世界トップ日本のモータ、産学とも熟年に!世界の発電電力の60%はモータが消費

電動モータ(以下モータと表記)は全世界の発電電力の約60%を消費し、モーション機器・機械の原価の約30%を占めている。人類最大の発明の一つである。世界最初のモータは1831年にファラディ(英国)開発といわれている。1885年にはフレミング(英国)が教育のために考えた、フレミングの左手の法則が有名である(写真1)。このモータの中小型(出力70W程度~15KW程度)事業は今日でも日本が世界のTOPである。しかし構想、開発、製造の面で熟年に差し掛かっているとも言われている。本稿は技術、ビジネスの課題を切り口にした。

1.小型モータの市場動向

小型モータ(1KW以下:日本電気学会)は2009年の世界生産量は、約80億個(産業用は約500万台)と言われ年々増加している。内訳は、DCモータが約50%、ブラシレス(BIDC)モータが約20%、ステッピングモータが約20%、その他が約10%である。また産業用モータの約80%がサーボモータなどの高機能モータで、小型モータのわずか0.1%以下である。モータといえば必ずサーボモータが挙げられるが、モータ事業全体を論ずる場合には留意しておきたい(図1)。日系メーカは、この過半数の57%を占めると予想されている。同期ブラシレスモータ≒59.5%、ステッピングモータ≒57.7%と高いシェアであるが、モバイルフォン用≒27.6%、ファンモータ≒21.5%などはアジア勢が台頭している(富士経済)。

一方、中小型モータ(70W以上)は2012年の経産省のエネルギー消費機器実態等調査事業報告書によると、2009年は約1700万台で1989年の1/3に大幅に減少している。全体的な傾向として小型モータは現状の製造コスト競争ではなく、レアメタルレスや高効率化、知能化などの新構想のモータ/ドライバの開発にかかっている。レアメタルレスはかなり進んでいるが、高効率化達成は数%と少なく、知能化も停滞している(表1)。

57.7%を占めるステッピングモータも、アジア勢が日本製の2相ステッピングモータをサーボ化するドライバを日本市場に展開しはじめた(サーボモータ:サーボモータというモータはなく、同期モータ/ブラシ、ブラシレスステッピングモータ等を用いて、フィードバック制御をして、高精度位置決めや一定トルク制御をするモータ系をいう)。

2.知能化モータの構成と集約化

モータ駆動システムはモータの種類にかかわらず、コントローラ機能(機器&ソフトウェア)、ドライバ(機能&ソフトウェア)の2つの機能がそれぞれ独立した組込みソフトウェア機器で、モータ系機能のモータ本体(含むセンサー&ギア&ブレーキ)とコントローラ、ドライバが相互に駆動電流、通信回路、ネットワークで接続された構成(図2上部)のことをいう。

最近これらの機能が集約されたモータ駆動システムが開発、普及してきた。小型化・軽量化・低価格化より、モータ駆動系の高速化、知能化、スマート化(合理化)、ソフトウェア化、ネットワーク化が目的である。各社のモータ駆動新製品の多くがこの集約製品である。言い換えればモータ本体のビジネスからモータ駆動系ビジネスになっている。

集約化製品は、その構成(図2下部)によって3種類に分けられる。

■ソフトモーションコントローラ:モーションコントロール機能を専用のモーションコントロール回路を用いないでソフトウェアで実現。KWソフトウェア(ドイツ)などが先行して普及してきたが、今ではほとんどの関連企業が程度の差はあるが高度なPLC機能と多軸モーション機能をソフトウェア化している。

■位置決め機能付きドライバ:ドライバにコントローラ機能(一部)を内蔵したもので、日本のほとんどのサーボモータドライバ、インバータ、高機能ステッピングドライバ等はこの集約形である。

■オールインワンモータ:コントローラ機能、ドライバ機能、モータ系を全てモータ本体に集約したモータ駆動系で究極の集約製品といえる。エアコンや冷蔵庫などの家電製品でも普及しているが、高機能な産業用モータへの普及が著しい。もちろんソフトモーション技術や位置決め機能などのソフトウェア化技術は多用されている。十数年前まではオールインワンモータの国際特許があったが今では産業モータの数%にまで普及し、さらにアクチュエータと集約された組込みモータ&機構、ハードウェア、ソフトウェアのオールインアクチュエータも数多く開発されている。

