オートメーション新聞の過去発行号が無料で読めるバックナンバーを公開中!詳細はこちら

【We love Automation!(Vol.3)】粘る理由・諦める理由

2025年3月7日

最近はパソコンのアプリケーションソフトでもサブスクリプション、つまり料金を月払いで使用するものがかなり増えてきました。以前はパソコンショップに行って、立派な箱にインストールするためのCDと分厚い冊子のマニュアルが入っていたのですが、未来の人から見れば「あの大きな箱は何だ?!」と驚くかも知れません。それは今、20代の方がフロッピーディスクやカセットテープ、ビデオテープを見て「???」と感じるのと同じことでしょう。

当時のアプリケーションソフトは、数千円~数万円の費用を一度払えば、動作するパソコンが残っている限り追加料金なしに使うことができました。その代わり、現代のようにアプリが自動的にアップデートされ機能が増えたりすることはなかったのです。

契約内容にもよりますが、サブスクリプション形式は試しに使ってみてダメだった時の損害は少なくて済みます。大枚払って買ったソフトがほとんど使われずに箱の中に眠っている、というようなことは昔の話なのです。

この無料ダウンロードという入口のドアの軽さに比べますと、以前の「料金全額前払い」のソフトというのは石のように重いドアでした。ソフトは欲しいが、高いので我慢する・・・つまりドアを開けてくれる人はそれほど多くなかったのです。

今、ドアは軽いというよりは自動ドアでしょう。近くに来ただけで勝手にドアが開き、中からは涼しい風が吹いてきて、美味しそうな匂いまで漂っている、というように中へと誘い込まれます。そのお隣は重い石のドアで、看板はありますが外からその内部は見えないため、ドアを開けようという人は常連客くらいです。

この環境の変化は、人間を「無料なら試しにやってみようか。ダメならすぐ止めたら済むことだ」という思考に傾ける効果があります。何万円もするアプリケーションソフトを買ったのに期待外れだったからと言って返品はできませんから、何とか上手く使えないものかと粘り強く努力していた時代とは違うのです。

世間では粘り強さが希薄になりつつありますが、今後は粘り強いことの希少性が増していく訳です。今はまだ異常に粘り強い中高年(笑)が数多く残っているので、粘り強さに特別感はないのですが、10年後20年後には単に粘り強いというだけで世界のトップに立てるほどの環境に変わっているかもしれません。

では、粘り強さというのはどうすれば養えるのでしょうか。粘り強さは同時に諦めの悪さでもあるのですが、粘る理由、諦める理由をどれだけ周囲に理解してもらえるか、その説得力のある判断ができているかどうかだと思います。

「まだ諦めたくないので粘っています」「難しくて面倒なので諦めました」というのは単に自分の感情だけで判断しているに過ぎません。「一点だけ、上手く行かない理由を明確にできていない部分があるので、そこがはっきりするまで粘らせてください」「この部分を向上させると同時に別の副作用が発生するので、このレベルで諦めるのが妥当だと思います」という説明であれば合格でしょう。粘るも諦めるも、自分の頭でとことん考えて決めることなのです。

◆湯口 翼(ゆぐち たすく)

1967年生まれ。大阪府出身。2002年に産業用センサメーカーのオプテックス・エフエーに入社。開発グループで新製品の開発に携わり、ローコストな印字検査専用の画像センサをはじめ、画像処理用LED照明コントローラやIO-Linkマスタなど画期的な新製品を多く生み出す。2008年に取締役、2024年に代表取締役社長に就任。

https://www.optex-fa.jp