【2024年新年特別寄稿】株式会社アルファTKG 社長 高木俊郎 2024年は成長軌道確約の年 『日本経済と中小製造業の新航路』

■日本復活:「2024年の成長軌道」

日本経済は円安を背景に新たな成長局面を迎えている。2024年は成長軌道が明確化する輝かしい年であり、歴史的な転換点となるであろう。戦後80年の歴史を振り返ると、終戦直後から始まる高度成長時代は、1985年のプラザ合意がきっかけで終焉を迎えた。円高時代の到来である。 以降、バブル経済が崩壊し、長期にわたる成長なき「デフレ経済」に甘んじ「失われた30年」として知られる結果となった。 日本経済を苦しめた最大の要因は「超円高」であった。

筆者は、この期間の大半を大手機械メーカーの販売責任者として、欧米を中心に世界各国を渡り歩き、円高の厳しさを痛感してきた。 昨年度は、予想を超える「超円安」という新たな環境が生まれ、「悪い円安」と自虐的な日本滅亡論も散見されたが、輸出企業にとっては追い風となり、収益は大幅に改善した。これは日本復活の序曲であり、24年は成長軌道確約の年となる。

■富豪国家への転換:「円安とインフレの新時代」

輸入コストの上昇と物価の高騰により、庶民の生活が苦しくなる昨年度の状況は好ましくない。 実質賃金の上昇を伴わない諸物価高騰は大問題であるが、これは「インフレ序曲」であり、デフレ脱却こそが日本の未来を明るくする唯一の手段である。物価上昇は数十年ぶりに現れた現象で、若い世代にとっては経験のない未知の状況であるが、 これを体感することは重要な意義を持つ。 何十年もデフレ価値観が日本中に蔓延していたが、昨年度からの「物価上昇」が一般化し、人々 に「値上げはやむを得ない」との新常識が芽生え始めている。インフレへの抗体が日本人に少しずつ浸透してきた証である。これは人々が、デフレ脱却の方向に向かって(無意識に)意識が変わるパラダイムシフトであり、デフレからインフレへ、そして貧乏国家から富豪国家に転換する歴史 的なポイントでもある。

■実質賃金上昇: 「人手不足がインフレを誘発」

23年度の物価上昇は、実質賃金が下落する「コストプッシュ・インフレ」であったが、24年からは理想的なインフレが始まると思われる。人手不足を背景にした需給バランスによる諸物価上昇が始まり、(経営者が望むと望まざるとにかかわらず)給料が毎年上昇する。実質賃金の上昇を伴う「理想的なインフレ」が、40年ぶりにやってくる。人手不足がもたらす必然の流れであり、貧乏国家から脱皮し、富豪国家へ向かう重要な転換点に24年が位置づけられる。

■中国リスク: 「核心的利益への対抗 ”FOIP”」

FOIP(Free and Open Indo-Pacific)は、故安倍首相が「開かれたインド太平洋領域」として提唱した概念である。FOIPは、米国を始め欧州諸国に強く受け入れられている。この理由の一つは、中国包囲網の意図が含まれているからである。中国では長く続いた成長モデルが、不動産バブル崩壊をきっかけに、歴史上初めての変化点を経験している。輸出も国内需要も縮小傾向にあり、特にEV自動車業界では、供給過多による企業間の値引き競争 が激化し、熾烈な戦いが進行している。 

筆者の専門分野である精密板金業界でも、加工機メーカー間の価格競争はチキンレースとなっており、多くの企業が倒産の危機に瀕している。中国共産党は、経済のテコ入れより「核心的利益」を優先しており、南シナ海や台湾問題におけ る領土主張、一帯一路イニシアティブなどの政策が、中国と自由主義国家との間の緊張要因となっており、「中国リスク」は避けられない領域まで進行している。  

このような中国リスクを背景に、地域の安定のためには『日本の経済力や防衛力が重要である』 との認識が自由主義国家で共通している。米国が日本に期待する最大の理由の一つでもある。80年前の戦後日本も、冷戦構造の中で重要な役割を果たしたが、現在はその時代と同様の状況が再び生まれている。

