機械安全対策機器 安全と生産性向上を両立 製造現場での関心高まる ソフト含めた電子式増加

国内における労働災害死傷者数は、厚生労働省の速報値によると、11年は震災も含めると産業全体で8万9616人と前年比4686人増(5・5%増)で、震災を除いた死傷者数でも8万7925人で2957人増(3・5%増)となっている。うち製造業だけを見ると震災を除いて1万6人で同624人増、同3・4%増となっており、ここ数年の増加傾向が改善されていない。

一般的に労働安全に関する意識は欧米の方が高かった。特に日本の機械安全対策は欧米に比べ大きく遅れていたが、01年6月に厚生労働省が打ち出した「機械の包括的な安全基準に関する指針」により、製造業での安全対策が大きく推進するようになった。さらに06年4月に労働安全衛生法が改正され、安全対策に関する記述が追加され、リスクアセスメントと必要な安全対策措置が努力義務と定義付けされた。

同時に、「安全衛生管理体制の強化」として、各企業に安全衛生管理員の配置が義務付けられ、危険性・有害性などの調査や安全衛生に関する計画の作成・実施・評価・改善などの有効性を議事録に残すことも義務付けられた。

安全規格の国際整合化

07年7月には厚生労働省から、機械のリスクアセスメントの具体的な指針が改正された。こうした国内の動きに先立ち、03年11月に国際安全規格ISO12100が発効。これをベースにしたJIS
B9700が制定されたことで、安全規格の国際整合化が実現した。

それまで日本の生産現場では、事故を減らすために各工場で安全に作業を行うための訓練や教育を徹底するという考えが主流だった。一方、欧米の考え方は「人は間違える、機械は壊れる」という考えが根底にあり、日本が「災害ゼロ」を目指しているのに対して、欧米では「危険ゼロ」を目指すという考え方の違いがあった。

しかし、日本でも最近では、熟練作業者の減少とともに、パートタイマーや派遣労働者、言語・文化の異なる外国人作業者の増加などで生産形態が変わりつつあり、世界共通で誰でも分かる安全ルール・対策の導入が必要となってきた。

欧州の機械指令が改定

こうした中、国内の制御機器メーカーでは、昨年の大震災以降、より製造現場における安全対策を重視する傾向になっている。また、ある制御機器商社では、機械安全に加え、防災をテーマとした事業展開も行っており、安全対策への取り組みの幅が広がっている。

安全対策機器の市場規模は、日本電気制御機器工業会(NECA)の会員を中心にした安全機器の自主統計によると、100億円前後となっている。こうした状況下、欧州の機械指令が改定された。11年12月29日付でEN954―1からEN ISO13849―1に移行(EN―954―1も適用延長)され、欧州に輸出する機械・装置の安全制御回路は、ISO13849―1:2006への対応が求められることになった。従来のISO13849―1:19安全対策意識の高まりを受け、製造業においても機械安全対策への取り組みが年々強化されている。厚生労働省が発表した2011年(1~12月)の労働災害事故による死傷者数の速報値は、全産業で前年比3・5%増の8万9616人(震災も含む)となっており、ここ数年増加傾向が続いている。こうした状況を受け、各企業では機械安全対策面での取り組みが急がれており、現場で働く人の安全意識の向上とともに、ミスなどにより誤操作をしても事故が防げるような装置やシステムの導入が加速している。昨年起こった東日本大震災の影響も一段落し、設備投資は回復傾向を見せており、製造現場では、改めて安全対策機器への関心が高まっている。最近の安全対策機器の傾向としては、機械的な対策方法を基本に、ソフトウェアなども含めた電子式の安全対策機器が増加傾向にある。一方、製造業以外でも防犯・防災や情報セキュリティ分野、介護分野、さらにアミューズメントなどの分野でも安全対策機器の需要が高まっており、今後も安全対策機器は多様な広がりを見せそうだ。

99は「カテゴリー」で安全制御システムを評価していたが、改定後は「PL(パフォーマンスレベル)」で評価することになった。改定の背景には、安全関連の制御システムを構成する部品が、メカニカル部品から半導体などの電子部品に移行し、制御の方法もハードウェアからソフトウェアへロジックに変わりつつあることがある。

今回の改定では、カテゴリーの概念を基本に残しながらも、IEC61508の「機能安全」の概念である信頼性や品質も取り入れることで、リスクの見積もり方法も変化することになるが、リスクアセスメントを実施するうえでは、分かりやすくなっている。

一方、07年7月の厚生労働省からの機械のリスクアセスメントの具体的な指針改正は、きちんとしたリスクアセスメントを行うことを求めている。リスクアセスメントは、機械、作業の危険源はどこなのか、それを安全にするためには何をするべきなのかを探すことで、危険源を一つ一つなくし、安全な機械、安全な作業を確保できることにつながる。

