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【製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (106)】結果を出そうと焦る若手技術者 成功体験積み重ねて自信獲得

技術者といっても様々な職種の方がいます。現場で設備を動かし、ものづくりの最前線で闘う技術者。研究開発という職種で、新しい技術や製品の創出を目指す技術者。技術営業という肩書で、顧客と近いところで自社技術の説明や周知,、顧客課題解決に力を注ぐ技術者。

しかしこれらの技術者も若手の頃に道を誤ると、– 自分では何も考えない丸投げ思考の技術者– 口ばかりで動けない技術者– べき論をかざすだけで動かない技術者– 自分の仕事ではないと自己選別の上で業務を回避する技術者、といった技術者への変貌してしまいます。未知の部分に好奇心をもって挑戦するという技術者としての基本姿勢が養われないまま、年齢だけ重ねてしまう典型例です。このような、技術者になってしまう原因の一つの可能性として、「若いころに結果を焦り過ぎて、技術者としての基礎力が養われなかった」ということが挙げられます。

結果を焦るのは基本的に自尊心の低い技術者として一般的な傾向

結果を焦り過ぎる若手技術者の心理から見ていきます。まずこのように結果を焦る技術者の深層心理にあるのは、「自尊心の低さ」です。恐らく直接的にこれを伝えるとほぼ9割の技術者が自分は違うと答えると思いますが、自尊心が低くなければ結果を焦ることなく、より冷静に自らを見つめ、一つひとつ積み重ねていこうという考えになります。自尊心の低さを強く否定している時点で、自尊心が低いということを認めていることと同じです。

自信がないからこそ皆に認めてもらえるような結果が欲しい。その結果をもって周りの皆に認めてもらいたい。認められることで、自らの存在意義を周知したい。そのような心理が根底にあることを理解することがマネジメントとしては第一歩であり、もし結果を自分で焦っていると感じている技術者がいるのであれば、「自分のその心理は自尊心の低さからきている」ことを今一度本人に納得させるまでいかなくとも、まずは認識させることが肝要です。その上で、結果を焦る技術者に対しては、「自信を持たせる」ということを最優先に取り組むことがポイントとなります。ただ経験も浅く、実際に技術的な業務で結果を出すことが困難なのが多くの若手技術者の状況です。どのような取り組みを通じて自信を持たせればいいのでしょうか。

自信を持たせるため若手技術者の専門性至上主義を利用する

技術者は専門学校、高専、短大、大学、大学院等で何かしらの専門教育を受けて入社するケースが多いです。また、日本の現段階での教育内容を見ても、「専門知識を覚えることを求める、または評価する」という傾向にあるのも事実です。この教育方針に異を唱える方々もいますが、民間企業における技術者としての現場業務経験を有する人間の一人としては、必ずしも全面的に否定するものではなく、勉強のやり方を理解するという観点を一例として実際に役立つものがあるのは事実です。

しかしこのような教育を経ているため、– 知ったかぶりをするが、的が外れてしまう– 無知と思われるのが怖く、知らないといえない、という心理になるという弊害が生じてしまうのは、多くの技術者にとって不可避といえるかもしれません。だだ、技術者たちがこのような考えを基本としているのであれば、それを利用することで結果を焦る若手技術者の軌道修正を行うことが可能となります。そのやり方の一つが、「若手技術者が得意と自負する専門領域で、かつ実業務に関係する技術的専門用語を講師として説明させる」です。

いわゆる社内勉強会になります。実際に専門的な知見を有する必要はありません。若手技術者本人が自信がある、これなら大丈夫だと思う、と答えたものであれば何でも大丈夫です。難しいことをやると準備に時間がかかり、また勉強会自体の時間も長くなるため続かなくなります。この手の勉強会は継続が第一です。

そのため、技術的専門用語の解説は1、2個に絞り、勉強会の時間自体も長くて10分くらいで終わらせることがポイントとなります。例えば、実業務に関連し、かつ若手技術者が知っている技術的専門用語の解説をするとします。1分間で口頭並びにpowerpoint1ページで用語と、その説明を行います。専門用語の解説は知らない人を前提として、わかりやすい言葉で行うことが重要です。その後、4、5分程度で質疑応答をします。この時は聴く側の人も知らない前提で、積極的に質問をしてあげてください。

仮に質問する側が知っている内容でも、知らないという前提で質問することが大切です。質問する側は決して、「こんなことも知らないのか」といった旨の事は決して言わないようにしてください。この勉強会の目的は専門用語の習得もさることながら、成功体験によって若手技術者の自尊心を高めてもらうことが狙いにあるためです。知らないということは、専門性至上主義によるプライドを傷つける中で、最も破壊力のある言葉です。それよりも質問した後は、若手技術者の回答を待ってあげてください。日を改めてでも構いません。

質問された若手技術者が、できる限りわかりやすく答えようとするはずで、これこそが専門用語の本当の意味での理解につながり、その実感が「専門用語を習得した」という専門性至上主義を掲げる技術者にとって、最も自信をつける成果となります。このような小さな成功体験の積み重ねが若手技術者の自信獲得につながり、結果を焦るという傾向が低減していくことになります。結果を焦る若手技術者がいると感じている場合、是非取り組んでいただければと思います。

【著者】

吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
 FRP Consultant 株式会社
 代表取締役社長
 福井大学非常勤講師

FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/