■プラザ合意: 「国際社会での日本依存」

85年のプラザ合意の背景には、冷戦終結予想がもたらす「日本不要論」があった。国際的に強くなった日本を円高で牽制する一種の「日本叩き」がプラザ合意であったが、以降40 年近く続いた「日本叩き」は消滅し、「日本依存」に変化している。これは、明らかに「中国リスク」が原因しており、国際社会にとって、日本の強力な力(製造力・ 経済力・防衛力)が必要とされる時代が到来している。これが新時代であり、日本再起動の源泉である。 米国を中心とする国際社会は、「円安容認」で一致しているので、極端な円高にはならない。この結果、輸出製造業は依然として好決算が期待できる。24年は、すべての国際環境が日本に有利に動いていると断言できる。戦後80年の最大のチャンス到来である。

■人の希少化: 「投資へのパラダイムシフト」

残念ながら、前述の国際的変化を享受する中小製造業の体制は整っていない。 先端的な中小企業の経営者を除くと、新時代への船出準備には程遠い状況にある。その一例として、設備投資は依然として機械が主役であり、切迫する人手不足に対応するデジタル化・自動化への投資を優先する経営者は少ない。経済産業省が警告する「2025年の崖」への関心も 薄い。戦後の高度成長期を通じ、日本の経済成長には「最新鋭の機械」が貢献してきたのは事実である。当時、機械は希少品であり、『良い機械を購入すれば利益を得られた』時代であった。機械メーカーは常に機能を充実させ、最新鋭の機械導入により大幅な生産性向上がもたらされた。しかし、今日の希少価値は「人」である。機械は業界に満ち溢れ、イノベーションがほとんどないため、最新鋭の機械を導入しても、差別化は生まれづらい。半面、デジタル化・自動化など、人に対する投資を怠れば、24年からの成長軌道に乗ることは不可能である。

■モノづくり価値観: 「インフレでの企業規模 拡大戦略」

現代の価値観では、QCD(品質・コスト・納期)を優先し、多品種少量生産を掲げ、現場力を武器にして従来の手法でQCDを追求し続ける中小製造業が圧倒的に多い。販路拡大や生産量拡大への関心は薄く、アナログ依存の差別化を重視し、受注の急速な拡大を望まない経営スタイルは、デフレ時代の王道であった。40年にわたり続いたデフレ時代には、企業規模を拡大する外部環境が整っていなかったため、中小製造業経営者の多くが生産量拡大を経営方針としていなかった。その結果、ここ数十年で売上規模を飛躍的に増大した中小製造業は極めて少ないのが現実だ。 しかし、24年から始まるインフレ経済においては、企業規模の拡大は必須事項となる。特に人手不足に対応し、企業の体質をアナログ依存からデジタル依存に変革することが重要である。企業の『成長エンジンはデジタル』、『差別化エンジンはアナログ』となる。デジタルとアナログのハイブリッドエンジンによる積極的な生産量の拡大が求められる。

■AIとの共創: 「AI時代の人事戦略」

22年末に台頭したChatGPTは人類に衝撃を与えた。それから1年が経ち、ChatGPTは驚異的な成長を続けている。 シンギュラリティ(技術的特異点)とは、AIが人間の知能を超える未来の時点を指し、45年頃と予想されていたが、ChatGPTの台頭によってその概念は覆されている。AIは、誰も未来を予想できないスピードで進化しており、20年も先を予想できる人は誰もいない。 ChatGPTの台頭は、人類にとって未来は『AIとの共創社会』であることを明示した。中小製造業にとって、AIを活用することは避けられない流れである。しかし多くの経営者が誤解しているのは、 AIをアシスタントとして活用しようとしていることだ。AIの真骨頂は、従業員の知見を超える専門家の顧問を迎え入れることにある。数年先、AIを使わない中小製造業が存続できるだろうか? AIをどう使うか、その答えは経営者の姿勢にある。中小製造業の経営者に問うべきだ。『今、あなたのスマホにChatGPTが入っていますか?』、『毎日使っていますか?』、この答えにNOと答える企業には「茹でガエル」の危機が待っている。

