製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (13)

大学教育と産業界の要望
「文章作成力」つけるべき

研究と技術とも言い換えられるかもしれませんが、ここのバランスをどう取るのかというのは比較的難しい議論です。大学というある程度閉鎖された空間に限った経験ベースの話や、または開発現場の修羅場を通らずに述べられる評論など、この辺りの議論に関し疑問を感じることが多いのが実感です。

そこで今回のコラムでは大学教育と産業界の要望という題名で、本テーマについて考えてみたいと思います。

 

■大学教育の意義

若手技術者は大学の先生から一般的にはアカデミックベースの教育を受けます。既知の理論の上に新しい理論の発見を目指す、というのは技術者としても極めて重要な探求心であり、重要な素地といえます。

昨今は産業界の要望に大学も応えるべき、という押し付けに近いような理解に苦しむ論調も散見されますが、理論を突き詰めるという姿勢なしに新たな技術は生まれないことを考えれば、短絡的に産業界が大学に注文を付けてはいけないと思っています。大学はあくまでアカデミックベースの研究者を養成することに注力すべきだと考えています。

 

■大学教育と産業界要望の共通点が目指すべき方向性

その一方で大学で教えるべきことで、産業界が要望することと共通するものがいくつかあります。その一つが「文章作成力」です。

研究者であれば実験計画を作成し、実験のリポートを作成し、研究論文を作成する、という観点で重要。企業の技術者であっても、技術報告書を作成し、議事録を作成し、出張報告書を作成し、テーマ提案を作成する、といったように文書を機会は非常に多い。その一方で大学の先生(助教クラス)や企業の技術者指導者層の方々に技術報告書の書き方に関する講演を行うこともありますが、立場がそのような方々でさえも意外にもこの辺りの基本ができてない、ということは決して珍しいことではありません。少なくとも技術者、研究者を目指す方々は「論理的思考」を養う必要があり、これを大学教育に取り入れることは大学に残って研究者を目指す場合でも、外に出て企業で働くとしても必ず役に立つ知見であると考えます。

つまり、大学は産業界の要望に追従するのではなく、産業界の要望の中からアカデミックな研究者としても必須と考えらえるものを抽出し、それを教育カリキュラムに取り込んでいく、という考え方が重要なのだと思います。そして文章作成力というのは論理的思考力醸成に最も効果が高いというのが私の企業指導を通じた実感でもあります。この論理的思考というものは若手技術者を含めた、技術者全体にとって根幹ともいえるスキルの一つと言っても過言ではありません。

 

■論理的思考を修羅場と化す開発現場で発揮するための教育

ここで論理的思考力を開発の現場でも発揮するための教育について考えてみたいと思います。

論理的思考というとロジカルシンキングを思い浮かべ、関連書籍を読み込むことで知識の上乗せを行う、というケースをよくうかがいます。これはこれで間違っているわけではないのですが、ロジカルシンキングに関する本の多くが「シンプルなものを複雑に書きすぎている」というのが私の考えです。

開発現場の最前線は人と人の感情がぶつかり合い、限られた時間とリソースと情報の中で目指すべき方向を常に模索するという、いわば「修羅場」です。このような時、若手技術者に限らず多くの技術者は環境的ストレスにより思考回路が大きく制限され、物事をできる限りシンプルに考えようとします。そのため、知識が必要以上に複雑化していると、仮に提案した内容が正しくともそれを周りが理解できない、またはそもそも情報を発信した本人が第三者が理解できる内容で情報が発信できていない、ということが多々起こります。

そのため、論理的思考とかロジカルシンキングといった名称よりも、「実際の現場でどのようなことが起こり、それをどのように解決したのか/方向性を示したのか」という「実例ベースでの説明」というのが最も人は理解しやすく、自分を疑似的にその環境に置いて進むべき道を考えられるようになります。

アカデミックでいえば大学の先生方がアイデアに詰まった時、どのようにしてそれを打開することができたのか、ということを当時の考え方を踏まえながら話すというのも非常に効果的です。

合わせて産業界でいえば、開発の最前線でどのような問題が起こりそれをどのように解決したのか、そしてその時どのようなことを考えながら仕事をしていたのか、ということも重要な教育といえるでしょう。

やはり実体験に勝る教育材料はありません。評論はやはり評論でしかないのです。実践経験を通してどのように切り抜けたのかという話こそが、論理的思考の重要性を訴えかける一つの切り口になるでしょう。実例を用いた話ということを取り入れた教育は大学にとっても産業界にとっても有益な教育になると考えます。

あまり物事を難しく考えすぎず、より現場目線で伝えるということが大学教育ではもちろん、産業界でも役に立つと思います。今後の大学教育や企業内教育の方向性検討の一助になれば幸いです。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
技術者育成研究所所長・FRPコンサルタント。入社2~3年目までの製造業に従事する若手技術者に特化した法人向け人材育成プログラムを提供し、自ら課題を見つけそれを解決できる技術者育成サポートを行う。

東京工業大学工学部高分子工学科卒業後、ドイツにある研究機関Fraunhofer Instituteでの1年間のインターンシップを経て同大学大学院修士課程修了。世界的な展示会での発明賞受賞、海外科学誌に論文を掲載させるなど研究開発最前線で業務に邁進する一方、後身の指導を通じて活字を基本とした独自の技術者人材育成法を確立。その後、技術者人材育成に悩みを抱えていた事業部から、多くの自発的課題発見/解決型の技術者を輩出した。

主な著書に『技術報告書
書き方の鉄則』、『CFRP~製品応用・実用化に向けた技術と実際~』(共著)など。

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