産業用ロボットを巡る 光と影 (15)

失敗しないロボットメーカーの選び方!
ロボットメーカーの選択ミスで大きな損失を招く!(後編)

サーボモーターで決まる

なぜ違いがあるのか?

前回の記事で、ロボットメーカーにより「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」そして「カスタマイズ性」が違い、選択を間違えると会社にとって大きな損失を招く事を記載しました。

ではなぜ、このような差が生ずるのでしょうか?

ロボットの初心者が持たれる大きな誤解は「ロボットメーカーはどれも大して変わらない。見た目は似ているし、色が違うだけ。だから知り合いから紹介されたメーカーにしよう」です。

答えから申し上げると、『サーボモーターにかけている金額がまったく違う』という事です。サーボモーターが高価なものですと、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」が優れたロボットになります。

ちなみにサーボモーターとは、簡単にいうと、ロボットのアームを動かしているモータの事で、6軸多関節ロボットでは6つ付いています。

購入される側から見て厄介なのが、情報通でなければ、検討しているロボットのサーボモーターが高価で優秀なものかどうかの情報が入ってこないという事です。

ちょっと難しい話ですが、サーボモーター1つだけで、数百の設定値があり、これらの値の違いでロボットの動き方が大きく変わります。このような事は、ロボットの素人には分かるはずもなく、ロボットのマニュアルにもこの中身の情報が開示されておりません。また、開示されていたとしても、素人では意味がさっぱり分からないと思います。

よって、ここでまず抑えてほしい事は、ロボットメーカーによりサーボモーターにかけている金額が大きく違う。よって、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」などの差が生ずるので、加工を行ったときに製品の出来栄えが大きく変わる、という事です。

もうひとつの誤解

ロボットの初心者が持たれる大きな誤解がもう一つあります。今回はさまざまな用途の中で、溶接で例えます。

それは「溶接機器メーカーのロボットは、溶接ロボットも優れている」という誤解です。

この誤解が生じる理由は『ロボットが溶接作業をうまくできるか?』が最も重要なのに、ロボットの『周辺機器だけの能力(この場合は溶接能力)』しか見ていないという事です。ロボットの作業は、ロボットと周辺機器の両方がうまく機能し合わないと、うまくいかない事を見落としています。

先日、私も中国地方のいくつかの工場でお伺いしたら、まさにその溶接メーカーのロボットばかりが置いてありました。『置いて』と表現したのは『働いてはいなかった』という事です。

工場の担当者に聞くと「ロボットはほとんど稼働していないです。理由は、うちみたいな中小企業は小ロット(少量多品種)の製品が多いので、ティーチング(教示)をする時間がかかるロボットでは作業できません」と言われていたので、私が「プログラムのカスタマイズや、ティーチングソフトを活用して対応できませんか?」とお聞きすると、「このロボットメーカーにも問い合わせましたが『うちのロボットにはそのようなカスタマイズ性はありません』『ティーチングソフトを使っても、うちのロボットにはたわみの補正機能(絶対精度)などがないのでうまくいきません』『よって、自分で全てティーチングしてほしい』と言われてしまいました」との事でした。

最近「溶接ロボットは、溶接メーカーにお願いすれば大丈夫。他の有名ロボットメーカーの溶接は良くない」といううわさが出回っていますが、これはメーカーとお客さまの間に入っている商社さんの利益率が高いから、そのようなうわさを流してうまみを得ているだけで、決して事実ではありません。よくよく注意してほしいと思います。

その証拠に、大手自動車会社の生産現場で、特に溶接を行う一次下請けの会社にも私はよくお伺いしますが、そこでの溶接ロボットは、先ほどの溶接メーカーではなく、サーボモーターを生産している某ロボットメーカーの溶接ロボットがほとんどの割合を占めています。

意外に思われるかもしれませんが、特に溶接の質を問われる配管の溶接などで、その某ロボットメーカーが使用されています。つまり、溶接機器のメーカーでなくても、ロボットだけでなく溶接の質も非常に高いという事をお客さまの満足度が証明しています。

うわさと真実は違う、という事を留意しておくべきです。

高かろう良かろう?

また、ただ値段の高いロボットを選べば良いというわけでもありません。

まず海外製のロボットですが、値段が国内のロボットの倍近くします。そして、確かに前述した「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」そして「カスタマイズ性」において優れています。しかし、もしものときのサポート体制を調べてほしいです。例えば、工場の地域によっては、そのメーカーのロボット技術者がすぐに駆けつけてくれません。また、最悪の場合ですが、壊れた部品が国内になく、空輸でその部品が届くまでロボットが停止状態になった、という話も聞きます。

次に国内のロボットメーカーです。私がよく聞く面白い話ですが、卸売価格がほとんど同じなのに、ロボットの能力が大きく異なります。

国内の中でも優れたロボットメーカーは、前述のサーボモーターにお金をかけているだけでなく、たわみ補正・バックラッシュ補正などのソフトが最初からロボットの内部に付加されています。もちろん、それらが劣るロボットと比べてまったく別物です。ところが、見た目やマニュアルに記載されている内容(過般重量・可動範囲・繰り返し精度)は、この両者はほぼ同じなので、素人の方は見極めにくいです。

実は、サーボモーターを自社で生産している某ロボットメーカーは、生産していないメーカーと比べて、同じ値段でもかなり優れたサーボモーターを使っています。

決して値段やイメージだけでロボットメーカーを選んではいけないという事です。

どのロボットがよいか?

では、どのロボットメーカーを選択すれば、良いのでしょうか?

前述した事に気を付けていただければ、選択ミスをすることはないと思います。

ただし、知識だけでなく、候補のロボットでしっかりとテストを行ってほしいです。ここで見落としがちなのは、できる限り現場に近い環境、つまり加工したい製品などを使用して行う事です。

もし、選択ミスで大きな損失を招く事がご心配であれば、富士ロボットに遠慮なく聞いていただければ、と思います。

◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com)代表取締役。産業用ロボットコンサルタント。。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。自社のオフラインティーチングソフトでさまざまな現場で産業用ロボットのティーチング工数を10分の1にするなど、生産効率UPを実現してきた。さまざまな現場での問題解決の方法を知る、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「とりあえず無償相談から」の窓口を設けている。

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