製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望【特別版】

2020年5月27日

在宅勤務の技術者に求められる成果とは
「技術情報発信型マーケティング」で貢献を

 

COVID−19の影響により在宅勤務(テレワーク)が続く現在。労働環境の激変は技術職である技術者の働き方にも大きな影響を与えています。

このような環境下において、試行錯誤をしながら企業の運営を継続するというのは、過去の知見がほとんど参考にならないということもあり、まさに難題の一つといえます。

今日のコラムでは在宅勤務が続く現状において、技術者がどのような成果をもって企業に貢献すべきなのか、ということについて考えてみたいと思います。

 

在宅勤務が困難な製造現場での技術者

技術者の中で明らかに在宅勤務が不可能な職種があります。その代表例が、「製造現場での技術者」です。製造現場は、素材や材料の搬入から始まり、それを成形、加工するために設備を動かす、出荷前の検査のため検査機器を動かす、といったオフサイトでの対応がほぼ不可能な職種です。

近年はオートメーション技術が進化したため、ルーティンといえる業務は自動化が進んできてはいますが、顧客要望の多様化や時代の変化のスピードの向上などにより、カスタムメードをベースとした対応も必要な場合が非常に多い。カスタムメードの製品製造においては、その多くがいきなり工程の大部分を自動化することは極めて困難であり、やはり技術者がある程度密にかかわりながら各種工程パラメータの最適化を行うのが一般的です。仮に定常業務であったとしても、予想困難な設備の故障やチョコ停、設備の稼働前後の点検など、技術者の関わる必要のある事態や業務はゼロにはならないのが実情といえます。

そのため、現在のような在宅勤務が必須といわれる状況にあっても、製造現場の技術者は今まで通りの勤務を継続するのが一般的であり、またそれが企業として求められていることです。

急激な感染症拡大を避けるため、できる限り同時に多くの技術者が同時勤務とならないようにすることを目的としたシフト制(時間や曜日をずらす)を組んでいる企業もありますが、基本は今までの製造を続けることが企業存続の基本であることに疑いの余地は無いでしょう。

 

在宅勤務が求められる技術者の中で困難に直面するのは研究開発担当の技術者

その一方で在宅勤務をするにあたり、困難に直面すると想像される職種があります。それは、「研究開発」という業種です。機械系であれば図面を書く、各種試験を行う、化学、薬学、生物系であれば化学実験や分析を行うといった部門です。

時代の変化や顧客要望に応じて新しい製品を生み出すのが企業における「研究開発」の根幹ですが、このような先行き不透明な状況になると資金的な余裕に加え、社内に加え、株主などの要望によって経営者の気持ち的な余裕がない企業から、研究開発の予算を削減する方向に向かうのは世の常とも言えます。株主も雇用維持を主軸とした企業存続を優先させたい、という気持ちが出る程、現状は混乱期にあるとも言えます。雇用維持を優先する際の原資が研究開発予算から捻出するというのは想像に難くありません。このような社内情勢により、「研究開発担当の技術者は仕事がなくなりつつある(思うように仕事ができなくなりつつある)」という状況下に置かれるケースが増えています。

そして多くの技術者が「このような在宅勤務を続けていても先が無い」ということを理解し始めています。自粛だけの生活に未来はなく、その限られた環境で前進するために何が必要かを考え、実行するという行動の必要性が急激に高まる今の社会状況と同じだからです。

在宅勤務でうまく業務成果を出せている技術者は恐らく少数派です(言い方を変えると在宅勤務で成果を出せている研究開発担当技術者は幸運とも言えます)。なぜならば多くの製造業の研究開発担当の技術者は、実験をする、試験をするといった技術的事象を捉える業務を行わないと、新しい技術的知見が得られないからです。大学の研究でも工学系の研究は理学系のそれと比較し、予算や人手が必要なのと似ている側面があります。しかし今の在宅勤務では実験や試験を行うこともままならないのです。

これは誰が悪いというわけではありません。急激に変化する経済環境を上司や経営者のせいにするのは誰でもできますが、今は不平不満を言っても何も解決しません。こういう時こそ新しいものを生み出すという「研究開発」という職種の技術者が、今までと異なる考え方で日々の業務を見直し、所属する企業への貢献方法について考えるべきでしょう。

では、研究開発担当の技術者はどのようにこの状況下で成果を生み出すべきなのでしょうか。結論から言うと、「技術情報発信型マーケティングの実践」というのが答えになります。

技術情報発信型マーケティングというのは、マーケティング活動の一種といえます。しかし、世の中で多く語られるマーケティングとは異なり「技術を知っている技術者しかできない」という所がポイントになります。技術情報発信型マーケティングについてポイントを順に説明していきます。

