Smart Factoryの実現 現場から見た実態と課題

製造ラインにおける自動機製作から、データ収集・MESの構築やERP連携、さらにはPLMにおけるエンジニアリングチェーンの確立までを事業の柱とするFAプロダクツ。高度な製造現場・設備の知見と、IT開発の両方を兼ね備え、一気通貫でSmart Factoryの導入実践をサービス提供できる数少ない企業として注目されている。同社代表でこの分野の第一人者、貴田義和氏が現場視点でのSmart Factory実現における実態と課題、将来の展望を解説する。

■Smart Factory 実現のステップ

Smart Factor実現における全体像と五つのフェーズをまとめてみた。

各社・各事業所それぞれ実現したいGoal はさまざまだが、「稼働管理」「品質管理」「在庫・人の管理」の三つに集約されているようだ。しかし、いずれのGoalへ向かうにしてもフェーズ1の「見える化」は必ず避けて通れないステップであり、大きなコストと工数がかかる一番大きな壁がスタートから立ちはだかる。

事実、数多くのプロジェクトがこのスタートでつまずいているようだ。

■本格的に動き始めたSmart Factory化プロジェクト

「IoT」「Smart Factory」「Cyber Physical System」など、会社によってキーワードはさまざまだが、各社のプロジェクトが実際に動き、実証フェーズに入っている。しかし先に述べた通り、多くのプロジェクトが見える化の段階でつまずいている。そのため、当社にも自動車、金属、三品(食品、薬品、化粧品)、重工業、家電など大手企業を中心に多数の相談をいただき、大小さまざまな実案件のお手伝いをさせていただいている。

つまずきの要因は大きく三つあると考えている。一つは製造現場・設備とIT開発両方の知見を兼ね備えたスペシャリストが社内にもシステムベンダーにもなかなかいないことだ。

見える化実現のためには、生産設備や人・部品等のデータを吸い上げデータベース上で一元化する必要がある。しかし生産現場のデータを理解しさまざまな方法で吸い上げる役割の部署と、データベースを構築し一元化されたデータを活用できるようにインフラに乗せることができる部署は異なる。外部ベンダーに委託する場合も詳細の要件定義や指示が弱くなり、やりたいことがベンダーの能力に依存ししまう。

また、外部企業の相談先も少ない。装置ベンダーはIT系開発に弱く、IT系ソフト開発ベンダーだと逆に製造に関する知見が少なくデータの仕分けや吸い上げる手法が弱い。さらに機器・ソフトウエアメーカー等に相談した場合は、その企業の製品が提案の中心となってしまい、課題解決に最適なアプローチを阻害してしまう場合が多い。製造ラインの自動化技術は日本が誇るべき強みであるが、ワンストップでサービス提供ができる企業がまだ少ないのが実態だ。

もう一つの課題が、多様な形でかつ膨大にある現場の情報から、必要なデータを仕分け、必要なかたちのデジタルデータにする壁だ。

解決したいGoal→要素となるKPI→必要な現場のデータの抽出→どう吸い上げるか…

何もかもあらゆるデータを取得すればいいわけではなく、統一化されていない属性で格納されている膨大な種類のデータから本当に必要なデータを探し出す作業は非常に専門性も高く、工数もかかる。対象となる機器(センサ・計測機・PLC等)もメーカー・形式が現場には入り乱れており難易度を上げる大きな壁となっている。

さらに、リアルな生産関連データを「見える化」されることへの「現場の抵抗」もある。長年、勘と経験ですすめてきた現場の場合、この手の取り組みにはアレルギー反応があり、見える化自体に否定的だ。

このようにプロジェクトのまさにフェーズ1であるこの「見える化」こそが、一番の高い壁となっておりどの企業も苦労をしている。しかし大前提としてこの問題をクリアしないことには一歩も前に進まない。まずはスモールスタートでも良いので、各部署の連携を進め成果を積み上げることから進めている会社が結果大きな成果を生み出せていると思う。

われわれも調査やデータ分析・改造・工事等製造現場の部署との連携は「見える化」には必要不可欠であり、どの案件でも慎重に進めることにしている。

【Smart Factory実現のために】

Smart Factory化の目的として「稼働管理」「品質管理」「在庫・人の管理」の三つに大別される。しかし言葉だけ見ると、日本の製造現場でそれらを取り組んでいない会社はない。また、「うちは10年前からトレーサビリティ管理に取り組んでいるけど、スマートファクトリーとかIoTなんて、何をいまさら…」という声もよく聞く。では、この意識の差はどこからくるのか?

