【提言】中国の脅威と米中貿易戦争勃発 日本中小製造業の生き残り策〜日本の製造業再起動に向けて(38)

トランプ大統領は中国に対し、情報通信、航空宇宙やロボット分野などを対象に500億ドル(5兆円超)の制裁関税を発表した。この米国の発動は、明らかに先端成長分野における製造覇権の奪い合いであり、制裁分野が全て「中国製造2025」の関連業種であることからも明白である。

「中国製造2025」とは、ドイツの「インダストリー4.0」や米国の「インダストリアル・インターネット」などと並び、IoTを駆使した中国の国家戦略であり、習近平政権が推し進める製造業の振興策である。特に先端成長の10分野の製品を、全て国産で製造する事を目指している。トランプ大統領の貿易赤字削減は表向きの理由であるが、米国の本音は台頭する中国製造業への牽制であり、今後の成長分野は全て中国が支配するという中国の思惑に待ったをかけ、IoT/第4次産業革命によって訪れる『次世代の世界王者』を中国に奪われる事を阻止する事が目的である。

「インダストリー4.0.」、「インダストリアル・インターネット」、そして「中国製造2025」は、各国ごとにスローガンは違うが、国家戦略の重要テーマとしてIoTを武器とした製造業強化による世界覇権競争の象徴である。米国では、空洞化している製造業の国内回帰を推進し、IoTによる顧客志向のものづくり大構想をぶち上げているが、今の所それほどの大きな成果にはつながっていない。

一方、中国は「中国製造2025」を背景に、政府の国内企業への補助金などが成果を上げ、最近の中国製造業は飛躍している。IoT化や自動化も急ピッチで進んでいる。日本にいると中国製造業の躍進は分かりづらいが、アジアでは深刻な脅威となっている。タイ・バンコクに住む華僑の製造業経営者の話によると、彼らの最大の悩みは中国からの新規進出企業だそうである。昔からタイの製造業を支配した華僑は、長年に渡る成功と繁栄を享受してきたが、最近中国から強力なアジアへの進出企業の出現に当惑している。

「中国製造2025」による中国政府やVC(ベンチャーキャピタル)の大資本支援をバックに、徹底的なIoT化・自動化に加え、大規模投資による圧倒的な競争力を持って進出するので、全く勝ち目がない、と深刻に悩んでいる。華僑である古くからのアジア中国人は、新しいアジア進出中国人を最も恐れているのである。残念ながら、日本企業は相手にもされず、蚊帳の外である。米国が制裁関税で中国を牽制したい背景には、このように着実に発展する『中国製造業』への脅威があり、このまま行けば将来の成長分野の製造は、全て中国に握られてしまう不安が背景にある。

一方、日本では、中国製造業に対し『製造コスト』への脅威論はあるものの、精密で先端的な成長分野の製造が中国に握られることを心配する日本人はあまり多くはない。また、中国製造が徹底的なIoT化と自動化を指向し、実績を積み上げている事実もあまり知られてはいない。日本は『ロボット大国、日本』を自負しているが、日本の技術を吸い取りながら日本を既に追い越し発展する中国製造業の実態は、真の驚異であり、明日の競合となるのは避けられないだろう。

日本国内に目を転じると、中小製造業は深刻な人材不足と好景気が重なり、外国人労働者に依存する中小製造業が激増している。『アジアの新興国の労働者は、人件費が安くて優秀だ。助かっている』といった声も多く聞かれる。外国人労働者の活用も有効な対応策の一つではあるが、『技能・技術の流失』という後遺症を伴い、世界的に見ても『周回遅れの施策』といったマイナス側面も無視できない。また、好むと好まざるとにかかわらず、近い将来アジアから日本に来る労働者数は減少するだろう。

発展する中国経済は着実にアジアを飲み込み、アジアも大きく経済成長していく。膨大な労働力を吸収するアジアの大都市の発展により、アジア域内での雇用は増え続け、日本の地方都市までわざわざ出稼ぎに行く労働者は激減する。もちろんアジア以外からの労働者依存も考えられるが、どんなに外国人労働者を集めても、人海戦術依存の工場存続は難しいだろう。

世界は、明らかに『IoT化・自動化』の勝負である。日本の中小製造業の活路にも、徹底的なIoT化・デジタル革命が必須である。日本の中小製造業には、優れた熟練工と加工のノウハウが存在する。これをベースに人工知能化を実現し、第4次産業革命が花開く条件は全て整っているが、中小製造業で完全無人工場の構築は不可能であり、依然として人材確保は大きな課題である。

日本の就業労働人口減少は避けられないが、短絡的に『人手不足=外国人労働者』と限定せず、足元に温存されている高齢者や女性労働力の未開拓領域にも注目すべきである。

ローカルの中小製造業経営者が、この豊富な労働力活用に着手することで、明るい未来が見えてくる。

第4次産業革命の最新技術は、これらの未経験者を戦力化する魔力を持っている。IoTや人工知能そしてロボットで自動化武装された未来工場は、高齢者や女性に優しい工場であり、世界中で唯一、職住近接で交通費や住居費がほとんどかからない効率の良いスマート工場が、日本の津々浦々で花開く。『高齢者&女性+人工知能&ロボット+若者エンジニア』=日本の中小製造業。こんな未来工場がすてきではないだろうか?

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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