■技術伝承: 「協働ロボットによる未来への橋渡し」

技術伝承は、過去の知識と技術を未来へと継承するプロセスである。中小製造業においては、この伝承が特に重要である。伝統的な製造技術や職人の技が次世代に引き継がれることで、品質とノウハウの維持が可能となる。 協働ロボットの導入は、このプロセスに革命をもたらす。これらのロボットは人間の作業者と直接 協力し、熟練した職人の動きを学習し、再現する能力を持っている。これにより、熟練労働力の不足が問題となっている中小製造業において、技術の継続性が保たれる。さらに、協働ロボットは製造プロセスにおける安全性と効率性を高める。例えば、溶接やバリ取り作業など、人間には困難、またはリスクの高い作業をロボットが担うことで、労働者の安全と生 産性が向上する。

■恐竜化の時代: 「勝ち組の条件・・恐竜化」

「恐竜化」という概念は、現代のビジネス環境において、事業規模の拡大と同時に、進化と適応の必要性を象徴している。これには新しい技術への投資、業務プロセスの見直し、さらには組織文化の変革が含まれる。「恐竜化」した中小製造業は、新しい技術や手法を積極的に採用することで、市場での地位を確立し、さらに強化していく。デジタル化、自動化、AI技術を活用することにより、これらの企業は、より効率的で、コスト効果の高い顧客中心の製造プロセスを実現する。これは、ただ生き残るだけでなく、市場でのリーダーシップを獲得し、持続可能な成長を達成するために不可欠である。 さらには業界全体の思考方法の変革をリードする「恐竜化」企業が、新しい時代において、繁栄し続ける「勝ち組」となるだろう。

■結論: 「中小製造業のための2024年への道筋」

24年は、中小製造業にとって戦後80年の中で最大のチャンスとなる可能性が高い。円安、リショアリング、そしてFOIPによる地政学的な変化は、新たなビジネス機会を創出している。これらの機会を最大限に活用するためには、中小製造業の変革が不可欠である。重要な要素として、以下の点が挙げられる。

• デジタル化の推進:効率化と生産性の向上を目指す。

• AIとの共創:製造プロセスの最適化、品質管理、需要予測などにAIを応用する。

• 協働ロボットの導入:人間の作業者と協力して作業を行うロボットを利用し、作業の効率 化と安全性を向上させる。  

• 恐竜化の精神による適応と進化:市場の変化や新技術の出現に柔軟に対応し、進化し続けること。

私が代表を務めるアルファTKGでも、AIや協働ロボットなどの新商品開発に全力を注いでおり、 中小製造業のお客様と共に成長する道を積極的に探求していく所存である。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。

電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

 

オートメーション新聞は、1976年の発行開始以来、45年超にわたって製造業界で働く人々を応援してきたものづくり業界専門メディアです。工場や製造現場、生産設備におけるFAや自動化、ロボットや制御技術・製品のトピックスを中心に、IoTやスマートファクトリー、製造業DX等に関する情報を発信しています。新聞とPDF電子版は月3回の発行、WEBとTwitterは随時更新しています。

購読料は、法人企業向けは年間3万円(税抜)、個人向けは年間6000円(税抜)。個人プランの場合、月額500円で定期的に業界の情報を手に入れることができます。ぜひご検討ください。

オートメーション新聞/ものづくり.jp Twitterでは、最新ニュースのほか、展示会レポートや日々の取材こぼれ話などをお届けしています
>FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

オートメーション新聞は、45年以上の歴史を持つ製造業・ものづくり業界の専門メディアです。製造業DXやデジタル化、FA・自動化、スマートファクトリーに向けた動きなど、製造業各社と市場の動きをお伝えします。年間購読は、個人向けプラン6600円、法人向けプラン3万3000円

CTR IMG