■従来との違い

まず一つ目の「稼働管理」。実は従来の「稼働管理」とSmart Factoryが実現する新しい「稼働管理」は全く別物だ。従来の稼働管理は生産能力の把握を行うのがメーンの活用方法だった。しかし、新しい稼働管理は本質的な停止要因を分析し、リアルタイムに「コントロール」することを意味する。分析結果をPLMや基幹システムと連動し、最適な生産計画や順序・人の配置や作業内容を実現する。

「品質管理」も同様だ。新しい品質管理では検査データの保存だけではなく、さまざまな生産過程のデータを取得し、各種傾向値を分析。最終的には設備にリアルタイムフィードバックを行い設備をコントロールする。結果として品質の向上とそもそも不適合品自体を出さないラインを実現する。

新しい在庫管理では、入り口と出口での在庫管理だけではなく、中間在庫や仕掛品のロケーションまで管理、先の「稼働管理」のデータと連動し、適正在庫や適正な人員配置を計画できる。これら三つを実現するためにはやはりデータの見える化が必須でファーストステップとして避けて通ることができない。

■見える化の先にあるもの

取得したデータをどう活用するのか?どんな分析、解析ソフトがあるのか?とよく質問をいただく。最近ではビッグデータをAI(人工知能)で瞬時に分析することなどが注目を浴びているが、多くの実績・成果を挙げているものはまだ現れていない。そこで、一番取り組みやすく、以前より多くの実績がある生産シミュレータ技術との連携が注目されている。

シミュレータを用いた最新の「稼働管理」の活用事例をあげる。主に生産シミュレータは新規工場やライン導入の際にPC上で仮想ラインを構築し、成立性を検証することに活用されている。さまざまなインターフェースも開発されたことから現場の吸い上げたデータの分析結果を活用した、自立的なコントロールの仕組みを構築する良いツールとして活用されている。

通常ERPからの計画データをMESが各製造工程に製造指示をする。このERPとMESの間に生産シミュレータをオンラインでつなぎ、都度計画データと実際の現場データのフィードバックデータを学習し、現状の現場に最適な指示データを作成し受け渡すというシステムを構築することで、仮想と現実をつなぎ(デジタルツイン)生産性を本当の意味で最適化することを可能にする。

また、フィールドレベルで使える製品も開発が進んでいる。リアルタイムにデータを処理し人工知能技術をベースとした簡単な開発環境提供するメーカーも出てきて、製造現場におけるリアルタイムの異常検知、予兆保全を実現している。実際に工場ではセンサ情報と人工知能を活用した実証実験を実施、極めて高い異常検知に成功している。

■日本の製造業復権のために

Smart Factoryの実現は製造業のグローバル化に伴い、避けては通れない。繰り返しになるが、製造現場とITの知見両方を持った人材やベンダーの不足が、Smart Factory実現を拒む要因だと考えている。政府にはこの分野の人材育成や実証実験にもっと予算をつけ、ぜひ施策を打ってほしい。そして、企業には見える化により第一歩を踏み出し、生産性向上を実現してほしい。そのことにより日本の製造業が競争力を再び取り戻し、製造業が復権すると考えている。当社はそのために全力で取り組んでいこうと考えている。

■株式会社FAプロダクツ 代表取締役社長 貴田義和(きだよしかず)
株式会社キーエンスに入社。17年間あらゆる現場でのセンサ・制御機器・計測機器のコンサルティング販売経験を活かし、2009年FAナビグループのモノ作りエンジニアリング部門である株式会社FAプロダクツを設立。日本の根幹産業である製造業に革新的なモノ作りのシステムを広めることで、今一度世界で勝てる製造業の復活の一翼を担うことを経営理念に掲げる。現在多数の企業のIoT化プロジェクトに参加し、システムのコンサルティングから設計・開発・導入までを一気通貫で提案を行っている。Smart Factoryの導入事情についての質問はinfo@faproducts.jpまで。

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