産業用ロボットを巡る 光と影(25)

2020年4月15日

なぜ補助金で失敗する企業が増加するのか?(上)

大学教授や有名SIerは信じてよいのか?

 

補助金をばらまいても生産効率が上がらない

現在、経済産業省・中小企業庁などがさまざまな補助金を出しています。私は2年半ほど前にこのコラムで、補助金を活用できた(生産性を上げる事ができた)企業とできなかった企業がある事、そしてその原因を記載しました。

 

補助金が無駄になった一例

残念ながら現在でも、補助金が採択されても生産効率が上がらない、それどころかロボットが埃をかぶっている企業が非常に多いです。もし、このまま現状が放置されれば、何年たっても、日本の生産効率はまったく上がらない事は火を見るより明らかです。

先日も、金型の加工を行っているある中小企業から「補助金でロボットシステムを導入したが、依頼したSIerに問題があるので、助けてほしい」と依頼があり、その工場に駆けつけました。

そのロボットシステムはSIerから納入されて数週間以上たっているにもかかわらず、埃をかぶっていました。(この企業の名前が分かってしまうので、あまり詳しく記載できませんが)このロボットシステムは、『今まで人が手で行っていた金型の加工をロボット化する』という名目で補助金が採択されました。特に申請書で画期的とうたっていたのが、カメラがスキャンした金型のデータからSIerが提供したソフトでロボットを動かすプログラムが作られる事です。しかし実際は、このソフトにはそのような機能は無く、既存のプログラムを補正する事しか出来ない事が発覚しました。となると、この企業はプログラムを自分で作るしかありません。私が以前に記載した通り、加工のプログラムの作成は非常に困難なため、このロボットシステムが埃をかぶっていたのでした。

では、なぜこのような事態になってしまったのでしょうか?

 

なぜ補助金が無駄になったのか?

1つ目の理由は、この企業が知り合いの大学の教授から紹介されたSIerを100%信じてしまった事です。しかも、このSIerは日本に現在12社しかいない『SIer協会の幹事』のため、まったく疑わなかったそうです。

2つめの理由は、発注前にロボットでテストをまったく行っていなかった事です。多くのロボット初心者の誤解は、特に日本人は「ロボットは取りあえず導入すれば何とかなる」です。ロボットは他のマシニングセンターのような設備とは全く違います。汎用性が高いため、素人がコンサルタント無しで導入すると痛い目に合う事が多いです。

スポット溶接・ハンドリング等と違い、加工になると急に難易度が上がります。したがって、必ず『自社のワーク』『本番に近い環境』でテストを行い、納得のいく結果をその目で確認をした後に発注をすべきでした。

 

6000万円以上の設備が無駄に!

ではこの設備、いくらかかったかというと、6000万円以上です。そして、私がこのSIerの見積もりで特に気になったのが、前述したソフトの金額です。6000万円の内2000万円がソフトの金額になっていました。私は疑問に思い、このソフトの見積もりを(まったく同じ内容で)調査したところ、なんと800万円でした。つまり、国から補助金が出る事を見越して800万円のソフトを2000万円にする『補助金あるある』です。これで本当に生産効率を上がればまだ良いのですが、現場でまったく役に立たないと目も当てられません。

さらにソフトだけでなくハードも同様で、ロボットの先端に取り付ける加工ヘッドも、実際の価値よりも明らかに高額でした。
 お金の事より致命的なのが、このSIerが「我々のソフトで出来ます!」とハッキリ言った同じ口で(設備の納品後に)「我々のソフトではちょっと…」と言った事です。しかも、責任を取るそぶりも見せなかったそうです。

 

補助金が逆効果

この一例は氷山の一角に過ぎず、多くの企業が補助金で導入したロボットシステムが埃をかぶっています。なお、この中小企業は解決策を探るために富士ロボットに助けを求めただけまだマシで、ほとんどの企業は諦めてしまい、また手作業に戻ってしまいます。つまり、補助金で喜ぶのはSIerと紹介料をもらう大学教授だけで、ものづくりの現場は生産効率が上がらないどころか、無駄な時間とお金を費やしただけ、という逆効果になっています。

次回は、なぜこのような大学教授やSIerが日本に多く存在するのか?)

 

◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。46歳。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。