令和の販売員心得 黒川想介 (85)

街を歩いていて、道を尋ねている光景をほとんど見かけなくなった。たまに交番で道を尋ねている様子を見かけるが若者ではない。内気な人や他人の手を煩わせたくないと思う人がスマホを片手に街並みと見比べながら奮闘していた光景はわずか10数年前のことである。今では地図アプリは見やすくなって誰も彼もがスマホを使用する。ひょっとすると10代の頃からスマホで育った若者は他人に道を尋ねることを知らなくなっているのかもしれない。少なくとも親しくない他人に尋ねることは迷惑行為だと思っているようだ。地図アプリだけでなく便利なアプリが登場し日常生活で必要な情報が次々と目の前に現れるから、他人との接触なしに過ごす時間がますます多くなっている。だから他人との出合いを大事にしようということで一期一会というむずかしい言葉が妙によく使われ出した。それに必要な情報は常にそばにあるため情報に関する感度は鈍くなっている。機器部品営業も情報に関する感度は同じである。昭和の客先開拓期は販売員の情報に関する感度は強かった。客先開拓活動の第一歩はそこに工場があったから新聞で〇〇を作っている会社があることを知って訪問してみるところから始まった。うまくいけば電気や機械を担当する人が出てきてくれた。しかしその会社や工場では〇〇を作っていること位しかわからず、それ以外には何の情報もない状況だった。そんな中で当初は情報提供としてカタログを出し、PRに努めた。しかし大半は使ってないからと言われ引っ込んでしまった。親切に聞いて質問してくれる人もいたがそれっきりだった。そんな経験を何度もしてわかった事は相手の懐に飛び込まなくて始まらないことを知った。そのためには相手が話をしてくれる様にしむけることであり質問をすることだった。

だからと言っても知らない間柄なのに矢継ぎ早に質問しても販売員に話す義理はないから、うるさがる。それで、相手が話をしてくれそうな話題を見つけること、つまり工場の敷地入ったらあらゆる注意を払って観察する事が相手の情報入手の第一歩であることを知った。例えば敷地内に入ると花壇にきれいな花が咲いている。あの花は何という花かと思いながら事務所に入る。仕掛品や材料の端数が積まれている。何に使うのか、なぜ端数が多いのか。待つ間に壁にかけられた絵画や標語、会社の行事案内が目に入る。必死な観察を基にして出てきてくれた人に話しかけて接近していくのが成功の一歩であった。情報は役に立てるために入手するものである。だから何のために情報を入手するのかという目的によって情報かどうかが決まってくる。客数がまだ少ない開拓期であったから売上を上げていくには一社でも多くの顧客が必要だった。とにかく客先にもぐり込むのが先決であった。そのためには面会に出て来てくれた人と友好関係を作るのが面会の目的であり、前途のような観察が重要な情報だった。現在の営業から新規客開拓活動がなくなったわけではない。販売員に「なぜ大変な目をして新規客開拓をするのか」と問えば売上を上げるためと答える。これでは現在の営業事情からすれば動機付けが弱い。だから新規客開拓は開拓ではなく新規客への拡販活動になってしまい、テーマが見えないと活動終了となる。現実は顧客にならなければ商談テーマは発生しない。そう考えると名刺交換したら何としても食いつこうとするはずだ。自ずと観察から入る情報の重要さがわかる。日頃から訪問する顧客の物事を無駄に見てるのではなくよく観察していれば見る力が養われる。見る力は相手から情報を入手する大きな一歩となる。

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