産業用ロボットを巡る 光と影(22)

なぜ最近、ロボット導入の失敗が急増しているのか?

ティーチングの問題解決を後回しにすると取り返しがつかない!

最近急増している相談内容

弊社(富士ロボット)は、ロボットのティーチングの工数を大幅に削減するソフトを販売しており、多くのお客さまから「思った以上に使えて助かっています!」と高い評価を全国から頂いております。その口コミから、最近はロボットの導入に悩まれているお客さまから「うちの会社の問題も解決してほしい。コンサルタントをしてほしい」とご相談を受ける事が増えてきました。

まず、ご相談をくださる会社のロボット導入の『用途』ですが、組み付け・運搬などの『ハンドリング』ではなく、アーク溶接・肉盛り・バリ取り・研磨・カット(トリミング)・穴あけ・ローラーヘーム・溶射などの『加工』がほとんどです。理由は、詳しくは後述しますが『ハンドリング』よりも『加工』のティーチングの方が圧倒的に難しいからです。

そして、ご相談の『内容』ですが、以下のパターンが多いです。

①ロボットメーカーから、「このワークであればティーチングが1日や2日でできる」と言われたからロボットと周辺機器を発注したのに、いざティーチングをしてみると外注のプロのティーチングマンでも、2週間かかってしまう

②システムインテグレーター(SIer)から、「1週間でティーチングは完了できます、お任せください」と言われたのに、実機を導入後、SIerがティーチングに5週間以上を要した

①②の両方のお客さまたちは口をそろえて「モデルチェンジの時に、ティーチングで長期間ロボットを止める事になるので、システムとして使い物にならない」もしくは「ティーチング費用がかなり高額になるので、償却ができない」と悔しそうに言われます。

なぜこのような問題が急増?

では、なぜこのような問題が最近、急増しているのでしょうか?

1つ目に、ロボットを導入される企業が加工のティーチングを軽く見ている事。2つ目に、ロボットの販売におけるハンドリングの用途が頭打ちになってきた事。

1つ目については、ハンドリングと比べると、加工のティーチングは点数が多いだけでなく、求められる精度はコンマ何ミリの世界です。さらにツール(ヘッド)姿勢が加工品の出来栄えに大きな影響を与えます。

実は、大変なのはそれだけではなく、ティーチングの途中で『リミットオーバー(ロボットの軸の許容範囲を超えてしまう事)』『特異点(ロボットが制御できなくなり、暴走してしまう姿勢)』『干渉(ロボットと治具がぶつかる事、など)』の問題もあります。これは結構やっかいな問題で、その箇所だけを修正するのではなく、ティーチングをかなりさかのぼってやり直す必要が発生し、これを繰り返す工数が多大である事はよく聞く話です。

このように加工のティーチングは、ティーチングを5年以上やっているプロ中のプロでも、多くの工数を要するのです。決して「とりあえず、ロボットシステムを導入すれば、何とかなるだろう」と安易な決断をしてはいけません。

特に日本人の経営者は、古いものづくり思考が強く、大きな設備が導入されるだけで満足してしまう傾向があるので注意が必要です。

2つ目については、20年以上前から続いている、ハンドリングやスポット溶接のような『ティーチングの点数が少ない』『一度ティーチングを行えば、数年間使える』というロボット導入の案件は頭打ちになってきました。

その半面、今まで人で行ってきた加工作業をロボット化したい要望が急増しています。理由は、最近の『働き方改革』『技術者の高齢化』に対応しなくてはならないためです。ロボットメーカーやSIerにとって、今後、売り上げを落とさないためには後者にもロボット設備を販売しなくてはなりません。

しかし、ティーチング問題がネックになります。それを、顧客に正直に話をしてしまうと、顧客から「そんなにティーチングに時間がかかるのであれば、発注はできない」と破談になってしまいます。よって顧客に「ティーチングは安易にできます」とつい言ってしまう例が多いようです。

これを読まれた方は「顧客は検収しなければ良いのでは?」と思われるかもしれませんが、ロボットが納入された段階で喜んで検収してしまう顧客がほとんどのため、ティーチング問題が発覚した時には手遅れという事です。

導入の失敗を回避&短期間で償却する方法は?

では、どうすればこのような失敗を回避し、短期間で償却できるようになるでしょうか?

結論から申し上げると『ロボットの導入はティーチングが鍵だから、ティーチング問題をどう解決するか?』を先に考えるべきです。

『ティーチングが鍵』というのは私の持論ではなく、ロボットを導入された企業、ロボットの関係者が皆さま、口をそろえて「間違いなく最も重要」と言われます。ところが日本のロボットメーカーやSIerは、ハード面には強いですが、ソフト面はとても弱いです。

よって、まずはティーチングの問題を解決している優秀なティーチングソフト会社を見つけ(販売の実績数ではなく、解決した実績数を重視してください)、その会社に「どのようなロボット設備がよいのでしょうか?」と謙虚に相談される事が重要です。

『謙虚』という表現を使った理由は、前回私の記事に記載した通り、日本人は情報やソフトを軽んじる傾向があり、ソフト会社に対し「買ってやる」と謙虚な姿勢を取れない経営者が多いからです。それでは、ソフト会社と連携がうまくいかず、ソフトと相性の悪い設備の導入をしてしまいます。例えば、ロボットメーカーや外部軸がそのソフトで対応できない場合、そのロボット設備は文字通り『埃を被る』という最悪の状況になってしまいます。

ソフト会社をリスペクトすることは、ロボットの導入が上手な海外では当たり前で、特に海外の経営者は「所詮、ハードだけでは鉄の塊に過ぎない」「ソフト会社を大事に思う事、ハードより先にソフト会社に相談する事は当たり前だ」と言われます。弊社でよろしければ、全力で対応をさせていただきますので、遠慮なくご相談くださいませ。

◆山下夏樹
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com)代表取締役。1973年生まれ。産業用ロボットコンサルタント。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。自社のオフラインティーチングソフトでさまざまな現場で産業用ロボットのティーチング工数を10分の1にするなど、生産効率UPを実現してきた。さまざまな現場での問題解決の方法を知る、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「とりあえず無償相談から」の窓口を設けている。

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