中小製造業のデジタル化と第4次産業革命 ヒトと金の問題解決に向けて

第4次産業革命で製造業に大きなデジタル変革の波が押し寄せるなか、大企業は組織変革や新たなサービス化とそれに向けた投資、海外への事業展開など経営の軸をデジタルにシフトしている。一方、日本の製造業の9割を占めると言われる中小製造業は、人材の不足や設備投資の負荷などから、高い関心がありながら、なかなかデジタル化に踏み切れていないのが実情だ。それを解決するにはどうすればいいのか?

デジタル化で収益を上げるとは

第4次産業革命は、デジタルトランスフォーメーションとも言われ、モノ売りからコト売り、製造業のサービス化などビジネス構造を大きく変えている。それによって製造業における収益モデルが変わり、売上を上げる手段とコストダウンへの余地が新たに生まれている。そこをどう捉え、どう自社の収益改善に取り込んでいくかがポイントになる。

売上アップに関しては、IoTなどさまざまなデジタルツールを駆使し、製品の機能や性能、品質を上げて製品力をアップし、販売量や値上げなどによって利益率を高めるような製品売り切りモデルの進化をはじめ、設備や工程から集めたデータを活用した予兆保全や生産効率化のソリューションの展開といった新サービスが挙げられる。外部企業との協業による他分野への展開など、既存事業の拡大と新規サービスや分野に取り組むことも盛んに始まっている。

また一方で、生産性向上によるコストダウンも収益改善の大きな柱となる。デジタルツールを使った各工程の効率化をはじめ、設計から製造、保守保全まで一貫した管理による工場内の最適化、工場とオフィスの情報共有、工場間やパートナー企業との連携などを通じて、製造におけるムダを減らして収益改善につなげていく。売上拡大とコストダウンの両面に取り組むことが大切だ。

中小企業のデジタル化への課題

中小製造業でもスマートファクトリーやIoT、デジタル化への関心が高まっているが、その最も高い壁となっているのが「ヒト」と「金」の問題だ。

デジタル化は経営からのトップダウンと、現場からのボトムアップの両面から実行することが肝要。また実現するためには情報系のIT技術と、現場系のOT(オペレーションテクノロジー)の協力が不可欠となる。その人材と、その理解が圧倒的に足りていないのが実情だ。

時代の流れがデジタル化に傾いていることを理解しながらも、「効果が分からないものに対して投資はできない」「どのようにやればいいか分からない」「IT人材も不足しているのにIoTなんてとんでもない」という経営者は多い。また、「経営者や上司がとりあえずIoT化と言っているが、具体的に何をすればいいか分からない」「予算がない」「IT側の知識が足りない」と感じている現場担当者もよく見かける。また、「現場やものづくりは門外漢で分からない」というIT担当者やIT企業はたくさんある。

経営トップと現場の両方が、デジタル化によって何ができ、どんな効果があるのかを理解し、それを実現するためのステップを学ぶこと。さらに、そこに必要な技術や製品、サービスを知り、そこに適切な予算を確保すること。さらには、中小企業で不足していると言われるIT人材の確保。これらを解決しなければ、中小企業がデジタル化し、時代の潮流に乗って利益体質になるのは難しい。

第4次産業革命、デジタル化を知る、相談する

第4次産業革命とは何か?デジタル化やIoT、スマートファクトリーはどう実現し、その効果はどれほどなのか。それが不明確だと第一歩を踏み出すのは難しい。WEBや新聞、雑誌から多くの情報が出され、関連した展示会やセミナーなども多く開催されている。さらには、デジタル化やIoT化に向けたサービスやソリューションを提供する企業も数多く出てきている。

それらを使うことはもちろんだが、より低コストで気軽に情報を仕入れる、相談する場合は、国や行政が行っているサービスが役に立つ。

経済産業省は2016年度から、全国各地で中小企業の第4次産業革命を支援するための相談窓口として「スマートものづくり応援隊」の整備を開始。生産技術に秀でた企業OBや、IoTやロボットなどに知見のある専門人材を中小企業に派遣し、一緒になって改善策や技術を考え「伴走型」で支援するサービスを提供し、現在、全国21拠点で活動している。

