令和の販売員心得 黒川想介 (92)

産業用ロボットの市場規模は年々拡大の一途を辿っている。産業用ロボットはマニピュレータといわれる腕の部分と、軸である複数の関節でもって自動制御をする自動機である。そのためなのか同じ自動機でも人型のイメージを強く持たれる自動機である。
これまで製造現場では、省力化はもちろんのこと、品質安定、生産力、生産効率の向上を目指して生産ラインや機械装置の自動化を進めてきた。産業用ロボットが昨今、脚光を浴びるようになったのは、人手不足感が大きく影響している。多種生産では部材の投入や取り出しの自動化、段取り替えの自動化は、メカ的に複雑になり、設備額も高くなる。そのため人手で対応してきた経緯がある。
特に中小の製造現場では単純作業の人手不足感は大変なもので、協働ロボットを使えないかといった需要は増えている。協働ロボットは、コスト的にも技術的にも使いやすくなっているとは言っても、簡単に投入・取り出し、あるいは段取り替え作業の代わりにすぐにでも使えるものではない。長年、製造現場で改良改善に取り組んできた技術者がいて協働ロボットの導入ができるのである。
つまりそれまでやってきた設備の自動化技術を蓄積しているから協働ロボットの設計・工夫がうまくいくのである。もっとも生産ラインを根本的に変えてしまうほどの設備予算が潤沢なら話は別だが、一般の製造現場にそのような余裕があるところは少ない。
したがって販売員は人手が足りなくて困っているという愚痴めいたお困りごとを聞いたからといって協働ロボットを単純に売り込んでも解決にはならない。これはロボットの使い方の問題ではなく、設置条件を整備する機構技術やコストの問題である。だから人手不足という情報だけで動くのではなく、現場の諸事情を販売員はよく観察しておかなければならない。
しかし多くの販売員は当然ながら売上を上げたいという気持ちが強いために案件がないかと聞き耳を立て、売りたい商品のアピールやサービスに力を入れる。だから日頃の顧客状況を観察することを怠ってしまう。
観察するということは、単に見ることではない。製造の現場の状態や顧客全体の動きを知りたくなることなのだ。実際に製造現場に入れないので見ることができないと販売員はいうが、そういう問題ではないのだ。現場の技術者は日頃、いろいろな話をする。つまりそれらの話は情報なのだ。それらの情報は顧客情報としてはわずかなものだ。そこで顧客が話す情報に興味を持ち、質問を重ねていく。そしてそのピンポイント情報を徐々に広げて顧客の全体像に近づける。それが観察をするということなのだ。
現在の販売員は昭和のように顧客訪問が頻繁ではない。かつては些細な要件でもそれを口実にして訪問していたが、現在はそれらのことはメールで済ませてしまう。効率的なのだが、訪問しなければ、いわゆる観察できないことは山ほどある。だから納品や要件の打ち合わせで報恩しても必ず観察する癖をつけることだ。
国内の製造業では現場で働く作業者はますます減少する。それを見据えて産業用ロボットの導入を真剣に考える工場は増える。大手や中堅企業の現場はFA化はかなり進んでいるが、設備にかける予算は潤沢であるから、人手不足を踏まえて高価な産業用ロボットに耳を傾けてくれるだろう。販売員が担当する多くの中小工場の現場は、自動機械でものづくりをしているが、自動機の動く前後の工程にはまだまだ作業者が多いことに気づくだろう。
FA化には段階がある。産業用ロボットをアピールする前に、工夫して省力化を試みるようなことを示唆して、顧客の背中を押すのは販売員の営業力なのだ。

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