【産業用ロボットを巡る 光と影(47)】協働ロボットと産業用ロボットとの違いとは?利点と弱点を把握した上で導入せよ!

最近、顧客から協働ロボットに関する質問が多く、ネット上で正しくない記載を目にするので、今回は協働ロボットと産業ロボットとの違いについて述べたい。質問でよくある内容は、(協働ロボットの方が)「通常の産業ロボットより優秀そうだ」「値段が高いのだから、導入後のリスクは低いだろう」「可搬重量とアームの長さ(稼働範囲)がマッチすれば問題は起きないはずだ」などである。これらは全て短絡的で危険な考え方で、大きな後悔を生む可能性がある。恐らく、このような考え方をする理由は「協働ロボットは最近になって販売されたものだから、新しい革命的な技術が使われているはずだ」という誤解から生じたのであろう。これらの誤解も正していきたい。

協働と通常のロボットの違い

協働ロボットは「人と協働しても安全が確保されているロボット」であることは、多くの人が知っているので、ここでは通常の産業用ロボットとの(特に特徴的な)違いを以下に述べる。1)サーボモータの出力(ワット)が劣るので、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」が大きく劣る。2)ダイレクトティーチングができる。3)マニピュレーターにトルクセンサーが搭載されている。4)物理的に怪我をしにくい構造である。5)設備を簡単に配置・移動できる。

上記を少し解説すると、1)の「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」については、筆者が何度も述べてきているので割愛するが、要するに「ハンドリングで使用するなら問題ないが、加工での使用はNG」である。2) ダイレクトティーチングは、ティーチペンダントを使わずに手動でロボットを動かしてティーチングすることなので、「ペンダントを使う技術力」や「ティーチングソフト」が無くても問題ない。3)各軸のトルクセンサーが人とぶつかったこと感知して、ロボットが停止する。ただ、トルクセンサーが3軸にしか搭載されていないロボットメーカもあるので、価格とセンサーの感度との折り合いを考えて選ぶべきである。4)手などが挟まれないようなマニピュレーターの構造や、全体的に丸みをおびた形をしている。5)ロボットが軽いだけでなく、安全柵なども不要なため、ロボットを簡単に移動できる。(通常の産業用ロボットは、設置すると移動が大変)。

なぜ、値段が高いのか?

協働ロボットの値段は、通常の産業用ロボットよりも1.5から2倍くらいなので高く感じる人が多いだろう。理由は以下である。1)各軸に搭載されているトルクセンサー。2)「協働モード(各メーカーで仕様は異なるが、人が近づけば速度が落ちるモード)」などのソフト(基盤を含む)の搭載。これらの追加の分、値段が高くなる。なお、「どれくらい速度が落ちるか」であるが、早くても250mm/secで(メーカーによって異なるが)人の「顔」付近を動く際は、「腹」や「足」付近よりもかなり低速になるように設定しているメーカーが多い。

ちなみに「サーボモータの出力が低いんだから、値段が下がるのでは?」という意見もあるが、近年サーボモータの値段は従来よりだいぶ下がってきているので、出力が低いものも原価はさほど変わらない。それよりも、センサーやソフトの追加の方が影響が大きいので、協働ロボットは値段が高くなる。

革命的なロボットなのか?

ロボットの素人がもつ誤解の中で「最近になって販売されているロボットだから、新しい革命的な技術が使われているはずだ」というのあるが、大きな間違いである。

まず、簡略に協働ロボットが登場した背景について簡略に述べる。2013年12月までは、「サーボモータが80W(ワット)を超えると産業用ロボット」「80W以下は産業用ロボットではない」また「産業用ロボットでは、安全柵などで人とロボットを隔離することが必須」であった。つまり80W以上では人とロボットが協働で作業することができなかった。これが2013年12月24日のISOの法改正により「80W以上でも安全が確保されれば、協働してよい」ということになった。これにより、各ロボットメーカーは「サーボモータの出力を落とす」「マニピュレーターの構造を変える」、また「トルクセンサ」「協働モード」などを搭載して「安全を確保」し、協働ロボットの販売に力を入れた(厳密には2013年以前にも協働ロボットは存在したが、法改訂の前は80W規制があったので、あまり実用的ではなかった)。つまり技術的な革命が起きたわけでなく、法改正が革命だったのだ。

よって、協働ロボットは「ロボットそのものの能力」は(低出力なので)「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」が大きく劣り、「速度」も遅い、というロボットなのだ。したがって、もしロボットで行う用途が、「バリ取り・研磨・切断・溶射・穴あけ・肉盛り・ローラーヘムなどの加工」であれば、大きな後悔をすることになる。(ロボットメーカーの選択で大きく出来栄えが変わるが)加工であれば通常のロボットで行うことを強く勧める。

ティーチングソフトとの相性は?

最近、ソフトに関して「マシニングセンタをCADCAMで作ったプログラムで動かすように、協働ロボットを動かしたい。良いティーチングソフトはないか?」という質問があった。Yes/Noを答える以前に、この質問自体に大きな誤りがある。まず、上述したとおり協働ロボットで加工はNGである。では通常の産業用ロボットであればマシニングセンタの様な加工ができるか、というとそれも違う。なぜなら、産業用ロボットはマシニングセンタに比べ汎用性はあるが、精度や剛性が劣る。

そしてソフトとの相性であるが(「軌跡精度」「絶対精度」が必須なので)良い順番に、マシニングセンタ、通常の産業用ロボット、協働ロボットとなる。もし、協働ロボットをソフトで動かそうとしても、現場でのズレを再ティーチングする手間を考えると、ダイレクトティーチングで行った方が楽だろう。したがって、「まず協働ロボットの導入だ」ではなく「どのような作業を自動化したいか」を考慮して、加工機やロボットを選択すべきである。

◆山下夏樹(やましたなつき)

富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。

福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。

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