【製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (87)】若手技術者への評価の伝達方法

4月からは新しい期が始まると同時に、組織編成が変わる等、変化のある企業も多いかと思います。一番大きいのは新入社員の加入でしょう。
私は幅広い地域や業界をすべて網羅しているわけではないのですが、主にみている範囲でいうと、ここ1、2年前の新入社員は技術職は、色々な意味でバランス感覚の良い人が増えている印象です。
今年はやむを得ず採用を絞ったという企業も多かったようですが、そのような大人の事情の事実を直視し、「厳しい時に逆張りをしている勢いのある企業を自分で探す」という動きをする方も出てきています。
彼ら彼女らの言動の背景は、「自己実現できるのはどこか」だけだと思います。上記のような観点でよく社会を見ているなということは、講師をしている学生からも感じることです。
このような状況のため、優秀な技術系社員の方が、コア技術をもった中小企業に多く流れる、という技術の本質的には望ましい流れが今起きています。そして受け入れる側である企業として強く意識しなくてはいけないのは、「入社後の若手技術者をしかるべき方向に導けるよう、フォローアップする」ということです。
この際にポイントとなるのは、「(業務)評価とその結果の理由の伝達」になります。昇給や賞与のタイミングで、組織の期待することに対するアウトプットの質や取り組み姿勢などについて、その評価結果を伝えるというのがここでいう「評価」になります。

評価は若手技術者が自分を振り返る貴重な機会

評価というと会社側、つまりマネジメント側から一方的に伝えるという印象のある方がいるかもしれませんが、評価の本来の位置づけは、「評価を伝えられた側が自分自身を振り返り、疑問点や相談を行うことで、考え方の修正を行っていく」ということを上位概念として持っておく必要があります。
そのため、例えば若手技術者が評価を言い渡された場合、・何故そのような評価なのか・評価に対する自分の意見を述べる・評価も踏まえた日々の業務についての相談を行う・より自らが役割を果たすために必要な行動に対する助言をもとめる
といったことを行うのは評価される側にある若手技術者として不可欠の姿勢です。よって、マネジメントは一方的に伝えるだけでなく、まずはその評価結果に対して評価対象である若手技術者が発言をする、という機会を設定すべきです。

評価は冒頭に良かったところと改善点を端的に伝えるというのが最重要

では実際に評価をどのように伝えるべきかについて考えます。

まずこの手の評価のポイントは、・良かったところ・改善点(課題)をそれぞれ一点ずつ、「端的に伝える」です。得てして評価が不慣れなマネジメントは、「改善点や課題を延々と話す」という傾向にあります。
最初の1、2分は話を聴いているかもしれませんが、大体それ以上の話になるとあまり頭に入らないというのが聴く側である若手技術者の本音です。「この際だから言っておくけどな…..」というような言葉が出た時点で、マネジメントから行う評価の伝達としてNGです。
既に述べた通り、評価を伝える目的は「若手技術者自身が自分を振り返る」というところにあります。長々と、しかも改善点や課題ばかり並べられても聴く気力がうせてしまうでしょう。
マネジメントとしても折角時間を設定したことを考えれば、企業としても労働時間の損失となってしまいます。そのため集中力もある冒頭、端的に話す(大体1、2分)というのがポイントです。
また、課題や改善点だけでなく、「良かったところを伝える」というのも大切です。これは後述の通り強みを伸ばすという今の時代の技術者に求められる育成方針に基づいています。課題や改善点を伝えることも重要です。
ただし、どちらもダラダラと伝えるのではなく、理由も含めて端的に伝えることで、評価を受ける側の若手技術者が自分の振り返りをしやすいよう心掛けてください。

評価伝達の重要な役割

評価伝達として求められる大きな役割は「良いところをより伸ばす」ということです。自分は何が強みなのかを若手技術者に早い段階で認識させることがその狙いにあります。技術者は基本的に自尊心が低く、それ故、専門性至上主義を掲げて「知っている」ということこそ正義というロジックで動きます。
これが、育成スピードを落とす足かせになるのです。よって、早い段階で強みを意識させて自信を植え付け、外部の話を受け入れる心の余裕を与えるのです。改善点の克服はマネジメントの全員が伝えることに熱心であることを考えれば、改めて述べる必要はありません。
どちらかというと、強みを認識させるということを忘れるマネジメントの方が圧倒的多数であるため、良かったところをきちんと伝えるということを強く意識した方が良いでしょう。合わせて、「評価結果について、疑問点やコメントはあるか」と言ってあげてください。
こうすることで若手技術者本人が評価結果を自らの振り返りに活用できる確度と精度が高まります。マネジメントも論理的思考力が強く求められる時代です。つまり言いたいことを自分の順番で言うのではなく、話す言葉の一つ一つの目的を意識しながらできる限り感情を排除し、わかりやすく伝えるということが求められているのです。
感染症によって対面での話し合いが制限されつつある昨今、情報をできる限り精度良く伝え、そして収集するという姿勢が求められます。特に今回述べたような評価伝達はマネジメントの果たす役割の一つとして大変重要であり、マネジメントも危機感をもって自らの論理的思考力の鍛錬に励まなくてはいけないでしょう。
マネジメントのこのような真摯な対応が若手技術者のモチベーションアップにもつながると同時に、終身雇用が大きくぐらつく今の時代を生き抜くためのマネジメントの方々自身の重要なスキルとなっていくのです。ご参考になれば幸いです。

【著者】

吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
 FRP Consultant 株式会社
 代表取締役社長
 福井大学非常勤講師

FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/

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