不連続戦線に異状なし(56) 黒川 想介

優秀な兵士より斥候に 顧客の内情を見逃すな

戦場の勝敗で運を天にまかせる司令官はいない。孫子の兵法書の最終篇にある「用間篇」では間諜、つまり、スパイを用いることの重要性について述べている。合戦ではもろもろの準備に要する時間やお金は莫大なものである。その上に勝敗は1両日で決まってしまう。勝敗の鍵は情報に有り。だから敵中に入り情報の入手や工作をする間諜(スパイ)は十万の大軍に値した。敵の力を弱める諜報工作や戦場での作戦の成否はくわしい敵情の入手にあるからだ。
孫子の兵法書が冒頭ではっきり言っている。戦争は莫大なお金がかかり、国の民から高い税金を取って苦しめる。だから戦争をやらないのにこしたことはない。しかしやらざるを得ないのなら勝つことに徹せよ、と言う。そのための戦略・戦術が孫子の兵法書である。その最終に用間篇をもってきたのはいかに間諜が重要かを示唆している。
一国の存亡を賭けた戦いではなくとも勝つためには戦略・戦術あるいは作戦がいかに大事であるか、そしてその基にあるのは情報だということを万人は知っている。戦いにおいて「先手は万手にまさる」と言われている。勝利の方程式があるとすれば先に知り、先手を取って相手を先に制することつまり先知・先手・先制と言うことができる。
軍事活動において敵国や敵の陣営に潜り込んで情報をとる間謀は特別の部隊で教育され、諜報工作や敵情入手を専らとしているが合戦の場にいる部隊でも情報を入手するための偵察は欠かせない。偵察は敵の様子を探ることにあり二通りの方法がある。隠れて相手の様子を探る偵察と、公然と力を発揮して探る威力偵察である。
日露戦争で司馬遼太郎著『坂の上の雲』に黒溝台会戦時、秋山好古騎兵旅団の前に突然、ロシアのコサック騎兵が現れ、側面を通り抜け後方攪乱をしながら日本軍の弱点をみつけるという、すさまじい威力偵察のことか描写されている。もう一つ隠密に行う偵察は特に前衛部隊が敵前を行軍する時に行う。数名を斥候兵として選出し、軍が前進するため敵兵や地形の情報を収集させる。生死を賭けた戦いで敵や地形が、どういう状態であるかを知らなければむやみに動けないからだ。情報は生死の鍵を握っているのだ。
生死こそ賭けてないが、現在の営業戦線で社会の変化に対応しようとしている顧客はたくさんある。営業が前進する時に、自分たちの顧客である製品開発設計者や製造技術者の動きは、従来のパターンから外れてないか、従来の延長戦からも外れてないかを探って進まなければならない。また、顧客の食堂や会議室を借りてやる持ち込み展示会を、成長期には商談の場として捉えていた。
しかし、昨今では商談の場から目的を威力偵察に変えた方がいい。つまり、商談をする時間より顧客内でどんな人がいるか、新部署はないか、を知るために顔を出した人すべてと会話し、後日訪問の取っ掛かりをつくっておくことを優先すべきということである。
昨今の販売員は兵士として優秀に教育されている。難しい案件を右から左に処理し、客対応の旨さ、手なれた商品紹介などは慣れたものだが彼らを斥候に出すと偏った情報しかとれない。戦いは上手だが斥候としての偵察は下手になっているということなのだ。
それでは刻々と変わっているが表面にはまだ現れていない顧客の内情を見逃して後手を踏むことになる。不連続の時代に入っている昨今では、販売員は優秀な兵士になって売り上げを確保するより、優秀な斥候になって明日の売り上げの基をつくることを本分とすべき時のようだ。

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