混沌時代の販売情報力 黒川想介 顧客情報把握こそ勝利の戦術

2010年4月28日

情報というのは、案件や商談テーマと同義語ではない。しかし、制御部品や電子部品のような部品の営業では、「何か良い情報はないか」という問いに対して、案件や商談テーマを意味するものとして答えている。営業一般はそうであるが、特に部品営業の目標は商談発掘よりも、まず売り上げ額ありきである。したがって日頃の販売員間の仕事上の話題は、売り上げ目標に対してどうなっているかであり、営業会議の主題も売り上げ額の確保である。

そのため日頃から上司と部下の間や、メーカーと販売店の間で使われる情報ということになると、売り上げに直結する案件や商談テーマのことになってしまう。孫子は「己を知り、相手を知れば百戦して危うからず」と言った。つまり、情報を制する者が断然有利に戦える。だから、できるだけ情報を入手することが肝要であると言っている。中国の二千数百年も前の春秋戦国時代のこのフレーズは情報に関する名言である。

戦場で対峙する敵のことを知り、己の軍の能力を知り抜いた方が勝てるということを歴史は物語っている。

源義経は壇の浦の合戦において、源氏は平氏よりも船や兵の数は多いが、船の操作や揺れる船からの弓矢の命中率は、水軍の平氏には敵(かな)わない。それが致命的になることを義経は知っていた。知り抜いていたからこそ、それまでの戦いの常識をくつがえし、平氏の漕ぎ手を射るという詭道(きどう)ぶりを発揮したのである。

平氏は「義経卑怯なり」との思いはあったと思うが、それが孫子の言う「兵は詭道なり」という戦術の妙なのである。

カエサルのやったファルサルスの野の決戦では、カエサルの現場認識の勝利といえる。8年間にわたって騎馬戦の得意なガリア騎兵やゲルマン騎兵と戦って、戦場における馬の動きや馬の性質を知り抜いていなければ、かなりの劣勢を勝利に導くことはできなかっただろう。
韓信のやった背水の陣においては、趙の名参謀・李左車は、智者であるため韓信の策には乗ってこない。大軍を相手に僅か2万人の韓信軍でも、何かやるのではという警戒心が強いはずと韓信は読みきっていたのが勝利の因と言える。あとは、李左車に警戒心を解かせることだけである。そのため、自ら囮(おとり)になるという大冒険を実行した。それが歴史上有名な背水の陣である。

以上3つの戦いは、劣軍が大軍を破るという血湧き肉躍る戦いである。このような華々しい戦いは、ややもすると勝利軍の大将のやった戦術が巷間に流布し喝采を浴びる。しかし、いずれの勝利も戦場という現場を知り抜いていたことや、敵という相手のことを知り抜いていなければ、勝てる戦術は思いつかなかったのである。

それらの情報を元にして知恵をしぼった作戦、つまり相手を惑わしてしまう作戦というものは二度と使えない。したがって勝利の方程式として、教科書には載らない。歴史上の華々しく格好いい物語として語られるのみである。華々しい勝利の因には、あまり目立たない情報があることを銘記すべきであろう。

営業に関しても同様のことが言える。情報を制する者が断然有利に戦えるという情報とは、格好よく見える案件情報や商談テーマ情報ではない。案件情報というのは、既に顧客の側で決定していることがベールを脱いで現れたということであり、それを補足した販売店や販売員は、競合他社より信頼があったという証明のようなものであり、結果の情報入手ということになる。

だから「己を知り相手を知れば百戦して危うからず」の元になる情報に関して、更に一考すべきである。
(次回は5月12日掲載)