3.レアメタル(アース)レスモータ

永久磁石は同期モータやステッピングモータ、ハイブリッドモータに用いられ、モータの小型化、高効率化、高トルク化、高回転(弱め磁界)などが特徴で、産業用の高機能モータや自動車用の動力用モータ(発電機兼用も多い)に用いられてきた。従来から用いられていた鉄系のフェライト(永久)磁石に較べて、稀少金属のネオジウムとジスプロジウムを含んでいるネオジウム(永久)磁石は10~20倍程度高価でモータ原価の30%強を占めている。

この価格は2011年には一時3倍程度になった。これは中国が約90%製造していることが原因であった。ネオジウムは世界の多くの場所に埋蔵されているが、放射性物質との混埋であまり採掘されていない。これを機にモータ構造、巻線、ドライブ回路を見直し、安価なフェライト磁石を用いたネオジレスモータが開発されている。

2013年2月に安川電機は、磁界巻線の平角線による高密度化、ロータの磁気回路の最適化等でネオジと同等な性能(1万2000rpm、45kW)を持つフェライトモータを9月からサンプル発売すると発表。2012年1月にトヨタ自動車はハイブリッド車用(50kW)レアアースレスモータ試作(写真2)を発表した。日本のモータ製造会社のほとんどがレアアースレス(中大型)モータの開発に成功していて、この分野で日本はトップを走っている。次は使用量の多い携帯電話や冷蔵庫やエアコンなどの家電用のレアアースレス化が大きな課題である。

4.モータの高効率化(IE2、IE3)規制

2008年10月にIEC(国際電機標準会議)は地球の温暖化や異常気象に対応するために全世界の消費電力量の約60%を占めるモータの効率化規制の基準(IEC60034―30/JIS4034―30)のIEコード(IE1、IE2、IE3)を定めた(図3)。モータは3相誘導モータである。IE1は標準効率で78%(750W)~83%(2.2kW)~、IE2は高効率で82.5%~87.5%~、IE3はプレミアム効率で85.5%~89.5%~である。

効率化の課題についての最近のモータメーカへのアンケート(エネルギー総合工学研究所)によると、IE2/IE3への変更準備期間が1~3年、コストアップが20~30%、回転数が高くなる、部材の量が多くなる、起動電流が大きくなるなどの回答があった。

今まで高効率化の規制がなかった日本の最大の課題ではないだろうか?

図4は世界各国の高効率規制動向である。2012年では米国が70%、欧州が12%に対し、日本はわずか1%であった。しかも日本の法的規制は2015年からであるが、米国では2011年の高効率規制以前にも規制を開始していた。もちろん規制のある国への輸出のために多くの日本のモータメーカは高効率化に全力をあげてきている。
5.産業モータとドライバは一心同体

約500万台/生産されている産業用のモータのほとんどは回転数、トルク、位置決めなどの機能を有したモータドライバ(インバータやサーボアンプ)と接続して用いる。図2のようにドライバは知能化、集約化、チップ化、モータ本体への実装化が進んでいる。

■インバータ

AC同期モータや誘導モータの駆動で、最も多く用いられているのはモータドライバである。100V~460Vの3相AC電源や単相AC電源をいったん数百VのDCにし(コンバータ回路という)、次のインバータ回路で回転数or、and電流・電圧可変指令入力によって、数Hz~1kHzの3相ACや単相ACを出力できる。インバータの重要な特徴の一つは50%前後という大幅な消費電力削減効果である(図5)。

1980年に東芝が世界で初めて半導体式インバータ付きエアコンを開発し、現在では日本のエアコンのほぼ100%がインバータ式である。しかし世界での普及率は10%前後で、特に北米のほぼ0%、中国の7%という普及の少なさは、エアコンと冷蔵庫で家庭の消費電力の約50%という現実では大きな課題である。

