エネルギー関連市場拡大へ 東京五輪に向けインフラ整備が追い風

東日本大震災及び、原子力発電所事故を受け、新エネルギーによる発電、スマートグリッドによる効率化、蓄電・節電などの市場が急激に高まっている。折しも2020年の東京オリンピック開催に向けたインフラ整備、新規建造物、ビル管理システムの更新なども追い風になり、業界全体が注目を集めている。特に16年の電力小売り全面自由化に伴い、電力小売りサービス、EMS(エネルギーマネジメントサービス)などの市況は活性化すると見込まれ、産業用機器メーカーにとっても成長市場と見られている。

富士経済(東京都中央区日本橋小伝馬町12―5、TEL03―3664―5811、清口正夫社長)は、国内のエネルギーソリューションの動向を「電力・ガス・エネルギーサービス市場戦略総調査2015 エネルギーソリューション編」にまとめた。

ESP(エネルギーサービスプロバイダ)市場が、20年度に2545億円(13年度比47・4%増)と大幅な伸長が見込まれ、先行きへの期待が高い。

■ローカル型が大半
BAS(ビルディングオートメーションシステム)市場は、20年度467億円(同6・4%増)と微増の見通し。

BASは、建物内の受変電設備/防災設備/熱源設備/空調設備/電気設備/衛生設備/給配水設備/セキュリティ設備などに関して、運転状況の監視や制御、エネルギー使用量の計測や管理などを統合的に行うシステムで、ローカル型とクラウド型に分けられる。

ローカルサーバで構築し建物内で完結する、ローカル型が市場の大半を占める。バブル期に建設された施設のシステム更新や建て替え需要が追い風となり、13年度から14年度にかけては官公庁や自治体、自衛隊など公共施設の更新案件が増加している。また、中小規模ビル向けで、エレベータやファシリティ設備監視のネットワークを活用した、外部サーバを利用するクラウド型も伸長している。
20年の東京五輪に向けた地域の再開発事業、駅や空港などのインフラ関係、宿泊レジャー施設などの建築需要が拡大するものの、建材価格や人工代の上昇により定期的に実施されるリプレース需要が先送りになると想定される。そのため、大幅な拡大には至らないとみられている。

■自動制御型ふえる
BEMS(ビルディングエネルギーマネジメントシステム)は、20年度で165億円(同7・1%増)。BEMSは建物に設置された設備・機器の運転データ/エネルギー使用量データを蓄積・解析することでエネルギー消費量の削減を図るビルや店舗向けのシステムで、自動制御型と手動制御型に分けられる。

東日本大震災を契機にデマンドコントローラを中心に市場は拡大し、12年度はBEMSアグリゲータ事業により自動制御型の需要が増加した。多店舗チェーンなどの物販小売店や飲食店、中小規模事務所ビルなどをターゲットとしたBEMSアグリゲータが多かったことから、システムのイニシャルコストの低価格化が進んだ。しかしながら、14年度はBEMSアグリゲータ事業の終了に伴い13年度比10・4%減の138億円が見込まれるものの、中長期的には拡大が予測される。16年以降の電力自由化を契機に、ESPが提供する総合エネルギーサービスにおいて高効率空調とのセット導入による最適運用サービスの提供や、18年以降DRサービス(万一の災害や障害発生時に備えるサービス)や、電力料金を地域の電力需給の状況に応じて変更する「ダイナミックプライシング」などにおける新たな付加価値の創出による導入件数の増加も期待される。

■大震災契機に導入
FEMS(ファクトリーエネルギーマネジメントシステム)は、20年度で39億円(同30・0%増)の予測。

FEMSは、工場内の生産プロセスで用いられるユーティリティ設備や生産用機械設備(工業炉/クリーンルーム/成形機械など)の運転データ、エネルギー使用量データを蓄積、解析することでエネルギー消費量削減を図るシステム。

東日本大震災の影響による全国的な電力需給不安や、電力使用制限で導入が進んだ。エネルギー価格の上昇に伴い、運用改善による節電対策や、補助事業を活用した照明や空調熱源機器の更新、省エネルギーに関する包括的なサービスを提供するESCO、電力調達先の変更や部分供給の活用などを進める中で主要ラインの見える化ニーズなど底堅い需要がみられる。大手自動車メーカーや機械メーカーなどでは、「企業全体におけるエネルギーの見える化」から「生産プロセスの改善」「エネルギー調達の多様化」までを実行し、継続的なシステム投資、段階的なコンサルティングとシステム拡張が進んでいる。

一方、システムのイニシャルコストの低下により、中小工場向けに簡易システムの提案を行うSIベンダや地場の中小ソフトウェアハウスなども台頭しており、小規模な設備改修や運用改善に合わせた見える化システム構築の需要も増加している。今後はライン単位の見える化に加え、事業所単位や企業単位でのエネルギーコスト削減とユーティリティ設備の最適運用に対するトータルソリューションが増加すると予測している。

■首都圏中心に増加
ESP(エネルギーサービスプロバイダ)は、20年度で2545億円(同47・4%増)。

ESPは、エネルギー供給設備を最適に運用し、電気、ガス、熱などのエネルギーを総合的に顧客へ供給する事業者。ESPの負担で顧客の敷地内にエネルギー供給設備を設置、運営管理を行い、顧客はエネルギー使用量に応じたサービス料金を支払う。顧客側ではエネルギー供給設備の運営管理に関わる人件費が不要で、またエネルギーの専門家による設備の省エネや高効率運転が実現できる。

13年度時点では、ESPの8割以上をオンサイトエネルギーサービス事業者が占める。ESPの事業は、現状排熱を利用して電力と熱を供給するコジェネによるサービスが中心。東日本大震災以降、BCP(緊急時企業存続計画)目的による自家発電ニーズや、コジェネの普及促進を図る補助金政策を受けて、首都圏を中心に案件が増加している。

15年度以降も拡大が予測されるが、電気や熱の消費量が多い需要家の導入率は高く、需要は一巡したとの見方もある。今後、コジェネは更新需要が中心となるため、各ESPはコジェネを軸にPPS(新電力会社)+ガスのセット提案など提案領域を広げている。

また、従来は自社管内での顧客開拓が中心であったが、エネルギー自由化が各事業者の管外需要開拓への追い風になるとみられ、今後は首都圏を中心に競争が進む。

いずれにせよ、これらのサービス提供に必要な「監視」「制御」「通信」機器メーカーにとっては市場の拡大は追い風であり、各社の製品開発競争も激しくなるとみられる。

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