【○○なカイゼン 第七話】昨日の敵は今日のアイデア

お客さまは自社の商品に対してどんなご要望をお持ちなのか?正確に把握することはとても大切ですが、簡単ではありません。マーケットはマーケットインからユーザーインへと変化しています。これまで以上にお客様のご要望を取り入れる必要が出てきます。今回は随分以前のことなのですが、そんな変化に対応した現場カイゼン事例をご紹介いたします。

20年も前ですが、精密切断機を生産しているD社でのカイゼン会でのことです。組み立ての様子を見ていたのですが、とても組み立てにくそうでした。組み立てにくいものは修理しにくいものでもあり、お客様の工場で故障したらどうやって直すのだろうと思い、ライバルメーカーの商品はどうなのかとD社の技術者に聞いてみました。すると、彼らはライバルの製品のことはあまり知りませんでした。D社の製品は性能面での評判が良く自信を持っていたので、あまり競合製品を気にしていなかったようです。しかしまずは見てみようということになって、そこにあったカタログでライバル商品の写真を見てみました。すると、我々が苦労していた、手が入らずに組み立てにくいところには形状が違い組み立て易そうでした。このような見方で自社製品とライバル社製品の比較をしているうちに、技術者から「組み立てやすいだけでなく、こちらの製品のほうが操作しやすいのではないか」とか、「見た目が良いのではないか」という意見が出てきました。以前から性能の良さで評価を受けてきたことから、さらに性能を良くするにはどうしたらいいかは考えていましたが、お客様の使い勝手や見た目のカッコよさを考えるということはあまりなかったということでした。しかしそれは作る側からの一方的な見方であって、お客様の方からの見方になっていなかったというような意見になり、みんなで考えてみようということでその日のカイゼン会が終りました。

翌月、再度D社訪れたのですが、そこで私は本当に嬉しい驚きのモノを見ました。彼らはその後お客様視点での議論を続け、使い勝手が向上する機械の形を段ボールで実物大で、作っていました。その形は、ライバルの製品と比較して、すべての要件が満たされているものであって、すばらしいものでした。段ボールの表面には、たくさんの人が見て気がついた意見などがマジックやボールペンで書かれていました。「このハンドルはもう少し大きくした方がいい」、「現行製品の欠点である、計器の見づらさが解消され、作業姿勢から見ることができるので素晴らしい!」、という感じです。多くの人が自分の眼で見て触っての意見であり、具体的なカイゼンに結びつきました。その結果、これまで評判が良かった性能はそのままで、使い勝手や見た目が良くなったため、そこで生まれた新設備はヒット商品になりました。

この事例は私にとってとても印象深いカイゼンです。最初から新製品の開発を考えていたのではありません。組み立て作業のカイゼンで、現場現物でワイガヤをしているうちに商品の話になり、それが段ボールの試作へとつながりヒット商品が生まれたという完全にボトムアップ型で全員参加の開発ストーリーだからです。現場でのワイガヤは大切です。
「昨日の敵は今日のアイデア!」ドンドンカイゼンして現状を変えていきましょう。

日本カイゼンプロジェクト 会長 柿内幸夫

1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所所長 改善コンサルタント、工学博士 技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011〜2016)、静岡大学客員教授 著書「カイゼン4.0 – スタンフォード発 企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所〈101項〉」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など

一般社団法人日本カイゼンプロジェクト

改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。

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https://www.kaizenproject.jp

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