日本の製造業再起動に向けて (1)

“去る10月21~25日まで、ドイツのハノーバーで第23回国際板金加工見本市「EuroBLECH(ユーロブレッヒ)」が開催され
た。

この見本市は、板金加工業界対象の世界最大級の見本市であり、今年も大盛況で閉幕した。入場者数は6万人を超え、今年はドイツ国外からの来場者がかなり増加した模様である。

今、欧州での最大トレンドは「Industry
4・0」であり、今年のEuroBLECHは、欧州メーカーのIndustry4・0にかける熱意と具体的な実現を十分に感じた見本市であった。特に欧州の主力機械メーカーのブースでは、機械の展示のみならずソフトウェアを駆使し”大画面を使ったプロセス改善の提案”に力が入っていた。Industrial4・0の具体的提案であり、来場者から大きな反響を呼んだ。

ドイツ発のこのような最新トレンドを意識しつつ、日本の製造業に視点を移したい。日本においても、IoT/M2Mの技術革新の話題は、日々取り上げられ、非常に注目度の高いものとなっている。

IoT/M2Mをイノベーションの中核に捉え、最新技術の開発や実行に取り組む企業も数多く存在する。もちろんロボット大国として、工場のオートメーション化推進にも日本は世界の最先端を進んでいるし、優れた技術者も多く存在する。過去においても、日本の製造業のデジタル化やオートメーション化は世界で一番先行し、ドイツ、欧州各国は日本よりかなり遅れていたのも事実である。

しかし、残念ながら今日の日本の製造業は少し元気がない。ドイツに優っているとは言いがたく、製造業のドイツ一人勝ちの雰囲気が世界を支配している。

何故だろうか?

ドイツのIndustrial4・0はドイツ官民一体の総合力の強さなので、このままでは「日本はドイツに勝てない」という危機感を聞くことも多い。またEUが統一されたことでドイツは為替変動に左右されず、周辺国への輸出に有利なこともドイツの強さとして指摘されている。円高による輸出競争力低下で日本の企業体力が奪われたことも間違いのない事実である。しかし、このような理由をいくら並べても、日本の製造業本格復活の出口は見つからない。

どうしたら日本の製造業が復活するのか?
再び明るい未来に向かう道筋を考えてみたい。

結論から言うと、日本の製造業復活には中小企業の再起動が鍵となる。もう少し正確にいうと、ローカル企業の再起動である。大企業と中小企業、そして零細企業というカテゴリー分けが当たり前のようになっているが、グローバル企業とローカル企業に分けたほうが、戦略が整理しやすい。ローカル企業が”グローバルニッチトップ”(最近政府が提唱している)を目指すことが、日本の製造業復活の戦略である。すなわち、中小・零細と呼ばれるローカル企業が自社の持つ熟練工の技術=アナログ技術を武器に、最新技術によるデジタル化やオートメーション化を導入し、世界に扉を開くこと(海外に工場進出することではない)である。

日本のお家芸である熟練工のアナログ技術が「差別化エンジン」であり、世界に通じるデジタル技術での世界市場進出が「成長エンジン」となる。「差別化」と「成長」の両翼エンジンが、ローカル企業再起動の青写真である。

ローカル企業は、いままで大企業から仕事をいただく(いわゆる系列)で成り立ってきたので、技術はあっても営業に弱いのが現実である。ローカル企業の再起動には、国際商人(あきんど)の要素を付加しなければならない。

大企業は、今後もグローバル企業として世界で戦い、勝ち続けなければ生きてはいけない。これは、グローバル企業の宿命である。新興国においても、中国や韓国のメーカーと戦わなくてはならない。今の日本は、史上最高の利益を吐き出す大企業もあるが、負け戦のグローバル企業もあるので、日本国中に閉塞感が漂っている面もある。日本中のローカル企業が、負け企業に寄りかかっていたら、皆総崩れとなってしまう。

ローカル企業は、グローバル企業と違い世界市場で戦う必要はない。ローカル企業は、ローカルの特性を活かし再起動することで、世界中の企業に必要とされる企業に変身できる。日本の優れたローカル企業が、再起動により新たな成長エンジンを手にすることこそ、日本製造業の再復活であると確信する。

次回より、製造業再起動をテーマにさらに深掘していきたい。”

高木俊郎(たかぎ・としろう)氏略歴=1953年長野市生まれ。小学校時代よりラジオ少年として育つ。趣味の一つ、アマチュア無線を通して世界に扉を開くキッカケとなり、国際社会で仕事をすることを夢に持つようになった。高校時代は、バイク・自動車の分解・改造を通しメカに強い関心を抱いたことで、大学進学は電気と機械の融合と決め、電気通信大学に入学、77年卒業。大学時代は海外、特にアジア各国に興味を持ち、タイを中心に数回の訪問、100日以上の一人滞在でアジアを知るキッカケとなる。77年4月株式会社アマダに入社。最初の10年間の営業所時代は、オートメーションの最高峰であったNCターレットパンチプレスの技術担当として中小製造業の課題解決にあたった。その後、株式会社アマダメトレックスFA事業部長で板金業界のオートメーションを推進する。再び、アマダ本社に転じた後は、FAソフト事業部長として板金業界のデジタル化を進める。アマダ販売本部長、アマダ海外事業本部長、アマダアメリカCEO、欧州統括アマダヨーロッパCEO、アマダ取締役兼専務執行役員を歴任し、2014年退職。今年3月には、37年間のアマダでのお客様と国際社会から学んだ経験をベースに、中小製造業向けビジネスコンサルタント「株式会社アルファTKG」を、東京都中央区日本橋に設立し、日本の中小製造業再起動へのアドバイスに取り組んでいる。

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