【We love Automation!(Vol.6)】人生のスパイス

肯定的な言葉を増やそう

現代は情報伝達スピードが高速化したことで、産業の変化スピードも高速化しています。旨味のあるビジネスを展開できたとしても、それは自由経済社会では一時的なものとなり、同業他社が類似製品を用意して価格競争に陥り、市場価格が限界まで下がると実力の弱い会社から徐々に淘汰され、残った2~3社によってコモディティ市場が形成されるようになります。

 身近なコモディティ市場には私たちがスーパーマーケットで購入するような食品市場があります。例えばペットボトル飲料のお茶などは現行の品揃えに対して我々消費者が他に何を望む必要があるのだろうか、という程に超コモディティ化されています。それでもメーカーは少しでも他社の市場を奪おうと、新製品を投入して刺激を与えることを止めることはありません。ペットボトル飲料全体のヒット率は2~3%と言われており、お茶に限定すればそれはもう1%もないのではないかと思いますが、そのような低ヒット率であっても何か新しい手を打たなければ、徐々に市場から追い出されていくのです。

 私たちは常に何か新しいものを考えて作り出さないといけない、それがビジネスです。それは新製品や新しいサービスという枠を超えて、新しいマーケットを創り出すことができれば、非常に刺激的で素晴らしいものになります。そう、消費者、お客様に刺激(スパイス)を与えるのです。

 近年において新しいマーケットを創り出した例としては、やはりChatGPTを代表とする生成AIでしょう。私たちの身の回り、日本の製造業に限定するとレストランの配膳ロボットでお馴染みの協働ロボットが挙げられ、次にIIoTによるスマートファクトリー、それから高機能素材、微細(ナノ)加工、MEMSデバイスも記憶に残っていると思います。

 いずれも何か新しい原理から導き出されたというものではなく、過去からあったアイデアが最新の技術で実用になったというものがほとんどです。そう考えると現代のAIの進歩は、新しいマーケット創造の絶好の機会であると言えそうです。

 その中で当社も手掛けているIIoTの中に位置するIO-Linkという通信規格は、その誕生はもう20年も前の話になりますが、少しずつ盛り上がりを見せたのは10年ほど前から、そしてこの5年の間に日本でも大きく伸長しています。従来はIIoT化をしようとするとどうしてもコストが高くなり、また設計上も複雑になって詳しい人がほとんどいない状況が普及を阻んでいたのですが、半導体の微細化によってコストは旧来の製品にかなり近いところまで下がり、ソフトウェア技術の向上もあって随分使いやすくなりました。

 そう考えるとマーケットを創り出すというのは、それに相応しいタイミングを狙うことが重要で、早過ぎると受け入れてもらえず、遅過ぎると出遅れてしまうものです。そしてそれは単にアイデアを思い付くかどうかというよりも、何か新しいことを実現する時に障害となっていた壁を一つ一つ壊していく地道で手間のかかる仕事なのです。その敵は自分自身が「面倒だ」「難しい」「無理に決まっている」「効率が悪い」「我々がやる意味がない」「今のままでいいじゃないか」と否定的に考えることです。

 これらの否定的な言葉を次のように置き換えてみてはどうでしょうか。

「面倒だ」→面倒だからこそやる価値がある

「難しい」→難しいからこそ競合他社はやろうとしない

「無理に決まっている」→本当に無理なのか理論的に証明してから判断しよう

「効率が悪い」→我々がもっと効率を良くしてみよう

「我々がやる意味がない」→もし我々がそこに新しい価値を追加することができれば大いに意味がある

「今のままでいいじゃないか」→我々が変えて行こうじゃないか

 人間の満足度と幸福度は否定的な言葉を減らし、肯定的な言葉を増やすことで向上します。それは精神的な作用もあるのですが、実際には肯定的言葉に転換することが良い結果につながり、満足度と幸福度を向上させる効果があります。嫌な仕事をする羽目になって「あー嫌だ嫌だ」と思いながら従事するよりも、「この嫌だと思っていた仕事を乗り越える運命なのだ」と真正面から取り組んだ方が間違いなく良い結果に繋がるでしょう。そしてそれは人生にとって良い刺激、スパイスとなるはずです。

◆湯口 翼(ゆぐち たすく)

1967年生まれ。大阪府出身。2002年に産業用センサメーカーのオプテックス・エフエーに入社。開発グループで新製品の開発に携わり、ローコストな印字検査専用の画像センサをはじめ、画像処理用LED照明コントローラやIO-Linkマスタなど画期的な新製品を多く生み出す。2008年に取締役、2024年に代表取締役社長に就任。

https://www.optex-fa.jp

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