製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (30)

2019年11月6日

技術評価業務の定性的・主観的報告を改善するためには

技術者の特徴的な資質の一つに「思い込みが強い」というものがあります。国際的にも珍しい「理系」という考えのもと専門教育を施すことが、その背景にあるのかもしれません。思い込みが強いというと悪い印象を持つ方が多いかもしれませんが、一度ギアが入ると徹底的に仕事を突き詰めようとするところもあり、仕事を進めるうえでは強みになる場合もあります。ただそのような強みの裏返しとして、課題がないわけではありません。

今日のコラムでは思い込みが強いということによる課題と、その解決方法について考えてみたいと思います。

 

思い込みが強いことによる最大の弊害は「定性的・主観的」な報告

技術者にとっての報告の大部分を占めるのは「実験・試験」といった技術評価業務を通じて得られる「結果の報告」です。この業務の基本中の基本をきちんと進められるか否かということで、技術者としての価値が決まる、といっても過言ではありません。しかしながら、思い込みが強い場合、その結果が報告者によって無意識に変質させられる場合があります。

例えば樹脂材料の引張試験を行ったとします。この試験ではおよそこのくらいの弾性率、強度が発現すると予想できたとします。しかし、結果が予想したよりも50%以上低い(または高い)という結果が得られたとします。

「試験規格にのっとってきちんと評価をした結果がこれだ」そんな報告を受けるでしょう。強度や弾性率は定量的に評価ができるため、ここに主観が入ることはありません。しかし、実はこの試験では材料試験に用いる材料の成形方法が不適切で、樹脂がきちんと硬化していない状態だった、また試験片を試験機に固定したときに試験片が斜めについていた。そんな可能性はゼロではありません。このような問題は強度や弾性率のデータだけではわかりません。

 

また、化合物の合成を行うケースを考えてみましょう。化合物合成時に通常では想定できない沈殿物が出たとします。これについて、「合成実験の後、少しして白い粉状のものが沈殿した」という報告を受けたとします。その際、この沈殿物は合成実験の後、具体的にどのくらいの時間が経過したのか。また白い粉状のものというのは本当に白いのか。さらに言うとこの沈殿物はどのくらいの量なのか。上記のような「定量的かつ客観的な報告」が欲しいと思うのが普通だと思います。

上記2つの例に共通するのは報告を受けた結果内容だけでは、具体的な状況が見えないということです。現場で起こったことは現場の技術者しか全体を把握できません。そのため、報告は客観的、かつ定量的なものが求められます。

しかしながら思い込みが強いと、自分の興味のあるところのみを報告する傾向があり、本来見るべきポイントを見逃す可能性もあるのです。

 

主観的・定性的な報告を客観的にするために

結論から先に言うと「動画や写真を報告に積極活用する」ということが最も効果的な対策となります。人間の情報認識精度は「活字・画像・動画」という順番で向上していきます。当然ながら活字よりも画像、画像よりも動画の方が単位時間当たりの情報量が多いからです。
 
技術者にとって最重要のスキルの一つは文章作成力です。つまり、活字を自由に取り扱えることがポイントになるのです。その一方で、技術者といえども人間である以上、意思疎通には活字以外のものを積極的に活用していく、という柔軟さも必要となります。

 

画像や動画を取り入れた報告の実現に重要なのは計画段階での準備

ではどのようにして動画や画像での報告を実現すればいいのでしょうか。

画像や動画を取り入れた報告を実現するためには、「実験・試験」といった「技術評価業務の計画段階で画像や動画をどのように取得すべきか」ということをあらかじめ技術者指導者層と若手技術者の間ですり合わせておくことが重要です。

実際に実験や試験が始まってしまうと、若手技術者はその業務を進めることを最優先にするため、写真や動画を撮影する余裕はありません。そのため、計画段階でこの辺りの情報をいつ、どのように取得するのか、ということをあらかじめ決め、それに向けた準備を完了させたうえで、実際の業務に入るという段取りが重要となります。

主観的、定性的な報告を回避したい、またはそのような報告に悩んでいる、という技術者の方々にとって参考になれば幸いです。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。