 

発信するのは研究開発担当技術者が行ってきた日々の業務に関する内容

技術情報発信型マーケティングというと特別なことをやらなくてはいけない、という印象を持ってしまうかもしれませんが、自分が知らないこと、または本で読んだだけの付け焼き刃的な知識は発信すべき技術情報としては不適切です。

技術者の発信する技術情報で最も読者に響くのは、「技術者が日々の研究開発業務で行ってきたことの技術的な基本部分」です。自分で頭、手、足を動かして蓄積してきた経験、いわゆる「知恵」というものが発信する情報としては最適です。人から聞いた話、自分ではやったことのない話は説得力に欠けます。これは、自分が読み手になればわかることだと思います。

そしてここでのポイントは、「機密に触れるようなノウハウ的な部分ではなく、技術的な本質、普遍的な事実を述べる」ということです。顧客ニーズのような機密に触れる情報を発信するのはコンプライアンスに違反します。しかし、それに向けて行った技術評価というのは必ず技術的な理論に基づくことが含まれています。古典的な理論で言えば教科書に書かれるような内容というイメージです。内容としてはこのような日々の研究開発業務に関することを書くということが、技術情報発信型マーケティング理解の第一歩です。

 

技術的な本質を述べる際には必ず自らの経験に基づいた考察を加える

上記のように教科書に書かれるような技術的な内容を技術情報として発信する、というと本当に教科書や専門書をコピーしたような内容をイメージする技術者の方が多いようですが、それは違います。技術情報発信型マーケティングで大切なのは「言及する技術的事実に加え、その事実に対し”自分はどのように考えるのか”という考察を付与する」ということです。

教科書や専門書に出ていることを知りたい人はそれほど多くありません。技術者としての真価が問われるのは「技術者である自分として、技術的理論をどう考えるか」という部分です。その考察を述べるにあたっては個々の技術者が有する自らの経験というものがものを言うでしょう。

当社の顧問先でも技術報告書の指導を行うにあたっては、基本的な書き方ができてきた技術者の方から順に「考察の深化」を強く求めます。その背景にあるのは、技術情報発信型マーケティングを行うにあたり、基本となるのは結局「技術者の考えを反映した考察である」という信念なのです。このように技術的な本質に、技術者の考察を付与した文章は唯一無二のものとなります。物まねではなく、自らの経験や考えに基づいた考察を加えることで初めて技術情報発信型マーケティングとしての価値がでてくるのです。

いずれにしても業務効率ばかりを求め、自らの頭や手足を使わずに仕事を進めてこない(丸投げする)、そして技術的本質を突き詰めてこなかった技術者はこの考察が書けません。在宅勤務は上記のように技術者の日々の過ごし方の違いをあぶりだす劇薬とも言えます。

 

技術情報発信型マーケティングに使う文章は書く前に必ず「企画」を作る

「イノベーションと企画力」という過去のコラムでも述べたように、対外的に発信する文章はいきなり書き始めてはいけません。まずは企画という発信する文章の骨子を決めることが第一歩なのです。

この企画を進めるにあたって重要なのは、「読者目線」です。これは、実際に内容を読むのが外部の人物である以上、読み手の意識をできていない独りよがりな文章は読者の目に留まらないということがその背景にあります。ただ、不必要に読者の喜びそうなことや、技術的事実に反する内容を書くというのは絶対に避けなくてはいけません。あくまで、発信する情報は技術的本質と、間違っている可能性はゼロではないがその文章を書いた技術者の経験や考えに基づく自身の考えです。いずれにしてもまずは企画を作り、それを複数で見ながらターゲットする読者に理解してもらえる内容か否かをよく確認することが重要です。

 

技術情報は平易かつ端的な文章をベースに、画像とグラフを組み合わせ、広告的な内容は伏せる

企画が問題ないとなったら、実際に書き始めます。この際、当然ながら技術的な内容が多く含まれますが、その専門用語はできるだけ避け、使う場合は解説を入れるなどします。これは、従来ターゲットとなってきた顧客以外の「異業種」の顧客開拓を目的にしています。自社製品に潜在的なニーズを持っている顧客が、発信する専門用語に対して知識があるかはわかりません。できる限りわかりやすい文章で発信することが、その情報の浸透力と浸透範囲を広げることになります。

また、文章に加え、図、グラフといった視覚的にとらえられるよう工夫します。情報量は活字よりも画像の方が高い、という人間の認識能力を踏まえた対応です。

そして技術情報発信型マーケティングにおける発信情報はあくまで技術的な内容に絞り、自社製品やサービスの宣伝的な内容は控えることもポイントです。これは宣伝的な内容だと後述する機関紙などへの寄稿が難しくなることがその背景にあります。

