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THK産業機器統括本部 技術本部事業開発統括部 永塚ビジネスユニット 小澤浩司課長に聞く「つまむ・にぎる・つかむ」を1台で実現 JAXAとの共同開発から生まれたロボットハンド

人の作業の代替として進化してきた産業用ロボット。これまではある一つの単純作業を行うものが主でしたが、これからは人と同じように複数の作業が行えるような汎用性と柔軟性が求められていきます。それを実現する鍵となるのが、手先の作業を司る「ハンド」です。世界で初めて直動を転がり化した「LMガイド」をはじめ、世界トップクラスの直動と回転の制御技術を持ち、ロボット産業を含めた機械産業の全般に貢献しているTHK(東京都品川区、寺町彰博CEO)。2016年に3本指のハンド「TRX」を開発し、各方面から高い評価を受けています。ロボット産業への取り組みとTRXについて、産業機器統括本部技術本部事業開発統括部永塚ビジネスユニット・小澤浩司課長に話を聞きました。

-TRXとはどんなハンドですか?

TRXは、「つまむ」「にぎる」「つかむ」という手の動きを1台で実現した3本指のハンドです。本体はコンパクトですが力は強く、さまざまなサイズのモノをしっかりと把持することができるのが特徴です。

これまでのハンドは、圧縮空気の力で把持するチャックや、モノを挟む・放すグリッパーが主流で、用途はハンドリング等に限られていました。人間の手のような多指形状のハンドもありますが、人と同じ動きを再現できても力がなくて把持できないものや、パワーはあってもアームに取り付けて動かすには重すぎるものなど、非実用的なものばかりでした。

人間の手のように器用に動き、しかも実際の現場で汎用的に使えるようなハンド、それを目指して開発したのがTRXです。

-具体的にはどのような構造になっているのですか?

本体にボールねじとステッピングモータを使った直動アクチュエータが組み込んであり、その1軸の動きによって3本の指が曲がり、伸びる構造です。指に巻き込みリンク機構を採用していて、手より小さなものに触れた場合は指先を巻き込んで「にぎる」動作になり、逆に大きなものの場合は手のひらと指先で「つかむ」という動きになります。薄いものなどを持つ時には「つまむ」という形で対応することができます。

内蔵の直動アクチュエータは小型・高推力なものを使い、小型タイプのTRX-Sは最大握力30N(ニュートン)で最大可搬質量は3キロ、大型のTRX-Lは同100Nで、10キロのものを持つことができます。把持した状態を維持することも可能です。

-にぎる、つかむ、つまむという制御はどのように行っているのですか?

本体に自社開発のモータコントローラ「SEED Driver」を搭載し、ハンドの細かな制御はSEED Driverで行っています。

SEED Driverは、ロボットアーム本体のコントローラから指を動かすためのON信号を受け取ると、モータを起動して指の握りこみをはじめ、負荷がかかったところでモータを制御して把持状態にします。手を開いて放す場合は、OFFの信号を受けてその逆の制御を行います。

使い方は、ハンドをロボットアームに取り付け、SEED Driverと外部入出力モジュール、ロボットアームのコントローラ、電源をケーブルで接続するだけです。指を握りこむスピードや力の制御の設定は、SEED DriverをPCとつなぎ、スクリプト書き換えやパラメータいじるだけで変更できます。

-発売開始からの感触は?

非常に順調です。自動車や電子機器メーカーで、新しいタイプの産業用ロボットとして「協働ロボット」の導入検証が進んでいますが、それに使うハンドとして多くの引き合いをいただいています。

今の協働ロボットは10キロ可搬以下のタイプが主流で、従来の産業用ロボットに比べるとあまりパワーがありません。ハンドが重いとその分、持る重さが減るため、協働ロボットではハンドの重さが選定の際の重要な要素となっています。その点、TRXの自重は小型のTRX-Sで320グラム、TRX-Lで1.2キロしかなく、アームの可搬重量を邪魔せずに使うことができ、しかもパワーがあって、動作も柔軟ということで、現場でも高く評価していただいています。

