【提言】景気減速に怯える日本製造業「英国EU離脱の影響とその本質とは?」〜日本の製造業再起動に向けて(49)

2019年3月27日

『景気判断、3年ぶりの下方修正』の政府発表に世論が揺れている。3月20日の政府月例経済報告で国内の景気判断は、『穏やかに景気回復している』との基調を維持しつつも『一部に弱さが見られる』とし、3年ぶりの下方修正を発表した。

この背景には、輸出企業の不振がある。中国向けの受注が衝撃的な突然の急落となり、この影響で電機メーカーを中心に軒並み業績予想を引き下げざるを得ない状況となっている。

今回の政府発表は、輸出製造業の苦境が反映された下方修正と言っても過言ではない。日本経済の内需に焦点を当てれば、所得や雇用環境の改善傾向は続いており、国内個人消費や設備投資も増加傾向にあり『日本経済は穏やかに回復している』と認識できるが、半面で輸出企業の不振から『景気下落の幕が開いた。戦後最長景気も終止符を迎える』との見方も不思議ではない。専門家でも意見の分かれるところである。

 

筆者の会社(アルファTKG)のお客様でも顕著な兆候が現れている。アルファTKGのお客様は、板金製造業を中心とした中小製造業が多く、お客様の景気動向は依然として堅調であり、非常に忙しい状況が続いている。しかし今年に入って、工作機械カバーなどを製造する板金企業で、仕事の先行き見込みが激減し、不況突入のアラームが点灯しているお客様が現れてきたが、業界全体の兆候ではない。

中国を震源地とした『外需下落』が足元の懸念材料として大きく報道されているが、中小製造業を取り巻く外部環境には、もっと大きな重要な懸念が潜んでいる。全地球規模で進行するこの懸念は、中小製造業の未来を支配する「パラダイムシフト」と呼べる重要なことであり、これを正しく認識する必要がある。

その懸念とは、世界中で長年続いた「グローバル主義」がほころびを見せ始め、グローバル主義の否定から「自国中心主義」が台頭し、グローバル主義と反グローバル主義で世界が真っ二つに分かれ、激しい戦いが世界中で繰り広げられている事である。

 

大手新聞においても、中国問題を取り上げ『中国経済減速は米中貿易戦争の影響だ』と断じ、『米国トランプ大統領の暴挙』と論じる。英国EU(欧州連合)離脱問題を政治的テーマの側面から『メイ首相の危機』などと報道しているが、これらの見解は「グローバル主義」を守り抜きたいとする一つの見解に過ぎない。これらのメディア報道を否定する考えを筆者は持ち得ていないが、もう少し大局的かつ歴史的にこれらの問題を考察すると、これからの中小製造業の対処すべき経営課題が浮き彫りになってくる。

英国のEU離脱問題も、米国トランプ大統領の方針も、米中貿易戦争も、その根っこには「反グローバル主義」への流れがあることを忘れてはならない。英国のEU離脱問題は、2016年の英国国民投票により「EUからの離脱決定」が発端であるが、この決定こそ反グローバル主義が台頭した世界で最初の事件であり、歴史の転換点である。

世界中を震撼させた「ブレグジット(英国のEU離脱)」は、過去のベルリンの壁崩壊や、リーマン・ショックなどに匹敵する世界的かつ歴史上の大事件である。グローバル主義の代表であるEUからの離脱は、明らかに英国国民がグローバル主義を否定した結果である。この選択の根っこには、行き過ぎたグローバル主義への明らかな否定があり、特に移民問題が深く潜んでいる。

 

移民がいかなる影響を英国にもたらしたのか?は、ロンドンを旅した人なら分かるだろう。かつて美しかったロンドンは、今や移民に占領され、その姿を変えている。移民を経験したことのない日本人が、移民の悪影響を理解するのは容易ではない。移民の少ない日本を、「美しさと秩序を維持する唯一の先進国家」であることを認識している日本人は少ない。

移民に関する英国の歴史は第二次世界大戦以降から始まっている。戦後の人手不足解消のためにかつての植民地から移民を集め、工場労働者として採用したのが英国の移民の始まりである。以降、EU加盟によって旧東欧諸国からの移民が急増し、英国は移民国家となってしまった。英国では移民を使うことで自国民は楽ができたが、結果として製造業の国際競争力を失い、英国は「ものづくりのできない二流国」に転落してしまった。

半面、日本は戦後一貫して外国人労働者には依存せず、熟練工を育成した。日本が世界に誇るのは『外国人労働者に依存せず、設備投資によって人手不足を解消した』事である。米国トランプの自国中心主義や、欧州に燃え広がる反グローバル主義の勢いもすべてその根っこに「移民問題」が潜んでいる。『これ以上の移民を排除したい』とする国民の切なる願いが、英国のブレグジットであり、米国でのトランプ大統領の当選である。

 

日本にはEUの拘束もなく、主権を持った独立国家である。そして、移民もほとんどいないし、シリア難民もいない。英国から見たら、日本は垂涎(すいぜん)の的である。英国が国民投票で勝ち取った夢、英国が望む理想の全てが日本には揃っている。

しかし今日では、日本の中小製造業にも多くの外国人労働者が働き、日本政府は法律によって移民を増やそうとしている。中小製造業に潜む最大の課題は人手不足問題である。日本の中小製造業が、人手不足への対応として移民や外国人労働者へ過度に依存することは、欧米が経験した歴史の轍(てつ)を周回遅れで踏んでいく愚行ではないだろうか?

日本の中小製造業でも、「移民」が生んだ欧米社会の葛藤を学ぶべきである。人手不足の解決には、技術的イノベーションが最良の策であることを歴史が証明している。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。