■サーボアンプ

数百ナノmからの高精度でスムーズな位置決め、回転に影響されない正確で安定したトルク、低振動、負荷変動に強いなどの高機能産業用モータ系の80%強はサーボアンプである。この技術力/製造力がモータ系の技術と言っても過言ではない。

日本はサーボアンプが必須の機械、ロボット他では直近まで世界の最先端を走っていた。

コントローラからロボット本体までを開発製造してきた日本のほとんどの大手メーカは、ソフトウェアやハードウェアの標準化に関心が薄く、他社製のモータやコントローラなどを用いたモーション需要に弱いこと、重要視されてきたセーフティ化やセキュリティ化に必要な暗号/認証技術に弱いこと、次世代パワー素子といわれるSiC(炭化ケイ素)を用いたドライバ開発の先頭を走っているとは言えないことなどが遠因で、日本は「モータ系熟年」といわれている。

図6はサーボアンプの構成と機能図である。ドライバはトルク指令または速度指令を受け、モータ検出器(エンコーダやレゾルバ)のモータ速度(回転モータの場合は回転速度)をフィ―ドバックして電流制御を行う。最近は非線形制御やモデル化、誤差対応のロバスト制御などの現代制御理論でさらなる高機能化、安定化を実現している。
6.最近のリニアモータ

2013年2月23日にワシントンで行われた首脳会議で安倍首相は、日本の“超電導リニアモータカー"の技術を米国の“高速鉄道整備計画"に提供する意向をオバマ米大統領に表明した。業界との調整も少なく、首相の先走りとも言われたが実用段階(2013年6月に実験線でテスト運転開始、2027年営業運転予定)にあり、総合技術では日本が世界のトップを走っている。

超電導を用いないで、中国特産の高磁界ネオジ永久磁石と通常の電磁石を用いた中国のリニアモータカー上海磁浮列車が2003年に開業し、現在は上海国際空港~龍陽路駅30キロメートルを7分で営業運転している(写真3)。

日本でも従来のリニアモータ技術を用いたリニアモータカーは、1990年3月の大阪鶴見緑地線、2000年12月の都営地下鉄大江戸線、他4都市の電車に用いられている。

直近の世界のリニアモータの製造数は約30万個/年で産業用モータの5%強である。低振動、高精度位置決め、長尺、曲線移動などの需要が少なく、回転モータにボールねじやタイミングベルトを組み合わせたはるかに安価な直動装置の市場には入っていけない。

日本のリニアモータ関連特許(公開)は、特許庁特許電子図書館によると1995年~2013年に約7000件と膨大である。特に安川電機、キヤノン、日立グループ、ニコンなどの出願が目立っている。リニアモータ関連の製品、駆動の装置等の開発をする時は特許電子図書館をWebで閲覧していただきたい。
7.電動モータ化航空機

日本の大学では電動機関係のほとんどの講座が休眠しているのが現状である。電気自動車(EV、HEV)用モータは日本のモータ業界を活性化する数少ないテーマである。

電気自動車で実証された大幅な燃費低減、低CO〓化、低振動化、低騒音性、メンテナンス性などは航空機の理想でもある。今後20年で2.7倍になるといわれている輸送需要からも航空機の電動モータ化しか解がない。

無人機や数人乗りの電動モータ飛行機(写真4)は、1999年後半から各国で試作されているが、電動モータ旅客機はまだまだである。航空機の低圧、低温、傾斜、振動、加速度などの耐環境性のモータ系や2次バッテリが必要である。

また離陸上昇と巡航の2点のみの中位のトルク/回転数が必要なのに、低速高トルク、高速低トルクまでの幅広い特性の電気自動車用モータ技術をそのまま用いると無駄が多い。航空機専用モータやバッテリの開発は必須である。

2013年5月にJAXAと日本化薬が、モ―タの最大出力維持時間を2倍以上(3分)にしたモータコイイル(反応性ポリアミド樹脂ベースのコーティング塗料)を発表した。

電動自動車では最大出力を30秒間維持できればよいが、電動航空機用モ―タは2~5分間維持する必要があるという課題を見事クリアしている。

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