【提言】劣化列島日本/希望と勇気⑥『悪い円安』と『悪いリモートワーク』

『提言!日本の製造業再起動に向けて』の本年度(2022年)は、劣化列島日本をテーマとしたシリーズを寄稿しているが、シリーズ6回目となる本稿では、突然日本に襲いかかる円安やコロナ禍によるリモートワークを取り上げ、中小製造業への影響や経営課題をテーマとしたい。

異常事態というべき為替の急変が日本列島を揺れ動かしている。『悪い円安』といった言葉が流行語となるなど、一部のメディアや野党政治家は、金利上昇を拒む日銀や政権を激しく批判している。当社(アルファTKG)も急速な円安が経営を直撃している。インドにある自社の開発センターでは、60人ほどの技術者がソフト開発に従事しているが、その人件費支払いの円安差損は膨大で、利益の大幅下方修正が余儀なくされている。『悪い円安』の論調に同調し、恨み節を論じたいと思うが、突然現れた円安にどう立ち向かうのか?に立ち返り、円安の要因と中小製造業の今後の対応について考察したい。

円安要因については、各メディアでは判を押したように「日米金利差」が指摘されている。円安是正のために日本でも『金利を上げるべきだ!』との声も多く聞くが、劣化列島の現状を無視した(現実離れの)無責任論調ではないだろうか? 一方では、労働形態を一変させる報道が話題をさらっている。NTTがリモートワークを推奨し、勤務場所を自宅とし、『日本全国好きなところに行け! 出社は出張扱い。航空機利用もOK』との方針を発表した。『コロナ禍を先取りした英断』と称賛される一方で、『GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)など米国の情報技術企業に敗れ、今日も従業員の流出が止まらないNTTの苦肉の策』との声も聞く。18万人の従業員を擁する巨大企業であり日本の労働意識を大切にすべきNTTの決断は、『人気取りの決断だ! 従業員のリストラの前哨戦だ!』と揶揄(やゆ)されても不思議はない。テスラ社のイーロン・マスク氏が従業員に対して、『出社かクビか』とリモートワークを完全否定した事の正反対である。

Web1.0で破れ、Web2.0ではGAFAに完全敗北したNTTが、Web3(ウエブ・スリー)で起死回生し、日本の再起動の役割を果たすべき巨大企業であることは明白である。このためには、社員が一丸となって(社員同士が協力し)共通目的に向かって事に当たることが必須であり、イノベーション実現にリモートワークが無力であることは明白のはずである。NTTの従業員がこの話を真に受けて、『沖縄や北海道に家を買って……』を現実に行動に移したら、数年先に職を失い、路頭に迷う危険も考えねばならない。24年にはNTTが専用に築いたPSTN(公衆交換電話網)が、汎用IP網に変わり固定電話が終焉(しゅうえん)を迎える。NTTには膨大な従業員を抱え続ける経営秘策があるのだろうか? 国家的大企業NTTに限らず、戦後創業者によって築かれた大企業は、オーナー経営者からサラリーマン経営者に移行し、その経営判断には理解できないことが多い。

円安の根本的原因には、大企業の経営劣化による日本の競争力低下が潜んでいるのではないだろうか。円安は、輸出型大企業に富をもたらす特効薬であり、日本のGDPを底上げする。1985年のプラザ合意以降、米国主導の「日本いじめ」とも言える「円高誘導」で日本は国際競争力を失ってきたのは明白である。30年以上の年月をかけて再び復活した「円安環境」を『悪い円安』と批判するのは筋違いである。米国は中露戦略などの観点から、円安を容認する姿勢を貫いている。

「円安時代の到来」で日本製造業の再起動に活路が開かれているが、再起動への絶対条件は「強いイノベーションの推進」と「国内製造の強化」に尽きる。どちらも若いエネルギーの「強調と団結」によってもたらされるものであり、大企業がどっしりと腰を据えて日本国内に錨をおろし、次世代の新技術開発に情熱を注ぐことが必須条件である。円安の恩恵を享受し、再び『JAPAN as №1』を目指すチャンスがやってきているのに、大企業のリモートワーク施策がその芽を摘んでしまいかねない。ところが幸いなことに、日本のマジョリティーは中堅・中小製造業であり、リモートワークなどお花畑的発想はまったくなく、多くの経営者はDX化による経営改革を率先垂範して進め、自動化を視野に入れた次世代工場の構築を急いでいる。

直接輸出する力が弱い中小製造業では円安の直接的メリットは少なく、逆に電気代や鋼材価格の高騰で、足元では経営を圧迫している側面が大きいが、円安時代の経営戦略に着手する企業も現れてきた。これらの企業での経営戦略の柱は、円安とDXを味方につけることであり、具体的には、『輸出型自社商品の開発』と『Web3』の先取り導入である。当社も数社の中堅中小製造業のプロジェクトに参加しているが、これらの企業では社員のモチベーションも高く、若い社員が高い熱量を発散し推進している。 

前述のNTTでは、若い社員が退職し、GAFAに再就職する流れが止まらないと聞く。日本の大企業に勤務する社員が、海外企業に転職するのは真に国益の損失である。多くの若い優秀な社員が将来有望な中堅中小製造業に転職し、将来の日本を築き上げることを切に願う。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。

電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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