遅延は、全製品領域、全業種に及んでおり、非常に珍しい事象であった。結局22年秋頃まで約2年半続いた。

この騒動中の営業の仕事は、新規開拓ではなく納期管理と製品探しが主となり、積み上がる受注残との格闘でもあった。この間、営業や購買担当者からは聞こえてきたのは『2年先の注文処理をやっている』、『インターネットで求めている製品を探し、見つければ定価の100倍でも買う』、『キャンセルを防ぐために、先に製品代金をいただき、納品は半年後にしている』といった声である。しかし、一方の頭の片隅では『実需以上の注文で、ダブル、トリプル発注の可能性が高い』という、過去の品不足時の経験を学習して警戒していた人も多かった。

いま、FAメーカー・商社の23年12月期通期や24年3月期第3四半期の決算が発表されているが、総じて前年同期を大きく下回っているところが多い。各社それぞれの事情はあるが、共通しているのは、ユーザー在庫と流通在庫の読み違いが大きな要因となっている。極端ではあるが、2年先の注文を受けて納品していれば、その在庫が消化されない限り、2年間は注文がなく、売り上げが立たないということになる。しかも、FAメーカー、商社の中には、現在ユーザーにどれぐらいの在庫があるのかを把握していないところが圧倒的に多い。

SCMの考えは、注文と連動して機械が生産を始めるのが理想であるのだが、そこまでいかなくても、実需との極端な乖離は警戒すべき事象である。50年前のインターネットやSNSなどがなかった時代の口コミは、ひとつの手段として影響力を有していたのかもしれないが、これだけ多種多用の情報手段が発達した時代に、このような事態が発生するというSCMの在り方も一度考える必要がある。

19年にネジ不足で建物が建たないという騒動があったが、いままた電線が足りず、工事ができないという問題が生じている。首を傾げる現象であるが、コンピュータ上から見える表面上の数字でなく、現場にいってその数字が正しい実需を示しているのかを確認する作業も必要なのかもしれない。

(ものづくり・Jp株式会社 オートメーション新聞 会長 藤井裕雄)

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