電磁開閉器市場 活況続く、社会インフラ整備・都市再開発で需要増

電磁開閉器(マグネットスイッチ)の市場は、都市再開発などの社会インフラ、工場設備のリニューアルなどの需要が牽引役となり繁忙が継続している。また、BCP(事業継続計画)やIoT、5Gといった情報化投資もデータセンターの増設などとなって追い風になっている。

今後はDC給電市場の拡大を期待する声もあり、新たな展開として注目される。製品は小型・薄型化、低消費電力化、省工数などをポイントにした開発が継続し、海外市場への対応も進んでいる。

 

IoT・5G 高まる期待

電気回路の開閉制御を行う役割を果たす電磁開閉器は、電磁石で接点を開閉する電磁接触器(コンタクタ)と、電動機の過負荷保護を行うために熱を利用して動作する熱動型過負荷継電器(サーマルリレー)を組み合わせている。

モータなどを使用した機械、装置、設備には必須の機器として使われ、負荷のON/OFFや、過負荷電流が流れて機器の回路が焼損する事故を防止する大きな役割を果たしている。

工作機械、半導体・液晶製造装置、エレベーター、鉄道機器、船舶、空調機器、PV(太陽光発電)システム、配電盤など幅広い分野で、モータの起動・停止、照明・ヒーターなどのON/OFFなどで使用されている。

 

日本電機工業会(JEMA)の出荷統計によると、2018年(1~12月)の電磁開閉器の出荷額は前年比100.9%の292億9100万円となっている。前半は工作機械や半導体・液晶製造装置向けなどを中心に需要が継続していたが、後半は前年割れの状況になっている。

これを補うように増えているのが、都市再開発などの社会インフラや工場設備のリニューアルなどの需要だ。東京オリンピック・パラリンピックを1年後に控えた関連投資が急伸長している。オリンピック関連施設整備に加え、インバウンド増加に伴う宿泊施設の建設、東京の山手線新駅建設と周辺の再開発、中部地区を中心としたリニア新幹線建設投資、関西では2025年の大阪関西万国博覧会の開催に伴う整備投資を見据えた期待が高まっている。

一部では部品不足などから納期遅れが生じるなど、前半とは市場牽引役が全く異なった状況となって、市場を底支えしている。

 

電磁開閉器の主力需要先の工作機械の18年の受注額は、前年比110.3%の1兆8158億円と過去最高になったが、後半は前年割れが続いており、19年は1兆6000億円と一服するものと予想されている。

もうひとつの大きな需要先である半導体・FPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置は、18年度は前年度11.1%増の2兆2696円が見込まれており、2兆円市場が継続するが、19年度は0.5%増の2兆2810億円と微増を見込んでいる。ただ、スマホ市場の停滞もあり、しばらくは一服状態という見方も強い。

人手不足や人件費の上昇、製品の高精度化などからロボットの市場も拡大している。18年の受注額は前年比7%増の1兆100億円と初めて1兆円を突破し、19年も続伸して同4%増の1兆500億円が見込まれている。

 

ただ、これらの市場は昨年後半以降は受注が減少しており、今後予想通りの推移になるかは予断を許さない。

こうした厳しい見方が広がる中で、社会インフラや工場設備のリニューアルなどの需要伸長への期待は大きい。

大都市の再開発に加え、震災対策に伴うビルのリニューアルや省エネ化対策などが進み、エレベーターやエスカレーター、空調設備向けの受配電機器は買い替え需要が発生している。

加えて、熱中症や災害時の避難所対策から、全国約7000カ所の小中学校の教室・体育館へのエアコン設置に向けて約2500億円が予算化された。エアコン本体需要に加え、キュービクルなどの変更が必要なところも多く、電磁開閉器の需要増に加え、電気工事、受配電工事など多方面での波及効果が及ぶことになる。ただ、現在こうした受配電に絡む仕事は大幅に増えており、人手不足も加わって、夏までに設置工事が終了するかが懸念されている。

 

電磁開閉器の新たな市場として需要が継続していた、PV(太陽光発電)関連は一服する傾向にあるが、電力分野の自然エネルギ-活用や省エネへの取り組みは継続しており、今後は電力の安定供給をにらんだ蓄電システムや自家発電システムなどに注目が集まっている。

さらには、IoT、5Gの普及に伴う情報化投資拡大に対応したデータセンターの増加が見込まれている。データセンターは、BCP対策上からデータの分散化によるリスク回避、省エネ対策に伴う冷却・低発熱などが志向され、データバックアップとして、自家発電設備や蓄電設備といった広範領域での需要喚起を生み出している。

そのほか、鉄道、船舶関連も期待の市場だ。鉄道や自動車は、一般的にDC(直流)電力で使用されることから、DCタイプの電磁開閉器の市場として注目されている。DCは電力効率がAC(交流)より良いことから活用が期待されているが、アーク対策などの課題も残っている。鉄道車両はグローバル市場で増加が期待されており、EV(電気自動車)と並んで今後大きな市場への成長が見込まれている。

