オートメーション新聞の過去発行号が無料で読めるバックナンバーを公開中!詳細はこちら

【FAトップインタビュー】アドバンテック 代表取締役社長 吉永 和良 氏 産業用PCメーカーからエッジコンピューティングのプラットフォーマーへ 日本の製造業と共に成長する未来

産業用コンピュータで世界トップシェアのアドバンテックは、次の戦略として、エッジ領域でのAI活用が広がっていく未来を見据え、エッジコンピューティング、エッジAIのアプリケーションを開発、活用する企業に向けた開発環境の提供をグローバルで推進している。単なるいちハードウェアメーカーから「エッジコンピューティング」「エッジAI」のプラットフォーマーとして、日本でも産業向けのAI活用の支援を進めていこうとしている。

グローバルの新戦略と日本市場への取り組みについて、同社の日本法人を率いる代表取締役社長 吉永 和良 氏に話を聞いた。

エッジコンピューティング、エッジAIの会社へ

ーー先日、COMPUTEXでの御社の発表はとても興味深かったです。

御社は産業用PCメーカーとして、NVIDIAやインテルはもちろん、主要な半導体メーカーと親密な関係性で連携し、ハードウェアはボードPCやボックスPC、サーバー、さらにはセンサやネットワーク機器まで揃え、ソフトウェア、プラットフォームも自社で開発して提供しています。これだけラインナップが揃っていると囲い込みをしそうですが、御社はハードウェア単体でも、ソフトを含めたシステム全体でも、どんな形でも対応し、とてもオープンな姿勢をとっています。一見すると競合するようなメーカーであっても友好的な関係も築いています。

ニュートラルな立場に身を置き、全方位と良好な関係性を活かして柔軟に対応する。これはなかなか真似ができない非常に大きな強みだと感じました。

ありがとうございます。当社がCOMPUTEXで主張したかったポイントが正確に伝わったのだなと、逆に安堵感を覚えます。おっしゃる通りで、それが我々の最大の強みだと認識しています。

――「エッジコンピューティング」「エッジAI」というメッセージも、まさに時流を捉えた鋭いものでした。これから本格化する市場に対し、いち早く自社の姿勢と具体的なソリューションを提示するのはとても有効だと感じました。

これまでは世界トップの産業用PCメーカーというイメージを押し出し、その認識が強い人も多いと思います。「エッジコンピューティング」「エッジAI」というコンセプトは、実は数年前から温めていたものです。社会に対するメッセージについても、台北で開催した3000人規模の社内パーティーで披露し、社員とその家族にも「意味が分かるか?」「どうすればもっと伝わるか?」と意見を聞いて事前にテストマーケティングをし、そのフィードバックをもとにまとめたものになります。単なる思いつきではなく、本当の意味で、全社を挙げて練り上げてきたメッセージなのです。

WISE-Edgeが目指すのはエッジAIにおける「CUDA」

――産業用PCメーカーからエッジコンピューティング・エッジAIの企業へと変革する上で、ソフトウェアプラットフォームが重要になると思います。

そこが当社の戦略の核心部分であり、ハードウェアを制御するソフトウェア層「EdgeSync」の開発部隊と、アプリケーションプラットフォーム「WISE-PaaS」の開発部隊を組織的に統合し、提供するサービスも「WISE-Edge」という名称で統一しました。ハードウェアの開発部門とは別に、ソフトウェア開発部門が独立してまとまり、API開発などを加速させています。この「WISE-Edge」で目指しているのは、一言で言えば、NVIDIAにとっての「CUDA」のような存在になることです。

――「CUDA」はNVIDIAが提供しているAI開発環境のことですが、それを目指すということは、つまり完成されたパッケージソフトを売るのではなく、ユーザーが自由にAIアプリケーションなどを開発できる「開発環境」そのものを提供するということでしょうか。

その通りです。NVIDIAの強さは、GPUというハードウェアだけでなく、長年かけて作り上げてきた「CUDA」という強力な開発環境を提供し、それを使って多くの事業者がAIを開発していることにあります。

当社もそれに倣い、FA分野はもちろん、医療・ヘルスケア、エネルギー管理など、産業分野のエッジ領域でのAI活用、または各業界のシステムインテグレータによるアプリケーション開発に対し、その開発を支援し、容易にできるようにするインフラ、つまり産業アプリケーション向けの開発環境を提供していこうと考えています。その役目を担うのが「WISE-Edge」です。

開発環境の提供で業界標準を狙う

ーーサービスのプラットフォーマーではなく、開発環境のプラットフォーマーですね

産業用PCをはじめ、ハードウェアの圧倒的な品揃えを持つ当社が、トレーニング済みのLLM(大規模言語モデル)などをコンテナ化し、様々なシーンで利用できるツールとして提供していきます。現在は50個ほどのコンテナを用意していますが、これを300個、それ以上へと増やしていく計画です。

