製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (19)

本質から目を離さない

今日のコラムでは少し趣向を変えて技術とサイエンスということについて考えてみたいと思います。

技術とサイエンス(科学)の関係を考えるとき、両者にはかい離があると考える方が思ったより多いようです。技術者にとってサイエンスは大学の先生や研究機関がやることだ、という思い込みがあるようです。技術者というと愚直に油まみれになりながら泥臭く仕事をする、というイメージがその根底にあるように感じます。しかしながら技術者にとってサイエンスは決して遠い話ではなく、むしろ非常に近いものであるということを今一度考えてみたいと思います。

 

サイエンスの根底と技術との関係

サイエンス、つまり科学に関するイメージは人それぞれであり、どれが正解というのが意外にも難しいと考えています。

よくあるサイエンスの事例の一つが自然科学。身のまわりの出来事を科学的に検証する、といったことを主に子供向けにやるということを見たことがあるかもしれません。なぜ空は青いのか、風はどのようにして吹くのか、オーロラはなぜ見えるのか、といった類いの話です。

私の考える科学とは、「物事の本質を解明し、新たな発見、理論を提唱する」という所にあると思っています。もちろんこれが全てではないですし、他の考え方もありますが、少なくとも上記の解釈が大きな間違いではないということは同意いただけると思います。

 

その一方で技術とは何か。「物事の本質に対して真摯に向き合いながら、現物、現実から目を離さない」というのが私の考えです。

科学で評価されることは、ほぼ間違いなく「新しい発見や理論を提唱できるのか」という新規性に関する観点です。戦略的要素の多い特許の新規性の議論とは全く別物で、科学の新規性は極めて高度な次元の話となります。その一方で「物事の本質への徹底的なこだわり」という点についてはサイエンスも技術も違いがほとんどありません。目の前で起こっていること、事象には必ず本質的な理由がある。ここの観点についてはサイエンスも技術も全く相違ないのです。

つまり、本質から目を離さないというのは技術者としての根幹といえます。技術とサイエンスで最重要な真摯な姿勢に問題はないか。仕事柄、多くの技術者と話をします。もちろん、研究者とも話をします。そして特に技術者に対して、危機感を覚える場面が多いことがあります。

 

それは、「物事の本質ではなく、組織上層部、経営者層の意向に近い結果を出そうとする」「物事の本質を理解せずに外部委託をすることで、コストや手間のかかる部分を簡略化しようとする」といった事例です。

前者は組織固有の問題です。何か製品に問題が生じた時に上層部が、「この製品で問題が生じると企業での売り上げが○○%下がってしまう」「この問題が解決できないと、製品の販売停止と回収が必要になる」といった組織都合のロジックで現場に圧力をかけてしまう事例です。残念ながらこのような事例があるのは前例が示しています。これも本質に目を向けずに問題を後回しにして、問題をむしろ大きくしてしまう典型的な例といえます。

また、後者は企業都合を前面に出しています。当然ながら企業は利益を出すことで組織を維持、発展させるのが使命であるため、利益を求めるのは至極当然の考えであることに間違いはありません。しかしながら、自社において本質やスキルが全くないまま、コストや手間を省くことに重点を置きすぎることで、回避できたリスクを回避できずに問題につながった事例については枚挙に暇がありません。

 

実データにどれだけ真剣に向き合えるか

本質というのはいろいろありますが、最も分かりやすいものは実際の試験データです。数字は基本的にうそをつきません。原理現象の本質は実際の試験によって初めて表現することができます。この本質である実データにどれだけ真剣に向き合えるか。それが、技術がきちんと技術として機能しているかの一つの指標になります。

その一方でこの実際の試験データを無意味なものへと変質させてしまう手法もあります。それは「データの改ざん」です。企業の大小に関わらずこの手の事件は多くあるのが事実。特にデジタル化の進んだ現代ではデータの改ざんは非常に容易になっており、また見抜くことが困難になりつつあります。

そのため、私が企業の指導をする時には必ずアナログデータをデジタルと同時に取得すること、外部委託する場合には不定期に監査するようにしています。これはデータ改ざんのリスクを少しでも減らす、そして指示したことを指示した通りにできているのかということを確認することが主目的です。

 

性善説で成り立ってきた日本の製造業。今でも日本の製造業が強みを持てているのは海外に比べて真摯に仕事に取り組んでいる、ということが背景にあることは間違いありません。その一方で闘いのフィールドがグローバルになった今、利益や効率の重要性が高まっていることも事実。この事実に目を向けながらもサイエンスと技術が共に根底に有する、「物事の本質への敬意」だけは忘れずに、技術者は自らの職種に誇りを持つことが重要だと考えます。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。

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