製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (11)

若手技術者に対する理想的な指導者 任せながらもフォローする

今日のコラムでは若手技術者に対する理想的な指導者について述べてみたいと思います。

■指導者側に求められる多様な選択肢

若手技術者の指導というのはさまざまなアプローチがあるものの、最後はその人となりに影響を大きく受けるため、指導する側がいかに多くの選択肢を用意できるかが勝負となります。

もちろん根幹部分として、本コラムでも述べている陥りがちな技術者育成パターンになっていないか、そして活字を基本とした論理的思考力の鍛錬が盛り込まれているか、というところは不変です。しかし、これを具体的な実務レベルまで落とすためには個々人の性格やスキル、業界固有文化、社内外環境といった多くのパラメータに配慮しながら試行錯誤する必要があります。そしてこの試行錯誤を行うにあたっては指導者側が選択肢を多く持っていればいるほど、若手技術者の育成が効率よく進む傾向があります。

■盲点の選択肢

そんな中、あまり述べられていない若手技術者育成の選択肢があります。それは、「若手技術者の下にさらに年数の浅いの技術者(例:新人等)を部下としてつける」です。若手技術者に自らを省みる鏡をわたすイメージになります。

若手技術者は自らの立ち振る舞いを自分ではわかっていません。育成で大切なのは自らの立ち振る舞いを客観的に理解できる論理的思考力。しかし活字に裏付けられた本当の意味での論理的思考力の成長にはどうしても時間がかかる。そこで、並行して活用したいのが自分の立ち振る舞いを鏡のように映す可能性のある、年数の浅い技術者です。若手技術者よりもさらに年数の浅い技術者は、若手技術者が自らの立ち振る舞いを省みるきっかけを与えてくれるのです。そういう意味では「若手技術者よりもさらに年数の浅い若手技術者は理想的な指導者」といえるかもしれません。

■若手技術者にさらに年数の浅い技術者をつける際の注意点

ここで誤解を招かないようあらかじめ述べておかなければいけないことがあります。特に重要なポイントを2点ほど述べておきます。「任せながらもフォローすることを忘れずに」

本コラムをご覧の方の中には、「では、若手技術者にさらに年数の浅い技術者をつけよう」ということを実行に移し、そのままにしてしまう方がいるかもしれません。これは技術者人材育成でありがたいな「放置型」に陥りがちな流れです。丸投げしただけでは人は育ちません。若手技術者を指導する方にとって重要なのはあくまで「任せながらもフォローする」という寄り添う姿勢です。

恐らく年数の浅い技術者をつけると、若手技術者はより年数の浅い技術者に対し、「指示内容を言っても内容を理解してもらえない」「言うことをきかないので腹が立つ」といった不平、不満を言うケースが出てくると思います。逆にこのような不平不満が出ずに、かつ指導がうまくいっているようであれば理想的ですが、若手技術者が放置型になっているか否かについては注意が必要です。

そして上記のような不平、不満が出てきたときに、「今、お前より年数の浅い技術者に対して感じていることが、お前にとっての課題でもある」と気づかせてあげるのです。そして、「ではこの課題を乗り越えるためにどうしたらいいか考えてみなさい。もし、相談事があればいつでも声を掛けてくれ」と一言言ってあげてください。そしてより年数の浅い技術者の指導に苦闘する指導者の卵でもある若手技術者に注意を払い、彼ら、彼女らのフォローをしてあげることで指導するということを覚え、この指導という経験を通じて技術者としても成長することができます。

■飛び越えた指導は行わない

もう一点が「飛び越えない」ということです。ここでいう飛び越えないというのは、若手技術者を飛び越えてさらに年数の浅い技術者に対して直接指示や指導をすることです。

思ったよりも技術者指導者層の方の中には階層を全く無視し、若手技術者の下につけたのに彼ら彼女らを飛び越えて直接指示するケースが多いのです。

これをやられてしまう若手技術者たちは、「より年数の浅い技術者の指導者として失格なのではないか」「自分の存在価値は何なのか」「自分はどのように振る舞えばいいのかわからない」「直接指導してくれるなら自分を真ん中にいれなくてもいいのではないか」という失望、疑問、不信の心理に陥り本命の若手技術者の指導に問題が生じてしまいます。

直接言った方が早いことでも若手技術者の下につけたのであれば、より年数の浅い技術者たちに仮に何か言いたいことがあったとしても、必ず若手技術者たちを通じて伝えるようにしてください。間に入ってどのように指導すべきか思考するのも大切な若手技術者の人材育成につながっています。

いかがでしたでしょうか。若手技術者の理想的な指導者としてより年数の浅い技術者をつける、というアプローチについて紹介しました。注意点にご留意していただきながら推進していただければと思います。

◆吉田 州一郎(よしだ しゅういちろう)
技術者育成研究所所長・FRPコンサルタント。入社2~3年目までの製造業に従事する若手技術者に特化した法人向け人材育成プログラムを提供し、自ら課題を見つけそれを解決できる技術者育成サポートを行う。

東京工業大学工学部高分子工学科卒業後、ドイツにある研究機関Fraunhofer Instituteでの1年間のインターンシップを経て同大学大学院修士課程修了。世界的な展示会での発明賞受賞、海外科学誌に論文を掲載させるなど研究開発最前線で業務に邁進する一方、後身の指導を通じて活字を基本とした独自の技術者人材育成法を確立。その後、技術者人材育成に悩みを抱えていた事業部から、多くの自発的課題発見/解決型の技術者を輩出した。

主な著書に『技術報告書
書き方の鉄則』、『CFRP~製品応用・実用化に向けた技術と実際~』(共著)など。

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