不連続戦線に異状なし 黒川想介

■虞をもって不虞を待つ 見込み客全体を俯瞰し準備

人は出勤の時であれ、遊びに行く時であれ、何か忘れ物はないかと一応チェックする。初めての出勤や、久しぶりの旅行などの場合は、念入りにチェックする。慣れてくると緊張感がなくなり、ついつい忘れ物をするのは人の常である。営業が客先訪問する時にも同様に、何か忘れ物はないかとチェックする。営業が出陣する時は準備が大事であるとうるさく言われていた時代があった。現状では訪問準備は営業の自己管理の問題になっており、先輩・上司がとりたてて教えるようなことにはなっていない。うるさく言われていた時代の背景には、見込み客を訪問するにしても、常日頃から訪問している顧客の場合でも、何が売れるか分からないから売り込み用具は忘れるなということであったのだ。

うるさく言われていた頃の営業は常に戦闘モードであったのだ。現状でも営業が客先訪問をする時は、出陣という戦闘モードであることに変わりはない。しかしメール社会、ネット社会では、電子機器さえ持っていれば何とかなるという、半ば安心感のある世界である。そこには、何か忘れ物はないかと気を配る緊張感は薄れる。

さらに、うるさく言われていた時代とは違って、客先訪問の大半は、すでに案件や要件の打ち合わせであり、案件や要件のない時の訪問は少ない。打ち合わせに要する資料類や内容の調査の準備は必要にかられるために怠らないが、案件や要件のない時の訪問は少ないので準備慣れしていない。

何とかなると半ば安心感のある世界で育った世代には、訪問準備不足の怖さを知らない。いつもの調子で売り込む商品の資料と会社案内、携帯電子機器を持って出掛ける。得意先が相手であれば、和気あいあいに話す前後に売り込む商品の資料を手渡しし、一応の説明をして聞いてもらう。初めて会う見込み客が相手であれば、和気あいあいと言う具合にはいかない。最初から緊張している。

人は、緊張している時にはいつもの慣れていることをやってしまう。会社案内を持っていればそれを広げるし、新商品を売り込もうとすればその説明に入る。相手から反応があれば良いが、なければ窮する。それでも何とかなると半ば安心感のある世界で育った世代では、訪問準備とは何かを考える時間は作らない。むしろ会いにくい見込み客には反応がないだろうと勝手に判断して足が遠のく。

孫子の兵法書に「勝と知るに五有り」がある。①もって戦うべきともって戦うべからざるものは勝つ②衆寡の用を知る者は勝つ③上下欲を同じくする者は勝つ-の3項は前回まで考察した。

④に「虞(ぐ)をもって不虞(ふぐ)を待つものは勝つ」とある。これは直訳すると、前もって先々のことを考えている者は、考えていない相手にスキが出るのが見える。そのスキが出てくるのを待てば、そのスキをつけるから勝つというものである。

会社案内や売り込む新商品は、先々のことではなくて直近のことになる。それでは瞬間的にも空間的にも余裕がないため、相手のスキを見つけてそこをつこうとしても、どんなスキがあるか分からず何を準備しておけばいいのか分からない。相手というのは競合相手ではなく、対面している見込み客のことである。時間的余裕を作れば対面する見込み客と、現在取引している販売店の関係が見える。また見込み客は常に合理的・論理的な考えだけで仕事をしているわけではないことが分かる。

見込み客全体を俯瞰(ふかん)すれば攻めやすい部署や各組織の今後の行方にも目をやり、それに向かって準備もできる。したがって、虞をもって不虞を待てばチャンスは巡ってくる。

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