令和の販売員心得 黒川想介 (95)

『何事に於ても最初は肝心』である。最初は大事だから小事といえども軽々しく扱ってはいけないという意味である。これを更に深読みすると、何事をやるにも最初は大きなエネルギーを使わなければならない。だからと言って最初から、馬力を出しても空回りしてしまう。だからその大きなエネルギーを細心の注意に向けなければならない。事がうまく運ぶようになれば力のかけ方がわかるので力まかせの馬力を出しても事はうまく運ぶというという解釈ができる。機器部品販売員が一番苦手とするのは新規客へのアプローチである。新しくFAの市場がスタートした昭和の頃は現在とは違って飛び込み訪問し際し、新規客はわりに寛容であった。それに情報やデータが無かったから飛び込み訪問が唯一の手段の様なものだった。新規客側が寛容だったとはいえ、断われる不安は大変なものであった。断わられる不安を払拭しようとして全力を出すと、どうしても販売側のアピールしたい長所に熱が入ってしまう。昭和時代の販売員は何度か痛い目にあいながら最初が肝心であることを学んだ。現在の販売環境は飛び込み訪問は許されないし、飛び込み的アポ取りは非常にむずかしい。したがって昭和時代のように断られる不安を何度も経験して新規客へのアプローチの仕方を身につけることはできない。現在の販売環境で新規客を訪問するのは①ネットを通じて訪問や用件の依頼があった。②取扱いメーカーからの紹介。③顧客の同僚からの紹介などによるものである。これらは昭和時代のように新規客に自力で初回のアプローチするのではなく、他力で初回のアプローチをする事になる。④自力でやるとすれば現在の顧客に他工場や他部門の人や協力会社の人の紹介を頼んで、それが実現した時である。いずれにしても紹介や依頼というワンクッションあるために断わられるという不安感はわずかなものである。そこに油断ができる。不安感やこわさをあまり経験しない営業に慣れているために入念に準備を怠ってしまう。機器部品の市場では最新の商品資料や取扱い商品一覧があればなんとかなるという思いでアプローチすることになる。これでは新規客に当初から興味があるかないかと突き付けているようなものだ。余程のうまいタイミングに出合わない限り、事はうまく運ばない。国益を守り、相手の国に譲渡をせまる外交交渉の場面をテレビ等で見ることがあるが互いに外交無礼の応酬から始まっている。外交交渉は相手の思惑かどの辺りあるのかをまず探り出さなくてはならない。そのために相手の口を軽くさせる外交辞令は欠かせないようである。新規客へのファーストアプローチにおいても社交辞令は欠かせないのだ。社交辞令は相手の気持ちをなごませて口を軽くしてくれる。しかしそれが取って付けたようなお世辞になってしまえば逆効果である。社交辞令に慣れてなければ準備して置くべきである。本題に入って、情熱を傾けて商品等のアピールをしても何の感想もなく終了は困ってしまう。社交辞令が生きていれば感想はもらえる。それが辛辣なことであってもありがたいのだ。相手の思惑を知る糸口になるからだ。糸口をたどってコミュニケーションを続ければおもしろい事実にも当る。そううまくはいかなくてももう一度位会ってもいいと感じてくれる。外交交渉は何回も回数を重ねて解決していく。新規客の場合も顧客にしていく時の基本的流れは同じである。最初が肝心であり、最大の力の入れどころは社交辞令を駆使して話題の糸口を何としてもつかむことにある。安易に営業側の商品等の話に頼っていけない

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