【パワーアシストスーツ特集】イノフィス 代表取締役社長 藤本 隆氏に聞く

作業員を腰痛から守る 労災も未然防止

腰痛は現場作業者にとっての職業病。重い荷物を持ったり、長時間にわたる中腰での作業など、いつ腰痛を発症してもおかしくない。腰痛は作業者にとって不幸だが、経営者にとっても貴重な労働力が離脱してしまうことは大きな痛手。その解決策として近年注目を集めているのが、人を補助し、体への負荷を減らす「マッスルスーツ」。すでに累計出荷台数3000台を超えたというイノフィスの藤本隆代表取締役社長に話を聞いた。

—— 開発のきっかけを教えてください。

「生きている限り自立した生活を」を掲げ、体に障害を持っている方や高齢者の自立支援を行うロボットを東京理科大学の小林宏教授が長年の間、研究開発してきました。開発の過程で、ユーザー先である介護事業者や各種作業現場で評価テストを実施するうちに、作業する側にも腰痛予防という大きな潜在ニーズがあることがわかりました。そこで、健常者の作業支援、腰補助用のロボット、すなわち現在の「マッスルスーツ」を先行して商品化することを目的に、小林教授を中心に創業しました。

—— 具体的にマッスルスーツとはどのようなものですか?

装着すればスーパーマンのようにすごいパワーが出ると思われがちですがそうではありません。あくまで腰を補助し、腰痛を予防するものです。

リュックサックのように本体を背負い、腿にパッドを当てて装着が完了。慣れれば10秒ほどで簡単に装着できます。そして人工筋肉に圧縮空気を注入し、その収縮運動で動きを補助します。

具体的には、お辞儀するような姿勢で荷物を持って体を起こすと、腿パッドを起点にテコの原理で後ろに力が働いて体が起き上がります。腰に負担を掛けずに重量物を持ち上げることができます。

標準タイプは4本の人工筋肉を使用し、別置きのコンプレッサから空気を注入しながら約35キログラムの補助力を発揮して腰への負荷を減らします。女性やシニア層にはもう少し軽いモデルもあります。最新型の「スタンドアローン」は、小さな空気入れで人工筋肉に空気を入れてから使用するもので、場所や動きに制限がなく、自由に歩き回ることもできます。

—— 他のアシストスーツとの違いを教えてください。

最大の特徴は、圧縮空気を使い、力強さと軽さを両立した人工筋肉を採用したところです。人工筋肉は1本130グラムと軽量ですが、200キログラムを引っ張れる力を持っています。マッスルスーツにはそれを複数本使っています。また、モーターを使っていない防爆仕様なので、火花が散ったり水がかかるような現場でも問題なく使えます。耐久性が高く、センシングで間違えた動きをしてしまうこともない。こだわりのシンプルさです。

—— 導入実績と、製造業での事例を教えてください。

7割は介護ですが、最近は工場など製造業をはじめ、建築や農業などからも問い合わせが多くあります。工場ラインは自動化が進んでいるとはいえ、材料の投入や製品の箱詰めやパレタイジングといった入り口と出口には必ず人が作業しています。また検査工程も人がやっていることが多くあります。そうしたところへのニーズがあるようです。そのため、腰痛で休暇や退職をされ、人材確保がままならないとなると製造現場にとっては大問題。従業員の労働環境改善や雇用の際のPR材料として導入する企業も増えています。

—— 課題と今後について教えてください。

パワーアシストスーツは、1週間か1カ月使ったところですぐに定量的な効果は見えにくく、むしろ作業者にとっては煩わしいと感じてしまうこともあります。しかし半年、1年後には、腰が痛くない、休暇や退職が減るという結果が出てきます。現場も経営者も短期間で効果を求めがちで、ここにジレンマがあります。これを解消するためにも啓蒙活動は必要だと思っています。

またメーカーとして、多様化するニーズにどう応えていくか、ニーズにマッチした製品を提供できるかが課題です。今後はそこを見極めてラインアップを拡充していきたいと思っています。

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