【製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (86)】心理学の内的統制と外的統制によって変わる技術者育成

心理学 において、内的統制と外的統制という言葉があります。ゼロからわかる心理学(ニュートンプレス)にはそれぞれ以下のように書かれています。
・内的統制:ある出来事がおきた原因を自分の中にあると考える

・外的統制:ある出来事がおきた原因を自分の外にあると考える技術者でいえば以下のようなイメージになるかと思います。
・内的統制の技術者 自分には技術的な専門知識が足りない技術的な勉強が必要だ

・外的統制の技術者 今の業界が下降気味なのが、仕事のうまくいかない背景にある会社のシステムが技術者を活かす状況にない
内的統制の技術者の口癖は、「自分の専門知識が足りない」という専門性至上主義の典型的な考え方がその軸にあります。それに対し外的統制の技術者は、「足りないのは自分ではない」という技術業務に対し他人事のような言動が目立ちます。
では、これらの考え方に縛られた技術者が、的確な教育をしないとどうなっていくのかについてみていきたいと思います。

内的統制の技術者の行く末

専門性至上主義にとらわれているので、「知らないこと以外はできない」というように、「未知の部分への挑戦」ができない引きこもりのような技術者になっていくでしょう。
若いうちは学ぶことで、または経験することで知見を向上させるスピードも高く、これらの知見を実践力の伴う知恵に昇華する力もある上、変化に対する柔軟性もあります。
しかしどれだけ熱意があっても加齢という避けられない変化により、スピードや柔軟性は低下していきます。そうすると未知の事、新しいことに直面した時に、「これは自分では手に負えない」と判断し、「自分を守る」という行動に出ます。
どのような行動かというと、「できない理由を延々と述べ続ける」ということになる場合が殆どです。・忙しい・この仕事は他の○○が適任だ・その仕事をやるのであれば、××の仕事を止めてもいいでしょうか
といった発言はその典型例です。これも心理学的にいうと「成人期への移行に目が向かず、自分のみに関心がとどまる停滞期」という状態にあり、周りも大変ですが、手詰まり感のある本人も大変な状態にあります。一言でいうと亀が甲羅の中に閉じこもった状態です。

外的統制の技術者の行く末

深層心理で常にあるのは、「自分は悪くない」という考えです。そのため、何か問題が起こった時、課題に直面した時に「原因は環境にあるので、いかにして自分の正当性を確保するか」を考えます。
よくある言動は、・会社の○○というシステムが悪い・××さんのマネジメントが足りないといったものです。内的統制の技術者と違い外的統制は多少外を見ることができます。
しかし、当人は原因が外にあると言い続けても何も解決しないので、どうしたらいいかを考えます。多くの外的統制の技術者のとる行動は、「いかに他の人間に動いてもらうか」です。
自分ではなく、周りの人間に業務を押し付け、周りの力で状況の打破を図ります。これはマネジメントとして適切な部分もあるため、すべてを否定してはいけませんが、大部分の外的統制の技術者に見られる最終形態が、「技術的業務の丸投げ」です。
一言でいうと伝書鳩のような存在といえます。内的統制、外的統制に関わらず特性が顕著に出たまま年齢を重ねた技術者は、組織にとって問題となることは明らかといえます。ではこうならないためにはどうしたらいいのでしょうか。

内的統制は技術報告書、外的統制は活字による指示がポイント

まず内的統制の技術者に対しては、「できる限り早い段階で技術報告書を書けるようにする」ということに尽きます。内的統制にとらわれる技術者は、いってしまえば専門性至上主義を中心とした、自分の世界にとどまっている状態にあります。
学術業界において、特定の研究テーマを突き詰めるのであればその方が望ましいでしょう。しかし、民間企業という産業界をフィールドとする場合、自分の殻に閉じこもっていてもそこで見える範囲には限界があるのです。
この限界を突破するには自らを客観的に振り返る媒体が必要であり、この媒体こそが技術報告書になるのです。技術報告書においては自分の中で「知っているつもり」「わかっているつもり」が、「本当に正しいか」「それを第三者に理解してもらうにはどうしたらいいか」という観点でまとめる必要があり、これが論理的思考力醸成への特効薬になります。
これを技術者たちが若いうちに書けるようになると、自分を常に客観的にみることができるようになるのです。これが、「自分の殻に閉じこもっていては見えない外の世界への開眼」へとつながるのです。そして外的統制の技術者に対しては、「今自分が何をすべきかについて、段取りを含めて明快に指示する」ということが大切です。
外的統制の技術者は外ばかりに目が向き、自分を振り返るということを行うことがほとんどできません。そのため、今やるべきことを見失っている状態に陥っていることが多いのです。
理想的には技術報告書を書くことで、自らを振り返るというところまでいければいいのですが、まず初期段階で何が必要かということでいうと、「具体的に何が必要なのかを活字で指示する」となります。
まずは外に目を向ける前に、今目の前にあることをきちんとやってもらうには、言葉ではなく活字による指示が必要です。このような活字による指示により、若手技術者の取り組むべき目の前のことを理解させ、まずは落ち着かせるということこそが、外的統制の技術者を日々の業務に引き戻させるポイントになります。
今日は技術者を心理学に基づく大分類の上、それぞれに適した育成方針概要を述べてみました。個々人の細かい特性はもちろん色々とありますが、大切なのは技術者育成という観点から、技術者たちを大きくとらえた場合に、どこに注力すべきかをマネジメントが理解することだと思います。ご参考になれば幸いです。

【著者】

吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
 FRP Consultant 株式会社
 代表取締役社長
 福井大学非常勤講師

FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/

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