不連続戦線に異状なし 黒川想介(16)

物づくりを事業として経営するには、研究、製品開発をして製品設計部が図面化して、それを製造部門が製品化し市場に商品として流通させるという工程を繰り返す。

物づくりには大きく分けて垂直統合と水平分業というやり方がある。垂直統合とは企業が商品の開発・生産・販売を主導して一手に行うことである。水平分業とは企業が製品の開発・製造・販売の各段階で外部に依頼して製品化することである。

戦後、日本が復興し高度成長に至る時期では垂直統合で物づくりが行われた。企業の下請けなどという言葉が一般的に使われていたのは、垂直統合で物づくりをしていたからである。経済規模が大きくなると企業間の競争規模も大きくなり、いわゆる人・物・金を一企業で賄うには膨大になり過ぎた。それに情報化社会では、スピード化や情報の複雑化によって垂直統合の物づくりがむずかしくなってきた。近年は水平分業が多くなっている。大企業は、水平分業と垂直統合を合わせた複雑な複合企業体として発展している。かつて水平分業と言えば、製造の分野や販売の分野が多かったものである。近年は、製品開発を外部に委託するケースが多くなってきた。首都圏には開発を専門とする開発会社が多く散在する。上場企業では、巨大化する運用資金のために株主の関心を集めなければならず、経営指標であるR・D・Eという資本利益率を重視する。

そのため、製品開発においてもポートフォリオ戦略が一般化してきたことや、創業期に夢を抱いて遮二無二やってきたオーナー経営者がいなくなったことなどが要因となって開発を委託するケースが増えている。また、成熟社会の環境に合った新しい物事を求めて、新しい製品を開発してみようというベンチャー的開発会社も増えている。

情報化社会ではどこにいても知りたい情報を入手できるから、どこででも開発会社を立ち上げられる。しかし資金、人材、当初の支持組織などが絡んでくると大都市圏に開発集団は集まってくる。特に首都圏に多い。電子部品や機構部品を扱う営業マンは、開発会社との取引はあるが、首都圏に意外と多くの開発会社があるということを肌で感じていない。取引金額が少ない上に、継続して営業活動するようなテーマがないため関心を払っていないからだ。

現在成功している上場企業の多くは昔、ベンチャー的開発をする企業としてスタートしている。戦後社会の草創期のように大量に売れる商品が次々と開発されることはないが、現代の成熟社会が必要とする量的には小振りであるが、そういう製品は次々と数多く生まれることになる。その担い手が大都市圏に散在するベンチャー的開発会社である。

一方、製造部門の請負形態は90年代に入り様変わりしている。請負と言えば、それまでは垂直統合下にあった下請け的存在だった。またメーカー同士が自社の製造工程で他社の製品をつくって提供する、OEM供給としての請負であった。

現在は国内工場で水平分業として受託生産を専門とするEMS部門が多くなった。多くなった背景は、90年代に入り電子機器製品の競争激化により低コストを求めて新興国へ生産を移転させた。その際に国内に生産設備が残され、技術者や労働人員の余剰が生まれた。これらの資源を活用して、製品の組み立てや電子基板の実装などの中間材生産を得意とするメーカーが多くなった。このようなEMSメーカーと開発会社が互いに結びつき新しいものを生みやすくする環境はできている。故に営業は開発会社の売上げ金額にとらわれず、もっと関心をもってアプローチした方がいい。
(次回は3月11日付掲載)

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