関連規格を改正施行

厚生労働省では10年7月から労働安全衛生規則を改正、工作機械以外の機械に対してもストローク端による危険を防止する措置を義務付けるとともに、制御機能付き光線式安全装置(PSID式安全装置)、プレスブレーキ用レーザ式安全装置を新たな安全装置として追加するなど関連規格を改正施行した。

機械のストローク端については、これまでも工作機械について、その危険を防止するための覆いなどを設けることが規定されていたが、移動するテーブルを有するタレットパンチプレスのテーブルと建物設備などの間に挟まれ作業者が死亡する災害が発生していることから、今回の改正で工作機械以外の機械に対してもストローク端による危険を防止することを義務付けたもの。そのため、従来の金属工作機械だけでなく、NCルータなどテーブルが移動する木材加工、樹脂加工用機械など適用範囲が広がった。

また、改正動力プレス機械構造規格は、ポジティブクラッチプレスを原則製造禁止にし、液圧プレスでのスライドの落下防止措置を充実させている。安全プレスにおいても、両手操作式安全プレスのスライドなどの操作部は左右の操作の時間差が0・5秒以内を要件化し、光線式安全プレスは改正前の防護高さを最大400ミリから危険を防止するための必要な長さに変更、さらに光軸間隔を70ミリから20ミリへ、安全距離に400ミリ以上を追加した。

このほか、サーボモータを使用したプレスのブレーキ性能・故障対策等を規定、非常用停止装置の操作部として押しボタンスイッチ以外のコード式やレバー式も認める、両手操作式安全プレスのスライド等の操作部を直線距離で300ミリ以上離す以外の方法も認めるなどとなっている。プレス機械またはシャーの安全装置構造規格改正は、手払い式安全装置を原則製造禁止し、一定のものに限り当分の間は製造を許容、安全装置として新たにプレスブレーキ用レーザ式安全装置を追加している。

さらに、安全思想が先進している欧州では、安全性と生産性を両立させる一例として、セーフティライトカーテンを使った安全システムの導入で、人が通った時は機械が停止し、ワークが通った時は安全機能が働かないミューティング技法により、無駄な生産ラインの停止を防ぐ安全対策を行っている。

生産性向上につながる

このようなリスクアセスメントをきちんと行うことで、頻繁に機械や作業が中断することがなくなり、生産性の向上という課題解決にもつながってくる。

製造現場の危険には、さまざまなものがある。切断や押しつぶしといった機械的なもの、高温や低温などの熱によるもの、感電や漏電といった電気的なもの、騒音や振動、放射線、化学薬品、不自然な作業姿勢など、危険を生み出す可能性は多岐にわたる。

これらの危険に対して、当面の安全を確保したいというニーズでは機械的、電気的な安全対策が多い。

主な安全対策機器としては、安全リレー、安全リレーユニット、セフティドアスイッチ、セフティリミットスイッチ、非常停止用スイッチ、ソレノイド付き安全スイッチ、エリアセンサー/ラインセンサー、フットスイッチ、マットスイッチ、テープスイッチ、ロープスイッチ、フットスイッチ、プログラマブル安全コントローラ、安全プラグ、安全確認型回転停止センサー、非通電電流センサーなどがある。これら各種安全対策機器を用途に合わせて、機械本体や機械周辺に装備して安全を確保する。

製造現場などで最も多い事故は機械から派生するもので、それを防ぐには人間の作業空間と機械の作業空間を完全に分離するか、人間が作業を行う時には機械が停止する、機械が作業を行う時には人間が作業を行わないことが必要である。この機械災害を防止する基本的な方法としては、ガードによる安全防御と安全装置による安全防御がある。

ガードは、機械と人間の作業空間を構造的に分離するもので、構造によってケーシング、覆い、スクリーン、扉、包囲ガードなどとも呼ばれる。安全装置は、機械設備に適切なガードを備えても、現実的にガード内部に作業者が立ち入る必要が出てきた時に求められる。例えば、段取り、調整などの作業の場合、機械の作業空間と人間の作業空間とが重なり危険領域となる。危険領域では、人間と機械の運転出力のどちらかを停止・安全状態にする必要がある。

安全関連資格も徐々に浸透

工場内での通信のネットワーク化が進む中で、セーフティのネットワーク化も進んでいる。

従来、安全回路と制御回路を分離したネットワークが行われていたが、イーサネットの導入が製造現場でも志向される中で、一体のネットワークとして構築する方向になってきている。

一方、日本電気制御機器工業会(NECA)や日本認証(JC)などが中心となってセーフティアセッサ認定制度」や、「セーフティベーシックアセッサ(SBA)資格」も設けられ、機械類の安全性を高める設計や安全技術普及に貢献している。

このように、ここ数年の間に国内での機械安全対策への取り組みは急速に高まっており、各制御機器メーカーでも、国際規格に対応した各種の安全対策機器を多数提供するようになってきた。今後も「安全と安心」をテーマに、機械安全対策機器に求められるニーズはますます拡大していきそうだ。

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