【産業用ロボットを巡る 光と影(41)】裁判沙汰を防ぐために打つ手とは?失敗を恐れチャレンジしないことが生産効率UPを阻む!

筆者の記事は、産業用ロボットを購入する側(顧客側)のための内容がほとんどだが、今回は売る側であるSIer(システムインテグレータ)にも読んでほしい。

某SIerと某顧客との裁判

先日、筆者の知り合いで謀SIerの取締役をしている人から「うちの溶接ロボットシステムを導入した企業から訴えられ、ようやく和解した」という話を聞いた。裁判沙汰の話は、まず表に出ないので、この記事の読者は「裁判になるのはよほどの理由か?」と驚かれたかも知れないが、実はロボットシステムの世界では良くある話で、最近は特に多い。なぜなら「ロボットで省人化・効率化」という言葉が、(最近は特に)一人歩きをしている割に、ロボットを導入する際の「注意点」や「何が必要か」などのノウハウを知っている人が皆無に近いからだ。ロボットの素人が「ロボットシステムを買えば、技術者の代わりになる」という安易な考えで導入し、「話と違う」と怒り出すパターンが多い。

この裁判も、まさに典型的な例である。結末からいうと、全体の金額の3~4割ほどの和解金をSIerが顧客に支払う形で終結したそうだ。SIerは儲けが全て吹き飛び、顧客は数千万円でをドブに捨てたことになった。では、なぜこのような問題が起きたのであろうか? SIerと顧客の「裁判での主張」と「失態」をそれぞれを述べる。

顧客の「裁判での主張」と「失態」

溶接ロボットシステムを購入した顧客の主張であるが、「『溶接工の代わりに、ロボットを導入したい』とSIerにお願いした」「しかし、納品されたロボットの溶接の質があまりにひどく、妥協できないレベル」とのことだ。

この顧客の最大の失態が、「溶接ロボットは良く耳にするので、導入すれば溶接工の代わりになると安易に発注したこと」と、 (筆者の以前の記事でも述べたが)「SIerに訪ねる前にご意見番(ロボットのプロ)を相談しなかったこと」である。もし、筆者に相談してくれれば、まず顧客に「加工(溶接、切断、バリ取り、研磨、など)のロボット化の中で、溶接が最も難しい部類に入ること」を説明する。なぜ難しいかというと、溶接ロボットの世界は非常に複雑で、「溶接電源」ひとつとってもの種類や質が様々であり、その「溶接電源の操作」つまり「電流・電圧の操作」をどのようにするかで溶接に大きな違いが出る。特に難関なのがTIG溶接で、電流・電圧を変化させながら溶接をする必要があり「溶接させながら電流・電圧を何%にする」などのアプリケーションを「ロボットのコントローラー」が持っていないと、溶接の質が「妥協できないレベル」になってしまうであろう。もちろん、TIG以外の溶接なら簡単というわけでなない。つまり、「溶接電源メーカー」「ロボットメーカー」の選択を間違えたら、その時点で手の施しほうがなくなることがある。さらに「溶接電源」以外でも、溶接ヘッドをどうするか?ワイヤーをどうするか?などなど、溶接ロボットはとても奥が深いので、決して「テレビやYouTubeで見た」などの安易な考えは持たないことだ。

もうひとつの失態が、「ロボットでの溶接テスト」をSIerに要求しなかったことである。これも筆者の以前の記事に記載したが、ロボットで溶接すると熟練の溶接工と比べてどれくらいのレベルまで実現できるか?を様々なパターンで試すことである。最も重要なポイントなので、「お金」と「時間」をかけても要求するべきである。

SIerの「裁判での主張」と「失態」

このSIerは、「溶接ロボットシステム」をホームページに記載している企業である。にもかかわらず、このSIerの主張であるが、「見積書に『溶接の質は補償しない』と記載したし、顧客に説明もした」である。疑問に思うのが、溶接電源メーカーは日本に数社しかないので、このSIerが製造しないのは仕方がないとしても、顧客にマッチする「溶接電源」「溶接ヘッド」「ロボットメーカー」などを選定して卸すことが、このSIerの仕事なのではないか?そうでないのであれば、このSIerは「適当な溶接電源などを選択し、ロボットと電気的・機械的につなげる作業をしただけ」になってしまう。たとえ顧客向けに(ロボットの補佐をする)外部軸を製作したとしても、それは「サーボモータ」と「減速機」から作製しただけであって、肝心な溶接のノウハウではない。つまり、このSIerには溶接のノウハウはなかったことになる。

このSIerの失態は、「実は溶接のノウハウはないこと」「もし、溶接の質を要求するなら金と時間がかけてテストを行う必要があること」を正直に(伝わるまで)顧客に話さなかったことだ。前述の「記載した」「説明した」も顧客に伝わらなければ意味が無い。このSIerの営業は、顧客にとって耳触りの良いことだけを述べたのだろう。なぜ筆者がそう思ったのかというと、実はこのSIerの営業課長と別の仕事で話をしたことがあるが、「どうしたら、利益をあげられるか?」の話ばかりで筆者はとても気分が悪かったからだ。筆者はこのSIerに「顧客はロボットシステムそのものが欲しいのではなく、省人化・効率化を成功させたい」のであり、「その『成功』の対価を、販売側は頂ける」と強く言いたい。

「チャレンジしないこと」「ご意見番を軽視」が生産効率UPは阻む

今回の記事を読んで「ロボット化は失敗のリスクが高い」と怖くなった人がいるかもしれないが、実はその考え方が最大にリスクである。前述した両社は取り返しのつかない最悪の例である。また、これからの世の中、ロボット化は避けられない。であれば、一刻も早くロボット化のチャレンジをするべきである。チャレンジすることで起きた失敗から、出来る限りの良い落としどころを探る努力をし続けることで、企業としてもノウハウが増える。

そこで重要なのが、自力ではリスクが高いし、時間がかかるので、当社のようなノウハウをもつご意見番を頼りにすること。ご意見番から得た情報は金額にすると何千万・何億円以上の価値があることを認識しなければならない。海外では「目に見えない情報ほど、価値がある」が当たり前だが、日本では「目に見えない情報なんか、価値は無い」という愚かな考えをもつ人が上に立っているため、なかなか生産効率が上がらないのである。

◆山下夏樹(やましたなつき)

富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。

福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。

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