【日本の製造業再起動に向けて(82)】茹でガエル危機⑩テレビ神話崩壊と専門紙の役割

『さすがNHKよね!』とは数年前に他界した私の母親の口癖であった。

母がNHKに抱く信頼は絶大で、年老いた母親にとってNHKの番組が世間を知る唯一の窓口であった。私の母に限らず、多くのに日本人(特にお年寄り)にとってNHKの報道は、疑うことのない真実の声として国民に受け入れられてきたのも事実である。民放番組と比較し、NHKの番組には品格もあり、多くの人々に愛されてきたことも事実である。

連載『茹でガエル危機』もいよいよ最終章を迎えることになった。第10話となる最終章でNHK批判を繰り広げるつもりは毛頭ないが、残念ながらNHKを始めとしたメディアの劣化が『茹でガエル危機』の震源地となっていることから最終章を進めていきたい。特に、コロナ禍が始まってからの2年間、日々テレビで繰り広げられるコロナ報道は、報道劣化の代表例といっても過言ではない。一日中テレビを見ている高齢者の間では、テレビで連日繰り広げるコロナ報道によって過剰不安に襲われ、自宅に引きこもる人が増大した。

『怖い・怖い』に洗脳された人数は数知れず、異常な社会現象を引き起こしている。テレビ大好き人間が感染する「テレビウイルス」の蔓延である。残念ながら、NHKを始めメディアの報道を真に受けていたら、世間知らずの『茹でガエル』となってしまう。茹でガエル危機に触れないためには、『テレビを見ないこと』が最高の特効薬であるが、『若者はテレビを見ない』といった社会現象が急速に進んでいるため、若者がテレビウイルスに感染することがなかったのは幸いである。若者に限らず、テレビ離れは急速に進んでいる。半面でNetflixは市民権を得ており、YouTubeに代表される動画配信は拡大の一途である。テレビ離れはどこまで進むのか? コロナ禍で傷ついた飲食や観光産業などは、いずれ昔の活況を取り戻すだろうが、人々のテレビ離れがもとに戻ることはないだろう。

一方で、新聞離れも深刻である。先日、東北にある超一流の精密板金企業を視察した。その会社では社会インフラに供する製品を製造販売しているが、その一つがマンション向けの宅配ロッカーで、1万個近く製造している。電子化された各戸向けの郵便ポストがマンションの入り口に設置されるのだが、分厚い新聞を入れるスペースはない。マンションが林立する都会で新聞の購読者が増えることはあり得ない。かつて、新聞といえば強引な売り込みが定番であった。洗濯せっけんなどの必需品をサービスしながら、新聞購読の契約を取り歩く営業の姿を今はあまり見かけない。セキュリティーの厳しいマンションなどで、強引な営業活動はもはやできなくなった。

近未来の社会では、新聞紙は消滅するだろう。『昔、新聞紙というものがあったらしいな』と言われる時代がやってくるのは明白である。テレビや新聞が姿を消していく時代の流れの中で、依然として一日中テレビを見て、朝になったら新聞に目を通す「昭和スタイル」が、茹でガエルの代表例となるだろう。われわれの情報収集活動も、「昭和スタイル」から「令和スタイル」に大きく変わっていく必要性がある。では、どんなスタイルが「令和スタイル」なのか? を考察したい。

オートメーション新聞は、新聞紙に印刷された情報であるが、オートメーション新聞では新聞紙離れの対策として、興味深いチャレンジを行っている。その挑戦とは、PDFを無償でダウンロードすることに踏み切った事である。もちろん新聞を購読する企業に限ってであるが、ダウンロード人数に制限をかけないという思い切った施策である。数千円の新聞購読料だけで、何千人の従業員に無償でPDFダウンロードが可能なので、購読者が一気に増えている。テレワークで家にいても、出張先でも場所と時間に制約を受けず、新聞が読めるというメリットが大好評を博している。新聞を回覧板のように社員が回し読みする必要もないので、購読者にとっては良いことずくめであるが、当の新聞社の収益は大丈夫だろうかと思い、オートメーション新聞社の会長に尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「購読者が一気に増えたことで引き合いの数が増え、デジタル変革を通じてサービスの可能性が広がった」とのことである。既にオートメーション新聞のPDFダウンロード数は、購読者数をはるかに超えている。SNSに拡散される数多くの情報は、ニュースソースも曖昧で情報の確実性に乏しいものもあり、これをわれわれが選別することは難しいが、オートメーション新聞のような業界に特化した権威ある新聞社からの情報が、自由に閲覧できることは素晴らしいことである。われわれ製造業に特化した専門紙誌も数多く存在し、どの専門紙誌も歴史があり、取材力もある。紙依存の時代が消滅したあとに現れるデジタル情報社会では、オートメーション新聞の挑戦が大いに参考になる。

テレビや新聞が時代の流れで消え去ることは、決して社会のためにはならない。強い取材力を持って専門的で良質な情報を多方面から報道し続けることが令和スタイルであり、新たな情報社会のあり方である。われわれが茹でガエルにならないためには、質の高い情報が必要である。このためにも専門各紙の取材力と発信力がますます重要となる。プロの専門各紙が昭和スタイルにしがみつき、(専門性も取材力もない)素人のユーチューバーがPV(ページビュー)で成功する歪な現在を変えていくことが、茹でガエル危機を乗り越える有効手段である。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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