これを使うことにより、システムインテグレータなど開発者は当社のプラットフォーム上で、最先端のAI技術を迅速かつ容易に自社のソリューションに組み込むことができるようになります。またバージョン管理などソフトウェアを最新に維持することも容易にできます。

当社はこのアプローチによって、エッジコンピューティングにおける一つのスタンダードを築き上げることを目指しています。

――それをうかがうと、産業用PCメーカーから「エッジコンピューティング」「エッジAI」の会社へというコンセプトにも納得がいきます。COMPUTEXではロボティクス開発キットを紹介されていましたが、この戦略の一環なのですね

その通りです。これからロボットが普及し、開発者の数もロボットの種類も益々増えていくと思います。ロボットを開発するメーカーは、各社それぞれ作り方が異なるため、開発に時間もコストもかかりますし、製品化した際にはサポート、アフターサービスなどの問題も出てきます。

当社が提供する開発キットには、当社が開発したソフトウェアが組み込まれており、これを使えば開発が格段に容易になります。ソフトウェアレベルでの共通プラットフォームを提供し、ロボット開発者やメーカーにはより付加価値の高いアプリケーション開発に集中していただく。当社はその下のレイヤーをしっかりと支えていく。これは今後のロボット開発のあり方を大きく変えるポテンシャルを秘めていると考えています。

ポテンシャルは大きいが課題も山積み。日本市場への挑戦

――FA機器のような専用機ではなく、汎用的なコンピュータを提供してきたからこそ発想できる戦略のように感じます。一方で、日本のFA業界から見ると御社のその姿勢は「怖い存在」にも映るかもしれません。

確かにそのように見られることはあり、警戒心を抱かれることがあるのは事実です。しかし当社はニュートラルなプラットフォーマーという立場であり、FA機器メーカー各社が持つ強みはそのまま活かしながら商材補強等、当社をうまく活用していただければ良い。それが共創・Win-Winの関係だと考えています。私たちはその点をもっと丁寧に伝えていく必要があると感じています。

――日本市場への具体的な取り組みについてお聞かせください。

5つの商品グループがそれぞれにフォーカスする産業分野で事業を進めるといった従来からのスタイルに加え、業界を横断した提案力を強化するために「RSM(Regional account and Sales Management)」という営業統括組織を立ち上げました。各グループの情報を共有し、顧客ニーズの掘り起こしやコラボレーションを促進して、新しい市場を開拓していく狙いです。

また、日本市場におけるアドバンテックの大きな強みは、2019年にオムロン直方(福岡県直方市を買収し、国内に製品サービスとものづくりを担う工場を持っていることです。現在、新たに50億円を投資して新工場を建設中で、2027年に第1期が完成する予定です。この拠点では、国内顧客向けの受託サービス(EMS/DMS)に加えて、標準品も日本で製造できる体制を整えます。関税であったり地政学的なリスクが懸念される中、日本を重要な生産拠点と位置づけ、投資を強化しています。

―― 日本市場での課題はどこにあるとお考えですか?

足りないものを挙げればきりがありませんが、最大の課題は「人」です。日本市場は非常に大きいにもかかわらず、それに見合う十分な事業となっていません。やりたいこと、やるべきことはたくさんありますが、それを実行に移すためのリソース、特に人財が圧倒的に不足しています。これは経営の最重要課題として認識しており、早急に優秀な人財を採用・育成するための投資をしていく必要があります。

そのためにも、まずは「普通の良い会社」になることが重要です。社員が満足して働ける環境があってこそ、会社は成長できます。これまでの国内法人は、私ども経営の責任もあり、残念ながらそうはなっていなかった事は事実です。現在、外部からの新たな人財の登用、人事制度や組織改革、コミュニケーションのあり方や社内の人財育成の仕組みなど、様々な改革を進めています。ES合格点が当たり前の「普通の良い会社」にしていきたいと思っています。

エッジコンピューティングで日本の産業界を共に盛り上げていくパートナーに

――製品やサービスという武器は揃っている。それを動かす組織と人が活性化すれば、大きな成長が期待できるということですね。最後に、今後に向けての抱負をお願いします。

将来の競争は、間違いなくグローバルレベルになります。日本の市場、日本のメーカー、日本の部品だけで完結するビジネスは、いずれ立ち行かなくなるでしょう。生き残るためには、グローバルでオープンなプラットフォームを活用することが不可欠です。

当社は台湾企業ではありますが、「利他」を理念とし日本の産業界を共に盛り上げていく共創パートナーでありたいと心から願っています。当社のプラットフォームをぜひ日本の皆様にうまく活用していただきたい。共創・コラボレーションを通じて、日本企業が長く育んできた素晴らしいものづくりをさらに発展させていくお手伝いができることを、心から楽しみにしています。

https://www.advantec-japan.co.jp