具体的なアプリケーションでは、人手で運んでいる1~2キロ程度のさまざまな形状のものを運ぶハンドリング用途が多く、このほか加工機からの樹脂成形品の取り出しや、自動車のバンパーのような軽量だが大型のものを双腕で把持するような使い方なども出てきています。

さらに、ある製造工程ではハーネスなどの柔軟物を一度に何本も束ねて把持するなど、従来のチャックやグリッパーではできなかった作業にも使えるといった声もいただいています。

また、3種類の把持動作ができる特徴を生かし、人が複数の作業を行うように、ロボットもTRXを活用していくつもの作業を担当させたいというようなニーズも多いようです。

-直動や回転を制御する機械部品の印象が強い御社が、ハンドに取り組んだきっかけは?

06年に宇宙オープンラボに参加し、そこでJAXAから、宇宙服を着た宇宙飛行士の手と同じくらいの大きさで、力や器用さも同程度のハンドを作りたいと相談を受け、共同研究を始めたのがはじまりです。当時、ハンドの実績はありませんでしたが、当社が極小で超精密、しかも頑丈な直動アクチュエータを工作機械や半導体製造装置などに納入していた実績があり、そこに着目していただいたようです。

07年から宇宙空間での作業用ハンドの開発をスタートし、はじめにボールねじとブレシレスDCモータで作った直動アクチュエータで指を動かす指モジュールを開発しました。単2電池ほどの大きさで、270Nの力を出すことができ、07年にはこれを3つ並べた3本指のハンド第1号を完成させました。

しかし第1号は、力強く器用に動く半面、制御系では太いケーブルと大きなコントロールボックスが必要という弱点があり、08年の第2号以降は制御系にも改良を重ねていきました。そして11年には、指ごとに制御機能を持ち、それぞれが協調して動くことができる4本指のハンドが完成しました。

4本指のハンドは人間の指と同じ3つの関節を持ち、それぞれの軸指の表面に圧力センサを搭載するという超高感度、高性能なもので、地上での評価を行いました。

-4本指のハンドは実際に宇宙で使われたのですか?

残念ながら、この4本指のハンドは地上実験のみでした。しかし、それまでの開発結果を盛り込んで作った「REX-J」向け宇宙専用ハンドがロケットに乗って国際宇宙ステーションの実験棟「きぼう」に持ち込まれ、12年8月と11月に動作実験が行われました。実験は見事に成功し、開発したロボットハンドは「宇宙暴露環境下で動作した世界初のロボットハンド」になりました。

そして、このJAXAとのハンドの共同開発を元に、実際の現場で使えるように設計し直したものがTRXとなります。宇宙空間という極限環境で故障せず、失敗が許されないなかの超精密作業が求められるなかで開発したもの、そのエッセンスが詰まっています。

-TRXはJAXAとの共同開発のたまものですね。

そうですね。しかしJAXAの共同研究の一方で、同じ時期に産総研、川田工業と共同でNEDOの「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」において「コンパクトハンドリングシステムを備えた安全な上体ヒューマノイド」の開発をスタートさせていて、ハンドの研究開発に取り組んでいました。そこで得た技術もTRXに盛り込まれています。例えば、SEED
Driverを含む制御技術もその一つです。

双腕ロボット本体と2つのハンドを省配線でつなぎ、コントロールボックスも最小化するために開発され、その技術はJAXAと共同開発していたハンドにおける指モジュールの協調動作にも生かされました。

同じタイミングで、小さなアクチュエータとそれらをつなげる制御技術が求められ、開発を進められたのは良いタイミングでした。

-今後について教えてください。

TRXは、力強く、さまざまなサイズのワークを、複数のつかみ方で把持することができ、制御部分もハンド自身に含まれているので配線が非常に楽になるというメリットがあります。

まず標準的なハンド製品を出してスタートを切りました。はじめは工場内の協働ロボットの分野に浸透させ、いずれはサービスロボットのハンドとしても広げていきたいと思っています。

そうした広がりを作るためにも、現在、教育機関に使ってもらえるようアカデミックパッケージを通じて特別価格で提供するような取り組みを行っています。

TRXを一人でも多くの人に使ってもらい、幅広い分野での未来に向けて貢献していきたいと思っています。

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