混沌時代の販売情報力 黒川 想介 現場歩き情報入手の感性磨く

情報は、営業の武器になることを販売員は知っている。だから顧客や見込み客を訪問する際にどんな情報を持って行ったらいいか考える。多くの販売員は、武器として使う情報を自分達が扱っている商品や立派な会社案内だと思って営業活動してきた。ベテラン販売員は初回から数回目までの訪問時にはかなり気を配って、何か目新しい商品カタログや役に立つものはないかと探してきた。最近では、目新しい商品が見当たらなくて苦労しているようだ。そのためメーカーの販売員は製造部門に向かって、商社の販売員はメーカーの営業に向かって、目新しい商品が出てこないので、見込み客の開拓がしにくいとグチをこぼすことが多い。

メーカー側でも目新しい商品を出して出荷額を伸ばしたいのだが、営業現場からの情報が少ないと嘆く。また近年の製造設備は高価になっているから、次々と新しい商品を出すには投資額を考慮しなければならないとの思いから簡単にはいかない。

二十数年前に工業化社会を抜け出した日本は、必要な物は一応そろった成熟社会に入っている。その間、様々な社会的変化をしてきた。人口構成、通信や情報のインフラや商業形態、最近ではエネルギー関連などが様変わりして、二十数年前の日本の成長期に比べると社会は変わったという実感がある。そのような実感と比べると、製品の製造機械に大きな変化がないせいか、二十数年前の成長期に比べても電気部品やコンポにも極端な変化はない。販売員に目新しい商品を出せと突かれると製造側では成長期にできあがった商品を複合化したり、コンパクト化やデザイン一新を図ったり、新たな機能を追加し高機能化や使い勝手化を促進、さらにコスト追求により競合との優位をアピールしてきた。販売員は複雑になっていく商品の勉強や改良された機能を次から次へと学ぶために時間を費やし、社会の変化が各種の製品を生み出したり、製品をつくる製造現場が少しずつ様変わりしていることを肌で感じる余裕がないほど大競争の渦に巻き込まれてきた。

その渦の中にあって、新規の顧客を増やしたいという思いから、これまで何度も新規開拓活動にチャレンジしてきた。そして、そのための武器探しに躍起になってきた。特に初回訪問から2回目訪問へとつなぐ武器が見当たらずに販売員は悩んでいる。そんな悩みを多少営業をかじってきた営業企画のメンバーは、販売員の援護射撃用として見込み客に持参できる商品サンプルや動作モデル、カタログ以外の各種の資料を準備している。つくってくれたこれらの武器は、商品カタログに比べれば有効な営業の武器となる。有能なベテランの販売員は初回訪問や2回目のアプローチに、この武器をうまく使いこなして見込み客を資産化登録までこぎつけるだろう。しかし一般の販売員にとっては、これらの武器が見込み客にとって目新しさを感じられない限り、初回訪問を乗り越えて設計者に二度、三度と会う機会をつくるのはむずかしい時代となっている。

成熟期が20年以上も続き、混沌とした時代に入っており、その時代の最前線に販売員はいる。つまり現場を体験できる位置にいるのである。この混沌とした時代に見込み客を攻略していく有効な武器とは一体何であるのか、を発見するのは販売員なのである。後方にいる企画や業務といった営業支援部門が提供する武器に頼るだけの見込み客開拓営業を続けていれば、うまく情報を入手する感性は育たない。販売員は顧客の何を知ればよいのかを知るためには、多くの現場を歩くしかないのである。
(次回は11月27日掲載)

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