日本の製造業再起動(103)【提言】米国FABTEC視察か【コボ(協働ロボット)元年への期待】

9月12日から15日の4日間、米国シカゴで「FABTEC」が開催された。FABTECは、精密板金業界にとっては世界3大展示会の一つとして歴史あるイベントであり、世界各国の機械メーカーが米国シカゴに集結し、最新技術と最新機械を競い合う展示会である。板金製造業を営む企業にとっても最新情報を収集するために世界中から多くの人が来場する。筆者はFABTEC視察のために米国に飛んだ。4年振りの視察である。数日間の視察を終え率直に感じた感想は、『思惑外れ』である。好景気の最中に開催される米国の国際展ではあるが、出展者の盛り上がりや熱量が少なく、華やかさにも欠けていた。筆者は仕事柄、過去30年にわたってFABTECに参加し、視察してきた。30年の前のFABTECでは、イベントの華やかさとプレゼン力に圧倒され、大いなる憧れと同時に良い勉強の場となっていた。世界の最新技術も数多く出展され『さすがはアメリカだ』との強い思いを抱いていたことを懐かしく思う。今年のFABTECでも、アマダ、三菱電機、村田機械、マザックなどの日本メーカーが出展し、 上位機械メーカーとして大ブースを構えて存在感を放っている。トルンプなどドイツメー カーの存在も大きいが、これらの国際的に活躍する上位機械メーカーからは注目される最新技術は発表されなかった。 注目されたのは、中国や東欧、トルコから出展されたレーザー加工機であり、ハイパワー競争である。強力なパワーを有するレーザーマシンが、数多くの途上国メーカー(先進国メーカーにはない)から出展されていることが今年のFABTECのポイントである。 ハイパワーレーザーの台頭で、戦車など軍需産業で需要のある厚板切断の技術革新が進行しており、米国産業の一部に受け入れられ、受注も好調である。この技術革新は日本では需要が少なく、レーザー加工機のハイパワー競争は注目に値しない。

日本の精密板金業界に活用される新技術はないのか?との視点でFABTECの会場を丹念に視察すると、小規模な出展ブースのなかに、日本の中小製造業にとって「必需品」となるであろう新商品の出展を多く目にすることができる。 日本でも最近話題になっている「協働ロボット」の台頭である。 協働ロボットは、コラボレーティブ・ロボット(略称:コボ)と呼ばれており、23年は精密板金業界における国際的な「協働ロボット元年」となる勢いである。なぜ、コボに注目が集まるのか?を解説したい。

自動車製造工場などで大量なロボットが稼働しているのは周知の通りであるが、このロ ボットは産業用ロボットと呼ばれ、大企業向け大量生産の自動化システムとして普及してきた。半面、コボ(協働ロボット)は中堅・中小製造業対象の多品種少量生産の自動化を対 象マーケットとしている新しいロボットである。FUNUCなど大企業ロボットメーカーも、新しい市場 (中堅中小製造業) のニーズに基づくコボ機能の開発や、新しいアプローチによる販路構築などコボ事業を積極展開している。精密板金業界では、多品種少量生産でロッドサイズが小さく、従来の産業用ロボットでは、オフラインでロボットプログラム作成を必要し、これに時間がかかって導入は難しい。「トップダウン」指向の障壁である。ところが、コボは現場主導型「ボトムアップ」指向であり、産業用ロボットの障壁を乗り越えるシステムとして注目されている。

精密板金業界では、人手不足の課題は深刻化を極め、ブランク (切断工程)やベンド (曲げ工程)では、大手板金メーカー(アマダやトルンプ) の「自動化システム」の普及が急速に進んでいる。FABTEC視察結果のとおり、これらの機械は正常進化を続けており、大きなイノベーションはないもの導入のメリットは小さくない。ところが、検査や溶接・バリ取り/研磨などブランクやベンドの後に来る工程では、従来どおり人手に頼り、熟練工によるノウハウを必要する作業が集積している。 この課題を解決するのがコボである。コボが精密板金業界の必需品となるのは疑いの余地はない。

能力ある熟練工がロボットに加工を教える(ダイレクトティーチング)、その後の単純リピート加工(ティーチングプレイバック)が、熟練工のノウハウに従ってコボが自動化作業する。コボは、ベテランの優秀なアシスタントである。 コボの活用による経営効果を発揮するためには、中小製造業のDX化実現が前提条件となる。

今回は、コボ活用による具体例を寄稿する予定であったが、紙面の都合で次稿よりこの内容を詳報する。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。

電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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