「製造領域での AI 適用と工場IoTデータ活用基盤としてのクラウド利用」グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 製造業担当 インダストリー ディレクター 澤近 房雄

製造業の将来を支える製造領域での AI 活用とクラウドのニーズ

少子高齢化による就労人口の減少というわが国の社会的な課題に際して、将来にわたって国内製造業の生産力を維持、発展させるためには、先進的な技術適用による業務の効率化が必須となる。中でもAIの製造領域での適用により、熟練者のスキルを補ったり、従来自動化が不可能とされた領域や、設定に非常に手間がかかった調整などが効率的に行えるようになることが期待されている。特に、人間の視覚を代替するビジョンAIは、近年の技術的な発展により、AIによる自動化が期待されている代表的な領域である。

ところが、このビジョンAIを実現するための機械学習のモデルを生成させるためには、一時的に膨大なコンピュータによる計算力が必要になる。しかし、いったん機械学習のモデルができてしまえば、それを実行するための軽微な計算力のみ必要で、次回、機械学習のモデルを更新するまでは大きな計算力は不要となる。このような一時的に必要とされる計算力の実装には、専用のコンピュータを購入して適用するよりも、必要なタイミングでコンピューティングリソースの動的な割り当てが行えるパブリッククラウドが向いている。

今日、AIを活用した制御機器など工場領域でのAIを活用したさまざまなソリューションが各社から提供されつつある。ここで重要なことは、ただ単に同じ機能を実現するためにAIを使っているからという理由で、すべての同じ機能のAIソリューションが全く同じかというと、そうではないということである。つまり、今後は機能面とともに、AIの使いやすさや性能など、非機能面の特性にも着目して、ソリューションの選択を行うべきといえる。

例えばAIを活用した外観検査においては、複雑なコンピュータプログラミングの技能やAIに関する知識を習得する必要なく、画面操作による簡単な設定だけで、AI画像検査システムの導入できるような使いやすいシステムはAIの導入を加速させる。

また、不適合品を100%検出することに加えて、適合品を不適合と誤認することが低減できれば、さらに作業者の負荷を減らすことができる。単なる合否判定だけではなく、不適合の種類(キズ、変色、異物の付着など)と不適合箇所の位置についての情報もデータ化して提供されることによって、不適合品の後処理やデータ分析も効率化できる。

今後は、さまざまな分野でより使いやすく性能の良いAIが作業者を苦役から開放し、熟練者の後継を担うことで、生産性の高い工場経営に貢献することが期待されている。(図1)

(図1:AIを活用した外観検査イメージの例)

工場IoTデータ活用の基盤を提供し、スマートな生産を実現するためのクラウド活用

AIに代表されるような高度なデータ活用に限らず、工場IoTを活用した簡単な視覚化や統計解析によるデータ活用を行うためには、使い勝手の良いデータ基盤を整備することが成功の鍵となる。ところが、工場向けにデータ基盤を導入する際、高額な投資に対する導入効果が明確にできないため経営層からの支持が得られなかったり、構想が大きくなりすぎて頓挫するケースが多く見受けられる。結果的に、部分的に適用された複数の細切れのIoTシステムが分断されて配置され大きな効果を狙うことが難しい状況が多く見られる。

そこでクラウドサービスを使って、大きな初期投資なしで、まず小さくデータ基盤を導入して、少しずつ効果を出しながら徐々に大きなしくみに拡張していくようなアプローチに期待がよせられている。クラウドサービスを活用して、試しに小規模なトライアルから適用を開始する。基本的に従量課金なので比較的少額な経費として決裁を受けることが可能となる。トライアルで効果が見えたら、さらに大きくシステムを拡張して、より大きな効果を求めることができる。逆に特定の課題で効果が見えなければ、使用を終了して、別の課題に取り組むことが可能となる。(注:LAN敷設など現場の工事への最小限の初期投資は必要)

とはいえクラウドの導入には手間がかかるという印象を持たれているユーザーも多いのではないだろうか。ここで、クラウドサービスには主に3種類の提供形態があり、各々工場IoTデータの基盤として導入する際には異なる特性をもっていることを認識する必要がある。
・SaaS(サース:Software as a Service)
・PaaS(パース:Platform as a Service)
・IaaS(イアース:Infrastructure as a Service)

初期の工場IoTのシステムのクラウド実装は、IaaSが提供する仮想サーバのOS上に今まで工場に設置されていたシステムをそのままクラウドへ移行する方式や、PaaSを使用してリファレンスアーキテクチュア通りにシステムを構築するカスタム実装による方式が主流であったため、柔軟性はあるものの導入に手間がかかっていた。今後は最小限の手間で導入可能で、SaaSをベースにしたサービス提供が工場向けのクラウド適用の主流となっていくと想定される。

つまり、すでにクラウド上に準備されている工場IoTのシステムに対して簡単な設定を行うだけで、工場に設置されているさまざまなエッジ側のソリューションと連動して動作することが可能になる。これらのユースケースは、前出の外観検査の自動化や、データおよびKPIの視覚化や統計解析に加え、設備の異常検知、予兆保全、インラインの品質管理、不適合要因の分析などがあげられる。すぐに使えることで、早々に効果を出すことができるため、クラウドサービスの適用によるスマートな生産が加速することが期待されている。(図2)
 

(図2:クラウドサービスが提供する工場IoTデータ活用基盤の例)

ここでセキュリティ面での懸念からクラウドの導入を躊躇(ちゅうちょ)するケースが見受けられる。しかし、最も信頼性が要求される金融分野や、重要な社会インフラにおいてもパブリッククラウドが採用されている状況を見れば、セキュリティ面での問題がないことは自明といえる。むしろ、今後はセキュリティを強化するためにも、高速な応答性が求められる制御系の信号処理以外はクラウドへの移行が加速すると予想される。すでにセキュリティを含むクラウドに対する総合的な評価基準として、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP イスマップ:https://www.ismap.go.jp/csm)も認証を開始した。

このような認証基準を参照し、パブリッククラウドは全てセキュリティが心配と短絡的に考えるのではなく、適切な仕組みでセキュリティを担保しているクラウドサービスを選択して、正しく使用することは決して難しいことではない。

「データの民主化」がもたらす新しいデータドリブンな工場経営

従来、工場IoTのデータ活用には、都度、専任の担当者が分析対象となるデータの収集と整理を行い、データの準備に非常に手間がかかっていた。ところが、SaaSとしてのクラウドサービスを活用することで、工場IoTデータ活用のための基盤とともに、常に最新の機能や性能を実装したツール類がすぐに活用できる環境が提供されるようになった。これらのツールは非常に使いやすいかたちで提供されるため、専任のデータサイエンティストでなくとも、製造に携わるすべてのヒトがデータ活用することで、各々の役割において適切な意思決定を行うことができるようになる。

このような仕組みによって、誰もが必要なときに標準化されたデータ基盤上のデータにアクセスして、即、活用する環境が整い「データの民主化」が促進される。そして、一部の熟練者の暗黙知に委ねられていた業務が、データ分析によって形式知化されることで自動化される。客観的なデータに基づくコミュニケーションによって、生産業務と管理業務が結び付けられて、真に経営インパクトを生むデータドリブンな工場経営の実施が普及・促進されることが期待されている。(図3)

(図3:操業データと経営・品質・生産情報を関連付けて分析し、提供されるインサイトによって適切なアクションを実行、データドリブンな工場経営の実現)

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