 

発信する技術情報はアナログとデジタルの両輪で

発信する情報はWebをはじめとしたデジタルに加え、必ず雑誌や専門書、印刷物といったアナログでも行うことがポイントになります。情報の信頼性という観点からも未だデジタルはアナログにかないません。

特に閉塞感漂う昨今は正確性に疑問符のつくような個人向けの情報があふれ、質が低下する傾向にあります。きちんとした情報を取ろうとする人物ほど、アナログを重視する傾向があることも踏まえるとアナログの重要性は外せません。

アナログの具体例としては、機関誌への寄稿などが一例です。技術系の機関紙の中には今、常に最新の技術情報に関する掲載情報を求める雑誌が多いため、技術的情報の軸が明確であればその技術を題名に付与している機関誌もあるため、見つけやすいと思います。掲載してもらう機関誌を通じた業界技術向上に貢献する内容での寄稿が求められていることを理解し、上述の通り宣伝広告の色を抑えた上で、あくまで技術的な情報とその考察を発信するように心がけることが重要です。

 

継続的に発信する

技術情報発信型マーケティングで重要なのは「継続すること」です。月に1回、年に数回でも構いません。しかし、一度決めたら継続することが極めて重要です。技術情報発信型マーケティングにおいて、その情報が浸透するには必ず時間がかかります。単発で終わっては、浸透しきる前に忘れられてしまうのです。

そのため、継続的に技術情報を発信し、この技術に関してはこの企業であるという印象付けをすることがポイントになります。

 

市場からの応答に耳を傾ける

そしてこのような情報発信を続けていると市場からの応答が出始めます。この市場応答こそが、研究開発担当の技術者が在宅勤務でも出せる最も重要な成果ともいえる、「市場ニーズ」となります。この市場ニーズこそが、独りよがりになりがちな企業の技術者を、「市場のニーズを把握した上でテーマ企画をする」という研究開発精度向上に直結する極めて重要な成果となります。

つまり、技術情報発信型マーケティングの流れは、自社の技術の強みをわかりやすく発信→該当する技術が課題解決に結びつくと考える顧客の掘り起こしとなっているのです。

 

技術者が日々の業務を技術報告書にまとめるという技術の蓄積がされているか否かが分かれ道

研究開発担当の技術者が出せる成果として極めて大切なものの一つが、「技術情報発信型マーケティングを通じた顧客ニーズ把握である」ということを述べてきました。そして、このようなことを初速度を高めて取り組むには、日々の研究開発業務に関する技術報告書という活字媒体での蓄積の有無が大きな分かれ道となります。技術情報発信をするにあたり、どの情報を発信するのかを企画する必要があります。

この際、技術報告書のような全体を俯瞰するものが無いと発信すべき情報をどれにするか選択することは困難でしょう。結果的に発信する技術情報がありきたりなものになり、顧客ニーズを引き出す力に不足する可能性もあります。また、過去にやった研究開発業務の多くは、自分で行ったことであっても忘れられることも多いことに加え、記憶に着色をされている可能性もあるため技術的事実と異なる解釈となっている恐れもあります。技術報告書という過去の結果や考察を明確に記録したものが無いと、技術的事実さえトレースすることが困難になるのです。

やはり、日々、地道に研究開発業務の結果や考察を技術報告書の形でまとめるということを技術者が行ってきたのか否か、ということが大きな違いとして出てくるのです。

研究開発に携わる技術者の多くが、今、岐路に立っているとも言えます。自分は技術職だから技術のことだけやればいい、残業代がいくらもらえるのだろうか、といった従来の技術者のスタンスでは企業も雇用維持ができなくなりつつあります。

特に研究開発を担当する技術者は今すぐにでも思考を変え、在宅勤務という限られた環境下であったとしても、企業に所属しているのであればその企業に対してどのような成果で貢献できるのか、ということを今まで以上に真剣に考え、そして必要な行動を起こさなくてはいけないでしょう。

何から手を付けて良いのかわからないという技術者の場合、今回ご紹介した技術情報発信型マーケティングに取り組むのであれば、今までやった業務を技術報告書にまとめるというのも一案です。考えて立ち止まるよりも、一歩でも早く動き出す積極性とスピード感が不可欠です。

技術者はあふれる情報に惑わされることなく、あくまで技術という強みの軸をぶらさず、自らのこれまで培ってきた知見や経験をどう生かせばいいか、という自分軸での考え方が必須といえます。

ご参考になれば幸いです。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。