日本の中小製造業・町工場のお家芸である『多品種少量生産・短納期生産』が、世界の潮流となってきた。インダストリー4.0(I4.0)やインダストリアル・インターネットも、『究極の多品種少量生産システム』を目指しているのは明白である。

ドイツのシーメンスは、I4.0の目指す工場を『1個でもすぐ作れる生産システム』と定義し、その実現システムを提案している。今年4月13~17日に開催されたハノーバメッセで、同社が『消費者の注文から即座にオーダーメードの香水を生産し、供給するシステム』を発表したことは記憶に新しい。多品種少量生産が競争力を作り出すことは、バブル崩壊以前の日本メーカーが実証してきたことである。

かつて高度成長下の日本は、日本メーカー同士(日日競争)の激しい開発競争の時代であった。世界のメーカーと比べ新商品の投入サイクルが極端に短いことが、日本メーカーの特徴であり国際的競争力であった。この傾向は、自動車業界はじめ家電業界に至るまであらゆる業界に当てはまり、新製品発表が相次いだ。

開発競争の激化は全メーカーに広がり、下請けには相次ぐ試作製造が指示された。在庫を持たない生産や短納期生産への挑戦が始まり、系列化にある中小製造業・町工場では、多品種少量生産への対応を余儀なくされた。この要請に応えた企業努力が『日本の中小製造業・町工場の高度なデジタル化・インテリジェント化、そしてオートメーション化を実現した』と言っても過言ではない。

世界を渡り歩くと、その現実を痛感する。規模は小さくても、日本の中小企業や町工場で繰り広げられる『多品種少量生産と超短納期生産の現実』は驚愕に値する。世界中どこを探しても、『究極の小ロット生産や短納期生産』を真似できる国はない。

精密板金加工業界では、1日板金や1個生産が最近のキーワードとなっており、受注から出荷まで、図面作成から現場での板金への穴あけ加工、曲げ加工、組み立て、溶接、塗装の全ての工程を1日で行うことを宣伝する企業も現れた。受注数量も1個から。脅威の生産体制が日本では一般化している。海外の製造業従事者が日本を訪れ、日本の町工場を視察すると、この事実を目の当たりにして驚愕する。大手製造業の大規模工場視察より、何十倍ものインパクトを与えるのが、日本の町工場である。

精密板金加工業界は、代表的な下請け型の製造業界である。精密板金製造業界の歴史を紐解くと『多品種少量生産と短納期生産』へのし烈な要求と、その対応の現実が見える。

タレット状のテーブルに複数の金型をセットし、プログラムで選択&取り付けプレスする高速のプレス加工機であるCNCターレットパンチプレスは、40年以上前に市場に登場した。元来『配電盤加工用』として開発された機械であるが、プログラマブルな命令で自由な加工が出来るため多品種少量生産に向くことが分かり、業界に大革命をもたらした。従来のプレス機による大量生産は完全に影を潜め、CNCターレットパンチプレスによる『多品種少量生産』の幕が開いたのである。

1980年代から中小企業や町工場へのCNCターレットパンチプレスの普及が一気に加速し、90年代からはオートメーション化への挑戦が本格化。「8760(24時間×365日)」なる言葉も生まれ、夜間は無人運転、昼間は有人運転で極小ロット生産をこなす生産体型が一般化した。

現在はレーザ加工機の進歩も加わり、更なる『超短納期生産』が進行している。1台数千万円以上の機械が、従業員規模30人以下の町工場に(日本国内だけでも)2万台以上納入された驚異的な現実である。

CNCターレットパンチプレスの登場で実現した多品種少量生産の要求は、年を追う毎に熾烈(しれつ)化し、曲げ工程(プレスブレーキ工程)など熟練工を必要とする工程での段取りの削減が、精密板金製造業界での重要課題となっていく。段取りの削減は、業界が挑んだ合理化の真髄である。大量生産では、段取りに時間がかかっても影響は少ないが、段取りが常に発生する多品種少量生産では、段取り時間の増大は命取りとなる。「内段取り」と呼ばれる、機械を停止しての段取り作業は最悪である。『内段取りを削減し、外段取り化を狙う』が挑んだ合理化テーマであった。またリピート加工の場合、以前実施した段取り条件を職人の記憶に頼らず、『(デジタル化された)記録データを瞬時に呼び出すことへの挑戦』も大きな合理化のポイントである。

『内段取りの外段取り化』『リピート2度作り防止』などの明確なコンセプトのもとで、機械の進歩やネットワーク化の実現、人工知能ソフト、ロボットによる段取りや加工のオートメーション化が実現し、精密板金製造業界のインテリジェント化が飛躍的に進んだ。多品種少量生産と超短納期への対応が生み出した、数十年に渡るイノベーションの歴史である。しかし、これらのデジタル・イノベーションだけで多品種少量生産が実現したわけではない。日本の地域社会に根付いた(世界が真似できない)『製造集積国家』としてのインフラと熟練工のノウハウなど、ローカル企業の『アナログ力』の存在を忘れてはならない。

日本の中小製造業・町工場の従業員レベルは『折り紙つきの世界一』であることに疑問はない。会社への忠誠心も強く、突然の残業にも応じてくれる労働者のいる国は、おそらく日本だけである。また、製造業には多くの協力業者が必要であり、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)改革なども『多品種少量生産』の重要な要素であるが、日本は(製造業にとって)恵まれた国である。

精密板金業界では、メッキや塗装、シルク印刷などを外部に委託する。機械部品の委託も多い。仕入品も鉄板など原材料に始まり、ボルト・ナットやスタッドなど専門部品の仕入れも多い。『多品種少量生産・超短納期』の実現は、協力会社の支援なくして実現不可能である。日本では、これらの様々な業者が地域社会に根付き、つながり、強力な人間SCMが機能している。日本の底力の一翼は、製造業(特に町工場の)歴史が育んだ『アナログ力』の存在でもある。

再び、I4.0の話題に戻る。I4.0は、すべて『デジタル力』によるイノベーションとして語られていることに気がつくはずである。『アナログ力』の重要性が語られることはない。I4.0の提唱は『デジタル力』が成長のための不可欠なエンジンであることに疑問の余地はないが、世界中だれでも手に入れることができるエンジンでもある。一方『アナログ力』は、差別化のエンジンであり、日本の環境を世界が真似することは出来ない。日本版I4.0は『アナログ』と『デジタル』の融合で推進されるべきである。日本のインフラは『誇りあるアナログ力』である。

高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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