 

省配線作業へスプリング式

電磁開閉器は技術的に完成の域にあると言われながらも、依然開発・改良が進められている。最近のポイントは小型化、省エネ化、グローバル化対応、省配線化と配線作業性の向上、安全対策などに重点が置かれている。

小型化への取り組みは、制御盤の小型・薄型化に対応したもので、10Aフレーム以下の小容量タイプでは、横幅36ミリを実現して、収納スペースの削減と、駆動電力の低減を図っている。電磁開閉器の小型化には、開閉時の高温ガス放出構造やアークランナーの形状最適化など設計上の難しさが伴う。

しかし、多数個並列して使用することが多い電磁開閉器では一個の幅を少しでも削減できれば、盤全体では大きなスペース削減効果を生み出す。装置全体の小型化志向が続く中で電磁開閉器の小型・薄型化は制御盤の小型化につながり、装置全体にも波及してくる。

 

電磁開閉器の小型化は同時に、環境配慮と素材の節約にもつながる。電磁石の改良では、巻き線の工夫に加え、吸引力のばらつき抑制、コイルの温度上昇などを行うことで、電磁石容量で約15~30%の省電力化を実現している。

しかし小型化を進める上では、開閉時に発生するアーク対策も技術上の課題になる。アーク対策を行いながらアークスペースを削減するために各社独自の消弧構造を採用して、省スペース化と安全性、確保に取り組んでいる。

電磁開閉器でいま最も注目した改良は端子構造の変更だ。人手不足や熟練技術者の減少などから盤への機器取り付け作業の省力化が大きな課題になっている。今までも、省配線化と配線作業性の向上では、端子の配線ネジを外さなくても配線できるようにしたり、バネを使って仮止めが容易にできるようにしたりと、工夫している。

しかし、作業性の良さ、接続信頼性から欧州タイプの圧着端子を使わないスプリング式を採用するメーカーが増えてきた。棒線、より線がそのまま使用できることから、電線の被覆作業やねじ締め付け作業などが不要で、配線作業性が大幅に向上する。初心者でも熟練者でも作業スピードには大きな差が生じづらく、接続信頼性も高いことから増し締めといったメンテナンス工数も省ける。端子幅も電線の太さ分で良いことから、省スペース化にも貢献する。

 

海外市場はスプリング式の配線が定着していることから、国内向けと海外向けで2つの方式を使い分ける必要性もなくなる。

日本では官公庁の設備向けで、圧着端子の使用を配線設備基準で定めている部分が残っていることから、以前障壁は多いものの、人手不足などの外的な要因も加わり、今後配線方式は大きく変化するものと見られる。

省配線化の一環として、電磁開閉器の主回路の高さを統一することで、専用ブスバーによる一次側渡り配線ができるようになっている。これにより、配線数が大幅に減らせ、配線作業時間の短縮と誤配線の防止につながる。ブスバー設置状態はむき出しになっているが、このブスバーにメッシュ状のカバーで覆って安全性の向上を図る動きも見られる。

さらに、可逆型電磁接触器に、電気的インターロック用配線を内蔵したタイプも開発されており、インターロック配線が不要になるほか、スペースもほとんど同じで済むため、内蔵スペースを有効に生かせる。

 

安全対策の工夫も進む

安全対策では、端子部に不用意に接触しないように感電防止構造を採用した製品が一般化、不用意な接触によって誤作動したり、異物が本体に侵入したりしないように保護カバーを標準で装備している。そのほか、制御回路と主回路の誤配線を防ぐために、それぞれの端子色を変えることで分かりやすくしたり、主回路と補助回路の端子配線の干渉防止と作業性向上へ端子配列を工夫した設計も行われている。

電磁開閉器の接点溶着が発生した場合でも、安全開離機構(ミラーコンタクト)として、補助接点が確実に作動する機能も内蔵しており、事故の防止を図っている。

一般的に電気回路には、配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーが使われ、短絡事故からの電線保護、電動機の過負荷保護などを行っているが、これらの省スペース化と省配線化を実現できるモータスタータの動向が日本でも注目されている。配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーの代わりに、モータブレーカと直流低消費電力型の電磁接触器を採用することによって取り付け面積を、従来の3分の1まで削減することができる。

 

モータブレーカと電磁接触器を専用パーツで一体化しているために、従来の配線用遮断器と電磁接触器を電線1本1本で配線する作業も不要になり、配線時間を従来の半分に削減することが可能になるなど、トータルコストダウンに効果を発揮する。欧米を中心にこの方式が普及しているが、日本では配線方式や電圧の違いなどからあまり普及していない。

しかし、日本から海外市場に向けて輸出する機会が増加する中で対応が求められており、関連メーカーは計算方法など実際のマニュアルなどを準備しながら対応を図っている。

電磁開閉器の国内市場規模は、このところ300億円前後で推移しているが、IoT、蓄電池、DC市場など、今後新たな用途として期待できるところも増えてきているだけに、安定した市場が継続しそうだ。

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