デジタル化が進み、通信営業形態の売り上げがますますウェイトの多くを占めてきている。訪問型販売員を抱える営業には難しい時代である。
FA販売店営業も例外ではなく、難しい時代に入っている。難しいと言ってもすぐに訪問型営業を主力とするFA販売店営業の売り上げが減少に向かうと言うわけではない。それに国内のFA商品需要は急激に成長するわけではないが、岩盤のごとく安定した市場で推移するだろう。FA販売店営業が難しい時代に入っていると言うのは、これまでに作ってきた受注ルートを頼りに売り上げをこなしているだけでは、成長軌道に乗せられないということである。
ネット通信とコンピューターソフトが作ってきたデジタル型社会は、これまでも営業に多大な影響を及ぼした。受注や納期、在庫等の管理業務や配送等で販売員の負担をかなり軽減した。その軽減した分で販売員一人当たりの売り上げ額を上げることができた。
国際経済でよく言われていることがある。低所得国が急速に成長し、国民一人当たりの所得が1万ドルになって中所得国になると、その後はそれまでの成長モデルが効かなくなり、成長が鈍化する。そのため、先進国の仲間入りができない現象を「1万ドルの壁」とか「中所得国の罠」と言われる。
FAマーケットの成長は急速であった。その成長ぶりは、生産財には珍しく1970年から1980年の10年間で約10倍の成長をした。この間に販売店と顧客の受注ルートが出来上がり、そのルートを通して売り上げは大きく伸びた。その後の消費動向や社会的価値観の変化によって、ルート顧客の売り上げ順位は変わったが、いまも確立されたルート顧客のパイプをいかに太くするかと言う営業に邁進したままである。
NECA(日本電気制御技術工業会)の国内出荷額のトレンドを見ると、FA事業は底堅く安定はしているものの、それほど成長していない。中所得国がそれまでの成長エンジンでは先進国の仲間に入れないのと同様に、これまでFA販売店営業の成長支えてきた受注ルートを獲得するという営業では、その先がなかなか見えてこない。受注ルートを築いてきた顧客にとにかく働きかけるという営業が成長戦略のプラットフォームになっているのである。そこから考え出される政策は 新商品や戦略商品の拡販であり、競合商品切り替えであり、案件テーマ新着管理活動である。そうした営業活動をその時の趨勢に合わせて強弱をつけているのである。このように受注ルートを深掘りする営業モデルこそが「1万ドルの壁」なのである。
そのなかでもFA成長期で一気に大型販売店への成長軌道に乗せた販売店営業はある。その販売店営業は、その規模の大きさが新たな顧客を呼び寄せ、新たな分野の商品メーカーを呼び寄せる。また人材の投資にも販売員以外の種々のスタッフに向ける余裕があり、すでに出来上がっている受注ルート営業の壁に対し、先手をとって乗り越えていくことになる。
デジタル社会の変革の流れは速い。大半の販売店営業は、半ば固まっている受注ルート営業の罠にはまったまま悠長に構えていられないだろう。かといって、デジタル化を図っても資金的な面からDX化は無理であり、IT化による営業業務の効率化を推進する程度であろう。その他にも、ソリューション技術の向上によって受注拡大にも力入れるなどの手を打っても、受注ルートの守りは守りのままである。壁を乗り越えるには、深く掘り進んでいく受注ルート営業からの脱却が必要である。
元来、訪問営業の強みは、デジタル力よりも「アナログ力」を活かすことにある。アナログ力の発揮できる分野といえば対人関係構築であろう。これは、固まった受注ルート営業から抜け出して新しいルートを作るのに必要な営業力である。アナログ力によって受注ルート営業の罠から脱することが成長への道になるのだ。