令和の販売員心得 黒川想介 (13)

2019年12月18日

現場の「やりとり」で覚えた昭和
平成は「顧客ありき」がベースに

営業部門に配属になる人は学卒の新人だけではなく、他部門から転属してくる人もいる。最近、途中入社の販売員も多くなった。途中入社の販売員の中には営業経験者だけでなく営業未経験者もいる。営業経験者の中にも、同じ機器や部品業界から来た人もいれば、全く違った業界からの転社組もいる。特に昨今は違った業界から入ってくる人が多くなった。かくの如く、現在の機器や部品の販売員は様々な生い立ちを持っている。

同じ業界からの転社組でそこそこの経験がある人は、早々に即戦力として現場に出るが、その他の人が担当客を持つまでには一定の販売教育期間を必要とする。販売員にはできるだけ早く現場に出て一円でも多く稼いでもらいたいと会社は思う。しかし、営業は色々な人がいるから人間関係構築は厄介で時間がかかる。それを踏まえて、顧客に迷惑をかけない販売員を速成するプログラムを作る。

一般的には商品や商品の流れを教えた後に、OJT教育として顧客へ先輩達と同行する。顧客に多少慣れてくれば、顧客から依頼されたサンプル・商品・資料などを一人で届けさせて顧客とのコミュニケーションに慣れてもらう。そのような慣らし運転をさせながら、顧客に迷惑が掛からなくなったと判断すれば、販売員に担当顧客を持たせるという段取りである。その後、メーカーの商品研修やセミナーに参加したり、展示会見学に行ったりして一人前の販売員になっていく。このような販売員育成が平成時代における一般的なものである。

 

それでは、この業界の黎明期である昭和時代の販売員教育はどうであったか。黎明期の販売員教育も、一日でも早く現場に出てもらいたかったのは同じであったし、一人前にするのには徐々に育成し、一定の期間を要することも同じであった。しかし大きく違っているのは、教育の出発点となる基本的なところである。

平成時代の販売員教育は「顧客ありき」がベースになっている。新人販売員と顧客の間には人間関係はできていないが、顧客と販売店の間にはビジネス上の信頼関係ができている。だから新人販売員が顧客に迷惑をかけて、顧客と販売店の良い関係を壊してしまわないように教育をしてから現場に出している。現場では、顧客との間でビジネス用件のやり取りを通して人間関係が深まることを覚えてもらうのが平成の販売育成である。

昭和の黎明期には顧客はまだ少なかったため、取引のない見込み客への訪問活動が通常のルーチンワークの一部になっていた。だから当時の教えの中には、新しく出会う人への接近の仕方や新しく出会った人との絡み方があった。商品知識のレクチャーは簡単に済ませ、後は現場とやり取りの中で覚えていくのが昭和黎明期の販売員育成であった。

 

両者を比べてみると、人間関係構築の仕方の違いがわかる。平成期では顧客ありきからのスタートだから、利害関係がうまくいっている中での人間関係づくりということになる。だから新規見込み客との間では、人間関係をどうやって作るのかがわからないと言ってもいい。

昭和の黎明期では、一般社会で見知らぬ人に接近していくことをベースとしてつくられたものだった。だから初めての見込み客へのアプローチの基本中の基本から丁寧に教え込まれた。

それはまず第一に、出合い頭の印象に関して悪い印象を与えてはいけないところから始まった。(イ)服装(ロ)態度・礼儀(ハ)表情、特に笑顔(ニ)語り口調の話し方(ホ)相手がこの販売員と話しやすいと感じさせる傾聴の仕方、などをOJTでも教えていた。現在の販売員は、意外にも営業の基本中の基本をあまり重要視しているようには見えない。