素材・化学メーカーが第4次産業革命を実現するヒントはIoTを利用して本当のユーザーニーズを知ることにあり(前編)〜SAPジャパンの超リアルタイムビジネスが変える常識(18)〜

新事業展開のチャンス 3つの切り口で変化捉える

IoT、ビッグデータ、AIなどの新しい技術を背景に話題が沸騰しているドイツのインダストリー4.0や、アメリカのGEを中心としたインダストリアルインターネット。しかし、これらの事例は組立製造業が中心で、素材・化学業界は後塵を拝しているのが現状です。一方で、汎用素材では内需の減少などにより生産能力が過剰となり、機能性素材ではグローバル競争激化への対応が課題となっています。こうした課題が山積する中、IoTを中心とした第4次産業革命に向けて、素材・化学業界は何を備えたらよいのか。2015年11月12日に開催されたSAP Forum Tokyoでは、経済産業省製造産業局化学課長の茂木正氏と、SAPジャパン バイスプレジデント プロセス産業統括本部長の宮田伸一が、その対応策を議論しました。
■素材・化学メーカーは第4次産業革命を3つの切り口で捉えるべき
最初に講演した経済産業省の茂木氏は、素材・化学メーカーはIoT、ビッグデータ、AIなどがもたらす変化を、3つの切り口で捉えるべきだと語ります。
「1つめは、新しい事業を展開するチャンスが訪れていることです。いち早く新規事業に着手することで、高収益体質に変化することが可能になるでしょう。2つめは製品を供給している自動車メーカーや電機メーカーなどのユーザー企業が変化していること。素材・化学メーカーは変化するユーザー企業のニーズを、どのように先取りして製品化していくかが課題です。3つめはイノベーションに合わせて生産方式も変化していることです。日本企業には優れたノウハウがありますが、熟練工が減っていく中で、次の世代にそれをどのように伝えるか。そして、ビジネスの海外展開に向けて、現場のノウハウをどのように標準化していくかが課題です」
まず1つめの「新規事業を展開するチャンス」を見てみましょう。すでに素材情報に対してIoTを活用し、新たなサービスを付加したビジネスモデルが出始めています。例えば、フィルムメーカーや画像素材メーカーなどが、医療用画像データを活用した診療支援システムに乗り出したり、血液の簡易検査によってユーザーに検査情報健康関連情報を提供したりしている例があります。また、空気圧の計測センサーをタイヤに装着して空気圧の減りをチェックし、タイヤ交換からメンテナンスまで事業を拡大している事例もあります。
素材の市場自体にもチャンスが眠っています。主要電材素材における日本企業のシェアは2004年から2014年までの10年で大幅に低下し、単価も低下傾向ですが、機能性化学品の世界市場は、建築化学品や食品添加剤などのスペシャリティケミカル領域が上位を占めています。その分野ではまだ大きなシェアを獲得していない日本企業にとって、新しい領域に進出していくチャンスが残っているのです。
2つめの「ユーザー企業のニーズの変化」については、近年はユーザー企業のニーズが複数の素材を組み合わせて相乗効果をもたらすマルチマテリアル化にシフトしています。そのニーズをくみ取って早く提案してほしい、開発スピードを加速してほしいとユーザー企業は考えているのです。茂木氏は「そのためには、オープンイノベーションが重要です。素材開発においても、人工知能、計算科学技術、IoTなどの技術や社外に埋もれた技術を活用することで、材料の設計、開発期間を短縮することができます」と指摘します。
近年は製品寿命の短期化も著しく、経産省の調査(2012年)によると、モデルチェンジまでの平均年数は3年以下が自動車業界で約35%、電気機械では約70%に達し、製品開発のスピード化が迫られています。ライフサイクルの短縮に向けて、アメリカでは実験化学やシミュレーション、ビッグデータやAIなどを組み合わせた素材開発のインフラを構築するプロジェクト「マテリアル・ゲノムイニシアチブ(MGI)」が2011年からオバマ政権下で始まり、素材の開発から市場導入までの時間の半減を目指す動きが見られています。
日本でも経産省が旗振り役となり、従来の技術にはない新しい機能を有する超先端材料の創製と開発スピードの短縮を目的とした「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」の立ち上げを目指しており、2016年度に向けて19.5億円の新規予算を概算要求中です。それ以外にも、日本の大学が持つ高い技術や企業に埋もれている技術を生かした素材系のベンチャー企業が出始めています。さらに政府系のファンドである産業革新機構は、素材系ベンチャーに3年間で総額約44億円の投資をして事業の成長を支援するとともに、大手の素材・化学メーカーとのマッチングを促すことでスケールアップを加速させています。
3つめの「次世代生産システムの転換」についても、国内外でIoTの活用事例が現れています。ドイツの化学メーカーのBASF社は、IoTを応用して同じ製造ラインで複数の製品を作り分けることに成功しました。日本では、ダイセル社が熟練工のノウハウを標準化した「ダイセル式生産革新」によって品質の確保やコストダウンを実現しています。
これらの状況を踏まえて茂木氏は「IoTを活用した事業のサービス化を進めるうえでは、制度上のグレーゾーンも存在しますので、今後は政府もルールの見直しの面から協力していきます。また、生産性の向上や保守の合理化についても、旧来の制度を見直しながら、企業の成長を支援していきます」と語りました。
(SAP編集部)

オートメーション新聞は、1976年の発行開始以来、45年超にわたって製造業界で働く人々を応援してきたものづくり業界専門メディアです。工場や製造現場、生産設備におけるFAや自動化、ロボットや制御技術・製品のトピックスを中心に、IoTやスマートファクトリー、製造業DX等に関する情報を発信しています。新聞とPDF電子版は月3回の発行、WEBとTwitterは随時更新しています。

購読料は、法人企業向けは年間3万円(税抜)、個人向けは年間6000円(税抜)。個人プランの場合、月額500円で定期的に業界の情報を手に入れることができます。ぜひご検討ください。

オートメーション新聞/ものづくり.jp Twitterでは、最新ニュースのほか、展示会レポートや日々の取材こぼれ話などをお届けしています
>FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

オートメーション新聞は、45年以上の歴史を持つ製造業・ものづくり業界の専門メディアです。製造業DXやデジタル化、FA・自動化、スマートファクトリーに向けた動きなど、製造業各社と市場の動きをお伝えします。年間購読は、個人向けプラン6600円、法人向けプラン3万3000円

CTR IMG