例えば、福岡県北九州では北九州産業学術推進機構(FAIS)に拠点を置いて活動を開始。生産技術とロボット技術に通じたコーディネータ2名が連携し、中小企業の生産性向上を実施。IoTやロボットを前提とせず、経営課題の特定、現場改善や「カラクリ」で済むところはそれで済ませる方針が企業からは好評を得ている。経営者や管理者向けに「IoT・第4次産業革命研究会」を実施し、経営者や工場長ら14人が参加し、トップダウンの意識醸成を推進している。

大阪の拠点である大阪商工会議所では「IoT・オープンネットワーク活用研究会」を開催し、課題の特定やIoTに関心のある企業同士のネットワーク化を実施。17年度はIoTカリキュラムをより実践的なものに高度化したいとしている。

岐阜県大垣市のソフトピアジャパンでは、もともとIT産業が盛んな地域で、IT人材がものづくりを学ぶことによって、製造現場とITの知見を持った人材育成を推進している。すでに3社を支援し、ITと製造、ベテランと若手が融合したチームが機能しているという。このうち1社では工場建替を機にスマート工場化も検討されているという。

さいたま市産業創造財団では、改善活動に取り組む企業に対して、従来型の改善支援にIoT活用を加えたチームによる支援体制を実施。アドバイザーが6社を支援し、参加企業側も若手とベテラン、管理・製造部門が一体となった改善・IoT活動を実施して課題を整理。各社で工数の削減やリードタイムの減少、品質管理の効率化などの課題を整理、今後の方針を明確化できたという。

手軽で低コストで使えるデジタル化への課題

実際にIoTやデジタルツールを導入してスタートしたいと言っても、そこには設備投資が発生する。資金力に乏しい中小企業にとって、低価格で簡単に導入して始められることが大前提になる。

経産省とロボット革命イニシアティブ協議会は、中堅・中小製造業がより簡単に、低コストで使えるツールとして「スマートものづくり応援ツール」106件を認定し、公表している。

同ツールは、目的別に「1. 生産現場における課題を解決するためのツール」「2. 工場や企業の間で情報連携をする際の課題を解決するためのツール」「3. 事務における課題を解決するためのツール」「4. グローバル化に伴い、海外で展開するために役に立つツール」「5. 自社製品をIoT化するためのツール」「6. データの活用全般に関わるツール」「7. 人材育成の観点で活用できるツール」の7つのユースケースをテーマに収集したもの。

例えば、武州工業の「スマートフォンを利用した機械動作情報収集装置」は、スマートフォンなどの端末に内蔵されている加速度センサーとWebサーバー上のプログラムを連動させて作業状況の見える化を行う。端末は5年ほど前の旧機種でも快適に動作するためコスト数千円/台での導入できる。

サンクレエの「写真de在庫管理」は、従来は手書きやEXCELへの入力で行っていた在庫管理をスマートフォン入力で代用。バーコードやRFID、各種機器などの大きな投資がいらず、スマートフォンで月5000円から購入したその日から利用できる。

IoT導入や活用に向けた金融支援策

デジタル化には新たな基盤やツールなどが必要で、そのための資金が必要となるが、各種補助金や支援制度が整備されている。

日本政策金融公庫は今年4月から、中小製造業がIoTを導入して付加価値向上に取り組む際の設備資金を、低利で融資する制度「IoT財投」を新設。スマートものづくり応援隊など専門家の支援と組み合わせて融資することで、各企業の経営環境に見合った投資を実現できる環境を整備した。最大7.2億円の貸付け、基準金利より0.65ポイント優遇を行っている。

また経済産業省は、中小企業がIT・IoTツールを導入し、生産性向上を図る際の必要経費を補助する「IT導入補助金」を新設。上限100万円で、補助率は2/3。CADやERPなど、製造業向けのソフトウェアにも活用できる。募集期間は6月30日までとなっている。

また新たな補助制度として、省エネ補助金における「ものづくりIoT」の支援を予定している。省エネ法に基づく告示を改正して製造現場でIoTを活用した先進的な省エネに中長期的に取り組む事業者に対しては優遇策を検討。

また、すでにある新連携支援事業 (商業・サービス競争力強化連携支援事業)とサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)に対して、IoTを活用した新事業も対象としている。

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